15 新生魔王軍始動?
「ところで、ルイスちゃん?」
ルイスは外見が15~16歳ぐらいに見えるため、フィリアは彼女を”ちゃん”付けで呼んだが、実際には魔族であるルイスは少なくとも17歳のフィリアよりも長く生きている。
「なんですか…?」
アルスの背後から、ルイスが恐る恐る返事をするとフィリアは笑顔で、他の女の子(美少女)を連れているアルスに威圧と不機嫌の混ざったオーラを当てながら、彼女に質問してくる。
「アルスの所に何しに来たのかな?」
人見知りのルイスは少し間を置いてから、オーラを当てられて萎縮する元魔王の背後からそんな彼と事前に打ち合わせた答えを口にする。
「遊びに来ました…」
「そうなんだ。でも、もう日が暮れそうになっているけど、今晩はどこに泊まるつもりかな?」
そんなルイスとは逆にフィリアは、矢継ぎ早に彼女に質問をする。
「アルスさ… んの家に泊めてもらいます…」
「ルイスちゃん、駄目よ! こんなケダモノと同じ屋根の下で二人っきりなんて!? 妊娠させられるわよ!」
「誰がケダモノだ!!」
ワンテンポ遅れて答えを返すルイスに対して、間髪入れずに言葉を返すフィリアとツッコミを入れるアルス。そして、貞操の危険を感じたのか、すぐさま距離を取る背後のルイス。
「いや、妊娠なんてさせないよ?!親友の娘に手は出さないから!」
それに気付いたアルスは、ルイスにだけ聞こえるようにそう伝えると、彼女は同じくらいの声量で距離を取ったまま疑いの眼差しを向けながらこう言ってくる。
「だって、アルス様… 私を拘束魔法で捉えた時に、厭らしいことするって言いましたから」
「バカヤロー! 過去の俺!!」
脅しだったとはいえ、軽率な方法を取った過去の自分にツッコミを入れる。
まさに因果応報である。
「そっ それに、家には両親がいるからね!」
「いないわよ?」
「えっ!?」
アルスとフィアナのやり取りを聞いたルイスは、先程より倍の距離を取り、彼に対して明らかに不信感を抱いている。
「アルスが冒険者組合に出かけている間に、強力な魔物が現れたという報告が入って、うちの両親と一緒に討伐に出かけたの。帰るのは明後日になるって言っていたわ」
フィリアはアルスが、そんな目で見られているのを見て、即座に誤解を解いてくれる。
そのおかげかルイスは、先程までの少し離れた所まで戻ってくる。
「そういうわけで、ルイスちゃん!」
「ひゃうっ!?」
フィリアは一瞬にして、ルイスとの間合いを詰めると彼女の腕を掴んで、知らない人に腕を掴まれて怯えるルイスを尻目に
「今日は私の家に泊まりなさい!」
そう言って、自分の家に引き摺り始める。
「いえ、結構です…」
人見知りにとって、知らない人の家に泊まるなど苦痛以外の何物でもなく、ルイスは必死に抵抗するが、彼女をアルスの家に泊めさせたくないフィリアは強引に引き摺っていく。
「遠慮しなくていいから!」
「遠慮していないです…」
「いいから、いいから! あっ アルス。明日の朝食は、家で8時だからね~!」
だが、抵抗虚しく家の中に連れて行かれ、その後をハティが尻尾を振りながら付いていった。
「まあ、俺の家に二人きりで泊まるより、モラル的にはいいかもしれないな。それに、人見知りもマシになるかもしれない。魔族とバレなければだが… 」
一抹の不安を抱えながら、二人を見送ったアルスはシャルーを連れて自宅へと帰っていた。
「明日こそ稼がないと… しかし、大きくなったアスイオスの娘に会うとはな。確実にあの時から、時が経っているんだな… フィリアに魔族とバレていないといいが…」
ベッドの中で今日を振り返り、感慨に耽ると親友の娘の無事を祈る。
次の日―
アルスは朝食に呼ばれたので、8時にフィリアの家に来ていた。
そして、そこで驚きの光景を目撃する。
「ルイスちゃん、このオムレツをテーブルに置いてくれる?」
「はい。フィリアお姉様」
「ルイスちゃん、このコンソメスープを運んでくれる?」
「はい。フィリアお姉様」
(なんだと…)
何と一夜であの人見知りのルイスが、すっかりフィリアに心を開いており、更にお姉様と親しみを込めて呼んでいる。彼女の方が歳上なのに…
昨晩、一体二人の間に何があったのか解らないが、言えることはあの人見知りのルイスが、フード無しに普通にフィリアと会話をしていることである。
しかも、楽しそうに。
「あっ おはようございます… アルスさん… 」
しかも、ルイスは彼にはまだ慣れていないのか、目を逸らしながら朝の挨拶をしてくる。
(我よりも明らかに、フィリアに懐いている!?)
これは、人見知りは同性の方が話しやすいというのと、アルスとルイスが出会って過ごした時間は半日ぐらいで、フィリアと彼女が過ごした時間と然程差がないからである。
アルスはこれがNTRかと思いながら、とんでもないことに気がつく。
(新生魔王軍、壊滅したーーーー!!)
こうして、新生魔王軍は結成一晩で、構成員が全て勇者(♀)に懐柔され壊滅してしまう。
恐るべき勇者の末裔―
本人も気づかない内に新生魔王軍を、壊滅寸前へと追い込んでしまった。
(スローライフでも始めるか~)
朝からショックを受ける元魔王は、朝の優しい光に包まれながら、心の中で魔王軍立ち上げを諦めて、これからの人生を考え始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます