13 第一回魔族少女と行く亜人退治
依頼を受けたアルスとルイスは、先程まで戦っていた森近くまで戻ってくると、アルスは鞄から町の人に見つからないように、中に隠れさせていたシャルーを出させると戦闘態勢を整えることにする。
戦闘準備といってもアルスは武器を使用しない、その理由は偉大な魔王は武器を使わないという矜持からであり、今もそれを信条としている。
だが、アルスは<臨機応変><当意即妙><柔軟な対応>を信条とする魔王でもあるため、必要に迫られれば扱う判断をするであろう。
※美辞麗句を並べて言い訳しているが、決してプライドがないわけではない!
養成学校では杖を扱っていたが、あくまで普通の魔法使いを演じるためであり、基本素手で左右の手による多重魔法が彼の基本戦闘スタイルであり、状況によって剣や杖と考えているが今回は素手で挑む。
ルイスもフードマントを脱ぐと、背中に背負っていた鞄にしまう。
「ルイス、鞄をこっちに」
「はい」
アルスは自分と彼女の鞄を一箇所に集めて、地面に置くと結界魔法を使用して、荷物を保護する。
「これで、ここに置いておいても大丈夫だ」
彼の強力な結界を破れるものは、少なくともこの付近にはいない。
「では、ゴブリンの元に向かおう」
「ハティに臭いを追跡させます。ハティ、ゴブリンの臭いを追跡して」
「わん!」
ハティは主人の命令に鳴いて答えると、地面に鼻を近づけて臭いを嗅ぎ始め、森の中に入っていく。
(同じ子供でも、ハティはシャルーより役に立つな…。まあ、シャルーはペットだから、いいか!)
森の中をゴブリンの臭いを嗅ぎながら、尻尾を振りながら一行の先頭を短い四足で歩くハティを見て、アルスはそのような感想を持つ。
先頭を歩くハティは立ち止まると、尻尾を振るのを止めて「うぅー!」と低く唸り始める。
「アルス様、ハティが前方にゴブリンを発見したようです」
2人と2匹は物音を立てないように、木に隠れながら慎重に前進するとルイスが遠くにゴブリンを発見する。
「数は…… 10体います。あれが目標だと思われます」
「雁首揃えて、一緒にいるとは都合がいいな」
魔族であるルイスは視力が人間よりも優れているため、同じ位置からでも彼女のほうが発見は早い。
報告したルイスは、左右に持った剣を強く握ると心身ともに戦闘態勢にはいる。
「ルイスはゴブリンを討伐する事に… その… 抵抗はないのか?」
亜人であるゴブリンは、魔族からしたら強いて言うなら人間よりも近い存在であるため、アルスは今更ながらこのような質問をする。
「えっ? どうしてですか?」
だが、第一声でそう答えた彼女は、不思議そうな表情で話を続ける。
「アルス様は家畜を殺す時に、『糧となってくれてありがとう』と感謝しても、屠殺は止めないでしょう? なので、感謝はしますが躊躇はしません」
「そっ そうか… それならいいんだ…」
(家畜を屠殺した事がないから、その気持は理解できないな…。しかし、この娘は戦闘体勢に入ると普段と違って、思考が完全に魔族のそれになるな…)
魔王時代なら感心するところだが、人間世界で暮らして人間の価値観に侵食されている今のアルスは複雑に感じてしまう。
「我が魔法攻撃を仕掛けるから、撃ち漏らして接近してくるゴブリンを相手してくれ。まあ、本気の我の魔法から、ゴブリン如きが逃れられる訳がないが」
「お任せください!」
自信満々にそう言ったアルスは、シャルーにも指示を出す。
「あと、シャルーは安全な後方で待機!」
「わかりましたにゃー!」
もう完璧に使い魔ではなく、ペットとして扱われる子猫シャルー。
指示を終えると、両手にそれぞれ魔力を溜め始める。
「くらえ、これが最高位魔法<インフェルノ>だ!!」
アルスが両手を前に出して魔法を唱えると、ゴブリン10体の足元に巨大な魔法陣が出現する。
その魔法陣は直径10メートルほどあり、ゴブリン達は気付いて逃げ出そうとするが、逃げ切れずに魔法陣から吹き出す巨大な炎の柱に飲み込まれ一瞬にして灰と化す。
「フフフ、見たか我が最高位魔法… 地獄の業火<インフェルノ>を!」
完全にオーバーキルであり、これはルイスに自分の魔力を見せつけ、魔王として尊敬されたいというアルスの子供のような自己顕示欲であった。
「どうだ、ルイス! この魔王の偉大な魔法の威力を!」
ゴブリン10体を一瞬で消し炭にした元魔王は、ルイスにドヤ顔で彼女の様子を見るが
「アルス様… 素晴らしい魔法だとは思います…。でも、証拠の耳まで消し飛んでいるんだけど? 調子乗りすぎ! 加減を知らないの? 馬鹿なの?」
ルイスは呆れており、後半タメ口で更に罵声を浴びせてきたので、完全に裏目に出てしまった。
「やりすぎたな… ゴメンゴメン」
「次からは、ちゃんとしてよね。そうでないと時間の無駄だわ」
「すみません」
(確かに調子に乗りすぎた我も悪かった… とはいえ、酷すぎる! 戦闘状態のルイスは、口が悪すぎてキライだ… )
年下の罵声に、心の中で落ち込む。
陽も落ちてきたので、今日はこれぐらいして二人は家に戻ることにした。
「あの… アルス様… 先程は言い過ぎました…。申し訳ありませんでした…」
家路を歩いていると横を歩くルイスが、先程の暴言を辿々しい口調で謝罪してくる。
こちらを見ての謝罪ではないが、人見知りなので仕方ないと思うアルスは、その事には触れずに返事をする。
「いや、もう気にしていないから」
「ありがとうございます」
フードを深く被っていて顔全体はよく見えないが、無礼を許されてホッとしたのか、彼女の口元には笑みがこぼれている。
(普段のルイスは、素直で良い子だ。守りたいこの笑顔、フードで表情はよく見えないけど)
アルスは家の近くまで来ると、まずルイスに次のような指示を出す。
「いいかい、ルイス。君はナリトの町の<冒険者養成学校>の同期で、遊びに来たという設定で行く」
「はい」
「なので、誰かいる時は”様”付けは無しにしてくれ。同期が様付けはおかしいからな。あと、変身魔法は絶対解除しないこと」
「わかりました… 」
次にアルスは鞄から、ロープを取り出す。
「そして、ハティにこのロープを首輪代わりに装着させてくれ」
「これは一体?」
「これは我が特別な魔法を掛けた魔法のロープで、ハティを子犬サイズにする所謂マジックアイテムだ」
アルスは大きな犬では押し通せないと判断して、即席でマジックアイテムを作成していた。
ルイスが指示通りハティの首に、ロープを巻くと子狼は見る見るうちに縮んで、子犬サイズになる。
「アルス様、凄いです!」
「わんわん」
子犬サイズになったハティも嬉しそうに尻尾を振っている。
まあ、戦闘時以外常に振っている気もするが、可愛いのでよしとする。
「ふふふ、我はこう見えて魔王時代に、よく魔法アイテムを作成していたのだ。例えば、暗い場所を照らしてくれる玉とか… 」
アルスは魔王時代に魔道具を作っていたが、戦闘用の物よりも日常生活が少し便利になるというようなモノが多かった。
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