12 魔族少女が、仲間になった!
拘束魔法から解放されたルイスは、左右に持った剣を鞘に収める。
「どうだ、ルイスよ。我が魔王であるとわかったであろう!」
「!!」
鞘に剣を納めた彼女は、強気な性格も鞘に収めたように、気の弱そうな表情になっており、アルスに話しかけられると少し怯えたような表情になる。
そして、ルイスは地面に置いてあったフードマントを慌てて拾い上げ砂を払うと、羽織ってフードを深く被りようやく話を始める。
「すみません… 私… 人見知りなので… こうしないと初対面の人とは話せないんです…」
そう言ったルイスであったが、目を合わせるのが恥ずかしいのか、目線を彼から度々逸らしている。
魔族の女性戦士は肌の露出が多い服を好んで着用しているが、恥ずかしがり屋のルイスは露出が少ない地味な黒で統一された服と鎧を装備している。
「いや、お前! 戦闘中はガッツリ喋っていたじゃないか! しかも、タメ口で!!」
まだ、タメ口で喋られたことを気にしている、器の小さい元魔王であった。
「すみません! すみません! 戦いの最中は気分が高揚するのか、普通に喋られるみたいで… 」
あと、魔族の性か好戦的にもなるらしい。
彼女は自分が人見知りになった経緯を話し始める。
「お父さんは魔王様と別れてから、田舎でもかなり人里離れた所に引っ越しまして… そこで私は基本的に家族以外とは、この魔狼達としか接してなかったので… そのためか人(魔族)と話すのが苦手になりまして… 」
そして、相変わらず目が合うとすぐに目を逸らす。
「それで、ルイスよ。お前の父親はどうしたのだ? 我はお前の父と会いたかったのだが?」
「父は… その… ぎっくり腰になりまして… 」
「アスイオスのヤツもぎっくり腰なのか!?」
アルスは親友と使い魔の現在の体調に、200年という時の流れを痛感してしまう。
「はい。そこで代わりに私が父の名代として、魔王様に会いに参りました。でも、魔王様にあまりにも覇気が無く、見た目も弱そうで本物かどうか疑わしかったので、お力を試してしまいました。すみませんでした」
この町にいることはキャスパーグから聞いており、近くまで来てからキャスパーグに預けておいたアルスの匂いのついたハンカチをハティに嗅がせ、臭いを辿って町に向かう彼を追いかけてきたらしい。
そして、アルスを見て魔王とは思えなかったので、戦って力を試そうと何とも魔族らしい方法を取ったのであった。
「それで、アスイオスは何と言っていた?」
「はい。自分の体調が戻るまで、『私にお側で力を貸すように』と言いました。なので、父が参上するまで、私と相棒のハティがお使えさせていただきます」
「わん!」
ルイスが腹の前に右手を当てて執事のような一礼をすると、それにあわせてハティも鳴く。
「そうか…」
(どうしよう…。我、魔王に戻ることすっかり忘れていたから、アジトも何も準備していないぞ… )
「ところで、今晩の泊まる場所はあるのか?」
「いえ、人間のお金の持ち合わせは無いので、道中食料は狩りで得て、夜は野宿してまいりました」
だが、魔族である彼女がお金を持っているわけがなく、そうなると返ってくる答えは自ずとこのようなものになるので、アルスは自宅に泊めることにする。
「女の子が、野宿なんて… ましてや、親友の娘を野宿させるわけにはいかない…。ルイスは、人間に変身できるのか?」
「はい、変化の魔法は使えます。ただ、ハティが… 」
「まあ、大きい犬で、押し通せるだろう…。我の家に来るがいい。<冒険者養成学校>であった仲間が遊びに来たということにするから」
「わかりました」
「だが、アジトの資金を稼ぐために、今から冒険者組合で依頼を受けて、稼ぐ事にするからルイスも人間に化けて付いてくるがよい」
「はい、魔王様」
アルスは、まだ時間があるので、少しでも資金調達をすることにした。
「あと、人前では我の事はアルスと呼ぶこと。我が魔王であることは、時が来るまでは余計な災いを招かないためにも、隠さねばならないからな」
そう聞こえのいい事を言ったが、本当のところはもちろんフィリアにバレて、デストロイされないためである。
「わかりました、魔― アルス様… 」
彼女はぎこちない感じで、呼びなれていない彼の名前を呼ぶ。
「まあ、追い追い慣れてくれればいいさ。さあ、町に行こうか」
(まあ、スローライフをするにも、魔王のアジトを作るにも金はかかるからな。稼いでおいて、損はないだろう)
町に向かうために、ルイスは変化の魔法で人間に変身する。
変身したといっても角が消え、尖った耳が普通の耳になっただけではあるが、それだけで人間の美少女に十分見える。
まあ、せっかくの可愛らしい顔もフードを被っているので、半分隠れてしまってはいるが…
アルスはルイスと大きな犬のハティ、鞄の中にシャルーを入れると冒険者組合に向かう。
「アルス様…。私とハティは外で待っています… 」
人見知りを発動させたルイスは、冒険者組合の外で待つといい出したので、アルスは了承すると一人で冒険者組合の中に入る。
田舎の冒険者組合なので、建物自体が田舎の郵便局ぐらい小さく、中にいる冒険者も少ない。
アルスは2つしか無いカウンターに、養成学校で発行された冒険者証明証を見せて、先程の森での魔物退治の依頼を受ける事にする。
依頼内容は<森に住み着くゴブリン10体の討伐>で、証拠として左右の耳合せて20個持ってくる事で、依頼内容としては初級でアルス一人でも余裕の内容であり、ルイスと一緒なら楽勝であろう。
冒険者組合から出てくると、ルイスがハティと共に近寄って来たので、依頼内容を説明する。
「腕がなりますね」
「わん!」
魔族は亜人を下等と見ているし、利害次第では敵対する事もあり、そして、何より弱肉強食が掟であるため、問題なく討伐することができる。
こういうところは、二人共魔族である。
まあ、アルスは人間として10数年過ごしたため、気持ち的には人間側になっていて、亜人を敵と認定しているのかもしれない。
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