11 元魔王 対 魔剣士少女
前回までのあらすじ
いきなり目の前に現れた親友の娘ルイスは、勝負を挑んできた。
だが、彼女が引き連れる相棒の魔狼ハティは、シャルーに負けず劣らず可愛い子狼だったので、可愛いものが好きな元魔王はつい見惚れてしまう。
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「マジックバリア!」
ハティに気を取られてしまったため、左手に溜めていた魔力を使ってマジックシールドで防ぐことにするが、そのまま受ければその威力と質量にマジックシールドは耐えられても、支える腕がその衝撃に耐えきれず、最悪折れてしまうかもしれない。
そこで、掌を斜めにしてマジックバリアを斜めに発動させると、振り下ろされた魔剣ティルファングをそのまま斜めに受け流す。
そして、すぐさま後ろに跳躍して、ハティの噛みつき攻撃を回避する。
「フフフ… 腐っても元魔王! 近接戦闘もそれなりに心得ておるわ!」
このように余裕の発言をするが、マジックシールドを張った左手は、衝撃を全て受け流せなかったのか少し痺れている。
「はあぁぁぁ!!」
ルイスは再び魔剣を脇構えに構えると、地面に置いた剣先を引き摺りながら、アルスに突進してくる。
しかし、その分不相応な武器である大剣を操るための彼女の剣技は、円を描くように振り遠心力を利用して斬撃をおこなうため、隙もモーションも大きく冷静なアルスは体捌きだけで余裕で回避することができる。
更にハティとの連携もあまり上手く行っておらず、子狼の攻撃も難なく回避する。
(流石はアスイオスの娘、あの細い体で上手く魔剣ティルファングを扱っているが… )
「おい、アスイオスの娘よ」
「ルイスよ!」
「ルイスよ。お前には、魔剣ティルファングは大きすぎるのではないか? もう少し小振りな剣を使ったほうがいいぞ?」
「そうね…。少しアナタの事を甘く見ていましたね。この剣を使ったのは、私がアスイオスの娘だと信じてもらうためよ。次からは、お言葉に甘えさせて貰って、愛用の剣を使わせてもらうわ」
彼女は余裕の笑みを浮かべながら、背中の鞘に魔剣を格好良く収めようとする。
―が、何度やっても上手く収まらない。
「あっ あれ? おかしいな… 入れ、入れ!」
暫く悪戦苦闘していたが、結局鞘には収まらず涙目になってくる。
「それほど長い剣を、背中の鞘に入れるのは無理だろう。おとなしく背中から鞘を外して、入れなさい」
困っている親友の娘の姿を見かねたアルスが、そのように助言するとルイスは涙目で彼の方を”キッ”睨む。
「今、私の事、馬鹿だと思ったでしょう!?」
「親友の愛娘に、そんな事を思うわけがないだろう。さっさと、鞘にしまいなさい。ここで見守ってあげるから」
涙目でそう言ってくる親友の娘を、アルスは暖かな目で見守る。
「ハティ!」
アルスを睨んだままハティを呼び寄せると、背中から外した鞘の鞘口近くを口で噛ませ支えさせると、魔剣ティルファングをようやく鞘に収める。
そして、左手を目の前にかざして収納魔法を詠唱し、魔法陣の中に空いた異空間にティルファングを収納すると代わりに二振りの剣を取り出して、左右の腰に装着すると鞘から引き抜いて左右に持って構える。
「おまたせ。ここからが、本番よ!」
「なあ、ルイスよ。我としては親友の娘とこれ以上戦うのは気が引けるのだが、もう止めんか?」
「アンタが仕えるに値するのか確かめたいのよ!」
「そうか… なら仕方がないな… 」
アルスとルイスは、10メートルほど距離を取って、対峙すると彼女の方から動き出す。
「はあっ!」
「速い!」
ルイスは先程までとは違い俊敏な動きで、10メートルの距離を一気に詰めるとまずは右手の剣を彼に振り下ろす。
アルスはその斬撃を右手に溜めた魔力を使って、直径3メートルぐらいのマジックシールドを張り振り下ろされた剣とそれに続く左手の横薙ぎの斬撃を防ぐ。
そして、それと同時に左手で拘束魔法を発動させる。
「闇魔法イビルバインド!!」
すると、アルスの足元を中心に、黒い魔法陣が直径10メートルまで一気に広がり、そこから勢いよく魔力の黒い鎖が何十本も出現して、ルイスに向かって伸びていく。
「はあっ! やあっ! たあっ!」
流石のルイスも直径10メートルを移動しきれず、左右の剣で襲ってくる魔法の鎖を切り払うが鎖の数が多いため捌ききれず、みるみるうちに彼女の手足や体に何本も絡みつき見事彼女を拘束することに成功する。
「まさか、こんな強力な魔法の多重魔法が使えるなんて!」
「ククク… 魔王である我を甘く見すぎたな」
「うぅ…!」
悔しそうな表情のルイスに、元魔王は余裕の表情でこう答えるが、内心では彼女の予想以上のスピードにヒヤヒヤしていた。
(それにしても、流石はアイツの娘だ。予想以上に速かった、実際良く間に合ったものだ。流石の我も先程の鞘の件の間に、魔力を溜めていなければきつかったな)
アルスは鞘の件の間に、姑息にも密かにこの強力な拘束魔法の魔力を溜めていた。
でも、そのおかげで、彼は親友の娘相手に、元魔王の威厳を保つことに成功する。
「助けて、ハティ!」
ルイスがハティに助けを求めてそちらを見ると、
「わんわん! わんわん!(なにこれ~! なにこれ~! )」
子狼は楽しそうに蝶々を追いかけている。
「ハティーーーー!?」
彼女は涙目で相棒の名を叫ぶが、蝶々に夢中な子狼には聞こえていない。
「使い魔としては、幼すぎたな。見よ、我の使い魔を! ちゃんと命令どおりに待機しているぞ!」
アルスが親友の娘に同情しながら、自分の使い魔を見る。
だが―
「にゃー! にゃー!(ちょうちょ~! ちょうちょ~!)
「シャルーーーー!?」
「アンタの使い魔も一緒じゃない!」
それはそうだ、幼さではシャルーの方が幼いのだから、同じく蝶々を追いかけてしまうのは仕方がなく、
(何故大丈夫だと思ってしまったのか? 余計な恥を掻いてしまった)
と心の中で自分自身を責める元魔王であった。
(おっと、遊んでいる場合はない。こやつほどの実力なら、拘束を解くのも時間の問題であろう)
「さて、拘束が効いている内に済ませるか」
アルスはイヤらしい手つきをしながら、ルイスに近づいて行く。
「ちょっ ちょっと、何をするつもりなのよ!?」
「何って… そりゃあ、口では言えないことだろう。貴様は先程から、元魔王で父親の親友にタメ口をきく無礼者だからな! それ相応のお仕置きをしないとな! ぐふふふふふ」
怯えるルイスにアルスは、厭らしい手つきと笑い声でさらに近づく。
まあ、本当に親友の愛娘に、そんな事をするつもりは微塵もないが…
「親友の娘に酷いことするつもりなの!?」
「じゃあ、降参するか? 我はどちらでもいいぞ? ぐふふふふふ」
「わかったわよ! 降参! 降参するから!」
もうひと押し脅した所で、貞操の危機を感じたルイスが涙目で降参を認めたので、拘束魔法を解くことにする。
こうして、元魔王は親友の娘に格の違いを見せつけ(?)、威厳と体裁を保つことに成功したのであった。
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