06 冒険者養成学校
アルス達が住むイカナの町から、馬車で3日の距離にあるナリトの町。
イカナよりも人口も規模も大きい町であるが、田舎の地方都市という印象は拭えない。
アルスはフィリアと別れるために、その田舎にある<冒険者養成学校>に入学した。
「ここが、ナリトの町の<冒険者養成学校>ね。思っていたよりボロいわね」
「地方都市の自治体の予算は中央より少ないから、維持費にあまり予算が割かれない。だから、公共施設はボロいのが多いんだよ」
<冒険者養成学校>の入り口に立ち、その老朽化した外観を見たフィリアの感想に、アルスは地方自治体の苦しい予算事情の解説をおこなう。―ん!?
「って!? どうして、ここにフィリアがいるんだよ!?」
幼馴染があまりにも自然に横に立っていたので、アルスはその事実に気づくのに会話を一度交えるまで気づかなかった。
「どうしてって… 『都会は怖いです!!』って、お父さん達に言ったら、ここに入学してもいいって事になったの」
(あれ? デジャヴュ?)
アルスはどこかで聞いた理由に、思わず既視感を覚えてしまう。
彼女の両親は娘を溺愛しているので、こういう所が大甘である。
「フィリアさんよ。勇者を目指す者が、『都会は怖いです!!』というのは、情けないと思わないのか?」
彼は自分の事を棚に上げて、自分の計画を狂わせてくれた彼女に説教を開始する。
「アルスも同じ理由だって、おじさん達に聞いたけど?」
「おぅ…」
それを言われると何も言えなかった。
<冒険者養成学校>では入学した時に、軽い実技試験を行いその成績でクラス分けがおこなわれ、実力にあった授業が行われる。
(まあ、この小娘は両親に大事に育てられたせいか、世間知らずな所があるから、きっとこの後のクラス分け試験で的を盛大にぶっ壊して、『あれ? 私何かしました?』みたいなお約束をするに違いない)
そこで、自分が力を抑えて試験をこなせば、彼女は上位のAクラス、自分は中位のBクラスとなって、別れることができるであろう。
(せめてクラスが別になれば、授業中や実技中に色々試したりできるだろう)
1年Bクラス―
「同じBクラスだね」
「そうだな。これから、よろしくな。 ……って、おいフィリア! どうしてAクラスでなくてBクラスにいる!? 勇者を目指すものが、Bクラスってオマエ… 恥ずかしくないのか!?」
「だって、アルスが以前『覚醒した力も黙っていたほうがいい』って言っていたから、力を抑えて試験を受けたの。そうしたら、Bクラスになったんだけど? それに、『勇者は職業ではなく困難に立ち向かい偉業を達した者』と言っていたじゃない? 学校を卒業してから、活躍すればいいだけでしょう?」
「あっ、そうでした…」
元魔王は過去の自分の発言に、足元を掬われてしまう。
こうして、アルスは寮にいる以外は、フィリアと一緒に過ごす事になってしまう。
勇者の子孫であり、美少女のフィリアには男女問わず近寄ってくる者は多く、それは好意的な者達だけでは無い。
Bクラスの彼女に勝てると考えたAクラスの者が、勝利して名を上げるために勝負を挑んでくることも多い。
だが、力量差は歴然であり、フィリアは余裕で返り討ちにしていく。
ある時など、相手の振り下ろした木剣を人差し指と中指で挟んで、斬撃を封じるという漫画みたいな勝ち方をしたこともある。
こうなると、<冒険者養成学校>の教官達は、Aクラスへの転籍や王都にある養成学校に転入させようという話になり、彼女は入学半年で転入することになった。アルスと一緒に…
アルスも勇者PT参加者を排出した家系の出身であるため、当然フィリアの時と同じ理由で勝負を挑んでくる者達がいた。
「この勇者の金魚のフンが! アイスブラ― 」
「誰が金魚のフンだ!!」
元魔王である彼の身体能力は、フィリアに敵わないだけで十分高くブチギレたアルスは相手が魔法を詠唱する前に、素早く間合いを詰めると右手に持っていた杖で攻撃して、勝利をおさめる。
(何をしているんだ、我は… こんな悪目立ちして… )
そして、後悔していた。
何故ならば、悪目立ちすればそれだけ自分を見る目が増えて、動きづらくなるからである。
ここで負けていれば彼女と離れられたのだが、この後も勝負を挑まれる度に、元魔王のプライドが負けを許さず全て返り討ちにしてしまった。
(まあ、王都にある図書館には珍しい本もあると聞くし、行っても損はないであろう)
彼はそう事を前向きに捉えると、どうせフィリアと一緒なら、田舎でいるより王都にいるほうが何かと便利であると考え王都にある<冒険者養成学校>に転入することにする。
「『都会は怖いです!!』じゃなかったの?」
王都王都ウオトに向かう馬車の中で、フィリアは意地悪な質問をしてくるが、そこは屁理屈の上手い元魔王、すぐに言い訳を返す。
「フィリアさんよ、見くびって貰っては困る。それは、半年前の俺であって、今の成長した俺には都会など恐るるに足らずだ! それを言うなら、オマエもそうだろうが!」
「わっ 私!? 私も成長したから、もう怖くないの! というか、察しなさいよ… 」
最後の方の言葉は、小声でボソボソ言ったので、アルスには聞こえなかったので、彼は彼女の言い訳を訝しがるが、初めて向かう王都に興味は次第に移っていた。
「勇者パーンチ!」
「ぐはぁ!」
フィリアのパンチが挑戦者に炸裂して、相手は宙を舞う。
「この勇者の腰巾着が! くらえ、サンダース― 」
「誰が勇者の腰巾着だー!」
アルスは杖を詠唱中の対戦相手の頭に叩き込む。
「ざわ… ざわ… ざわ… 」
アルスとフィリアは、転入一週間でそれぞれ勝負を挑んできた者達を撃破して、悪目立ちしてしまい、周囲は二人の実力にざわつく。
(何をしているんだ、我は… こんな悪目立ちして…… あれ? デジャヴュ?)
彼は王都の学校でも悪目立ちしてしまった事に、またしても後悔してしまう。
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