05  元魔王、道を模索する





「見た、アルス? 私の覚醒した勇者パワーを!」


 傷が完治したアルスが、地面から起き上がり服についた砂を払っていると、フィリアが得意げにそう言ってくるが、元魔王からしたらその可愛いドヤ顔は悪魔の笑みに見えてくる。


 何故ならば、力量差で生殺与奪を握られている今の彼からすれば、彼女は恐ろしい存在だからだ。


 そこで、彼は彼女が自分の強大な力を認識して、『これから、魔族は見つけ次第、ぶっ殺しまーす♪』などという恐ろしい考えを持たないように、誘導してみることにする。


 そうしなければ、自分が元魔王だとバレた時に、犠牲者となってしまうからである。


「ああ、見たよ。それはそうと、今更だけど一つ君に言いたいことがある」

「なに?」


「君は自分を勇者と言っているが、勇者は職業ではなく困難に立ち向かい偉業を達した者に、その業績によって他者からの称賛や称号として与えられるもので、自称するものではない!!」


「確かに今更だね!? あと、本当に今言うことではないよ?!」


「よって、フィリアは勇者ではなく只の小娘だ!」

「いや、只の小娘ではないよね!?」


「まあ、それぐらい謙虚な心構えでいたほうが、いいってことだよ。人間謙虚が一番だよ」

「確かに、そうかもしれないわね」


 アルスの言う通り、謙虚に驕らず過ごせば、無駄に敵を作らなくて済むと納得するフィリアであった。


「あと、その覚醒した力も黙っていたほうがいい」

「どうして?」


「力を持った者には、その力を利用しようとする”よからぬ輩”が必ず近寄ってくる。そのような者達を近づけないためだよ」


「なるほど」


 両親も”勇者の子孫”という肩書や力に調子のいい事を言って、すり寄ってくる者には、気をつけろと言っていた気がする。


(よしよし、上手く言い包められたな。しょせんは、人生経験の少ない小娘よ)


 とはいえ、数年経てばフィリアも自分の力が、魔王に匹敵すると確信して、何らかの行動を起こすであろう。


 魔王に返り咲くなら、それまでに何かしら手を打たねばならない。


「お父さん達には、この次期魔王デス… デス何とかと戦って、倒したことは報告しておいたほうがいいよね?」


「そうだな。ただし、”次期魔王”の部分は言わなくてもいいかもしれないね。強さからしたら、たぶん自称だからな」


(少なくとも、我の知る魔族達の力と比較すれば、精々四天王しかもその中でも最弱ぐらいだろう)


 アルスの推察通り、デスグレモンドの実力と地位はそのぐらいであった。


 現在、魔界には魔王になれる強さの者がまだ現れておらず、<我が次期魔王!>と自称する者が割拠していた。


 そこで、デスグレモンドは勇者の子孫であるフィリアを倒して、その功名で周囲に魔王と認めさせようと考えたのであった。


 かれが、次期魔王を省かせた本当の理由は、自称とはいえ次期魔王を倒したとなれば、彼女が『やっぱり、私は凄い! 魔族はサーチ&デストローイ!』となりうるからである。


 夕方、二人はアークデーモンを討伐して帰宅した両親に、勝手に戦ったことを酷く叱られたが、町の人々を救ったことは褒められた。


 その夜、アルスは今後の自分のすべき事を考える。


 ①魔力を魔王時代まで戻すこと

 ②そこからせめて魔力だけでもフィリアを超えること

 ③魔力に耐える体を手に入れること

 ④魔族に戻ること

 ⑤小娘の隙を見て暗殺する!(最終手段)

 ⑥転生しなおしてワンチャンに賭ける!!(元魔王のプライド放棄)


 現在の魔力値は、魔王時代を10とするならば、今のアルスは7、真デスグレ何とかが6、覚醒小娘が12といったところである。


(①の魔王時代に戻っても、勝てない… よって、返り咲くには②を目指さねば、話にならないな… ③は体を鍛える方法と別のアイテムか術による方法を模索するとして、問題は④の魔族に戻ることだな… )


 数年前から、屋敷に置いてある魔導書を読んでいるが、魔族になる方法が載った本は一冊もない。


(そのような本や方法があったとしても、禁書禁術扱いだろうから、探す場所を変えねばならないな)


 そして、そういう場所は力や金が必要な場所である事が予想されるので、後回しとして然るべき時まで待つほうが良いであろう。


(まずは、①②③だな… )


 そして、1年後の15歳―


 元魔王デスヘルダークことアルス・クライトンは、魔王時代の魔力をほぼ取り戻しつつあったが、彼が成長しても彼女も成長するため、追いつくどころか差は埋まらなかった。


(この小娘、どうなっている!? 我を追い詰めた勇者より強くなっているんだけど!!?)


 正確に言えば、<あの時の勇者パーティーに1人で比肩する強さ>である。


 ここに、あの聖剣ブランシュナールが加われば、今度こそ世界から<さようなら>する事であろう。


 しかも、彼女一人に…


(これで、パーティーなんて組まれたら、ほぼ詰みじゃん……)


 ①は達成したが、②は厳しい状況にある、③は訓練のおかげか元魔王の魂の影響を受けて体が変質したのか解らないが、8割の魔力になら耐えられるようになっている。


 ⑤⑥も考えたが、⑤は幼馴染として気が引け、⑥は転生した時に、記憶が欠如したのか転生魔法の術式と詠唱が思い出せないため実行できなかった。


 ※転生魔法も魔族に戻る方法と同じで、人間界では禁忌の術であるため、入手する方法は難しい。


 ⑦フィリアと距離を置いて、彼女の目を盗んで魔王に返り咲く。


 現在のアルスは、新たに⑦を新設して、実行することにする。


 とは言っても、方法は簡単で<冒険者>を目指す者15歳になれば、国が運営する<冒険者養成学校>に通うことが通例となっている。


 <冒険者>とは、世に蔓延る魔族や魔物を倒す事を生業とする者達のことであるが、危険な職業であるため犠牲者を減らすために、基礎ではあるが<戦いの技術>や<その他の技術>を教えてくれる場所である。


 ※自信があれば、通う必要はない。


 <冒険者養成学校>はいくつか存在しており、フィリアとは別の学校に入ればいいのである。


 勇者の子孫である彼女は、きっと王都にある有名学校に入学するであろう、彼も勇者パーティーの子孫で本来ならそこに入学するのだが、近くの学校に入学することにした。


 当然、両親は反対したがこう言ったら、許してくれた。


「都会は怖いです!!」


 まあ、アルスには優秀な姉がいるので家は彼女に継がせて、こんな情けないことを言う彼は、好きにさせようと諦めたのかもしれないが…



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