04  次期魔王(自称)を撃破! 勇者(♀)が





「ハァ… ハァ… やったか… 手こずらせおって…」


 地面で血だらけで倒れるアルスを見て、デスグレモンドは彼の魔法でダメージを全身負いながらそう吐き捨てる。


 魔法の押し合いはアルスが勝っていたので、爆発の衝撃はデスグレモンドの方に向かい彼は全身に軽症ではあるがダメージを受けていた。


「はぁ… はぁ… 」


(くそっ! やはり、体が持たなかったか… 体中が痛い…)


 アルスはデスグレモンドの魔法によるダメージではなく、自分の魔力でダメージを受けたのだが、そのような理由を知らない次期魔王は自分がこのようにしたと思いこんでいる。


 地面に倒れているアルスは、全身の痛みに耐えながら、必死に立ち上がろうとするが中々立ち上がれない。


 早く立ち上がって、戦闘態勢を取らなければ、このまま殺されるのは火を見るより明らかであるが、体に力が入らない。


「今止めを刺してやるぞ!」


(まずい! まずいぞ! せっかく転生したのに、魔王に戻る前に、我死んでしまう!! どうして、我は逃げずに小娘を助けようとしてしまったんだ! 我の馬鹿モノー!)


 死を間近にした元魔王が、心の中で過去の決断を後悔していると、自分を呼ぶまさかの声が聞こえてくる。


「アルス!!」

「フィリア…!? 何故…、戻ってきたのだ、この馬鹿者が!」


 アルスが心配になったフィリアは、彼の元に戻ってきたのであった。


「自分から、わざわざ殺されに戻ってくるとは、面倒が省けて有り難い」

「アンタが、アルスをこんな目にあわせたの?」


 酷く傷ついたアルスを見たフィリアは、怒りに満ちた瞳で、軽口を叩くデスグレモンドを睨みつける。


「ああ、そうだ。そして、貴様もすぐに同じ目に合わせてやる! 小僧も貴様も、そして、町の人間も全て纏めて殺してやる!!」


 彼女の魔力と周囲は、まるで凪のように静まり返る。


「させない… アルスを殺させない! 誰も殺させない! だって、私は… 私は勇者なんだからーーーー!!」


 デスグレモンドがアルスを傷つけたこと、町の皆殺すと言ったことに、フィリアの正義の心と怒りが爆発して、なんやかんやで眠っていた勇者の力が覚醒する!


 今ここに<右手に勇気>を、左手に<正義の心>を、そして、心に<愛>を持った奇跡の勇者が誕生した!


「馬鹿な… そんな力が眠っていたのか!!?」


 デスモンドとアルスは声を揃えて叫ぶ!


 それも仕方がない、何故なら覚醒したフィリアの魔力は、デスグレモンドどころか元魔王すら越えていた。


(えっ!? 何!? 何なの!? この魔王時代の我を超える魔力は… えっ!? えっ!?)


 そして、元魔王はあまりの衝撃に心の中ですら、言葉が無くなってしまう。


(そもそも、なんでヤツは『町の人もコロスー!』なんて、余計なこと言ったのだ! まあ、我も勇者と戦った時に、同じようなこと言ってしまったが… お陰で、小娘の琴線に触れて眠っていた力が覚醒してしまったではないか!)


 すっかり、部外者となってしまった元魔王が、地面に倒れたまま心の中で、不用意な発言をしたデスグレモンドにツッコミを入れていると戦いは最終局面を迎える。


「デス何とか、これで終わらせるわ」


 フィリアは右手に握った聖剣をデスモンドに向けて、このような宣言を淡々と行なうと、構え直して魔力を注ぎ始める。


「だっ 黙れ、小娘! 死ぬのは貴様だっ!」


 彼女の膨大な魔力を感じたデスグレモンドは、そう強がった後に魔力を溜め始めたが、内心は不安で一杯であった。


 スーパー勇者(仮名)に覚醒したフィリアは、己の強力な魔力にも耐えうる身体を獲得しており、アルスのように自分の魔力でダメージを追うことはなく、これは近接戦闘も強化された事を意味する。


 そのためフィリアは、聖剣にその膨大な聖なる魔力を溜められるだけ溜めていく。


(しかし、なんて凄い魔力なんだ。我と死闘を繰り広げた勇者を遥かに上回っている。これは、あのデス何とかも終わりだなー。そして、我も中身が魔王だとバレたら終わるなー)


 元魔王がデス何とかと自分の未来を儚んでいると、スーパー勇者(仮名)フィリアは聖剣を頭上に振り上げるとあの技を繰り出す。


「くらえ、デス何とか! 最終奥義ギガホーリーブレイク!!」


(なにっ!? 一人でギガホーリーブレイクだと!!?)


 それは、前世のアルスの体を消し飛ばした技であり、PT全員の力を合わせた勇者の最終奥義で、フィアナはそれを一人で使用したため、彼が驚くのも無理はない。



 あと、トラウマで少し体が震えている。


 刀身から放たれたギガホーリーブレイクの膨大な聖なる魔力は、超極太のビームとなって神々しい光を放ち、地面を消し飛ばしながらデス何とかに向かって伸びていく。


「うおおおお!! ギガダークブラストーー!!!」


 デスグレモンドは自分の力を信じて、溜めに溜めた魔力を放出して、迫ってくる超極太ビームに対抗する。が―


(まあ、(勝つのは)無理ですな)


 ギガダークブラストはギガホーリーブレイクと二人の中間地点で衝突するが、悲しいほどに見る見るデスグレモンドの元に押し返されていく。


「ぐわあああああ!!!」


 ギガホーリーブレイクの超極太ビームに包まれたデスグレモンドは、断末魔をあげながら聖なる魔力でその巨体を徐々に消し飛ばされ失っていく。


「まさか、次期魔王であるワレが、こんな小娘にーー!!」


(さらば、デス何とか…。せめて、来世で幸せになるがよい)


 デス何とかが消滅する姿を、自分が消し飛ばされ掛けた時の事を思い出しながら、心の中で哀悼の言葉を掛ける。


(まあ、我みたいに来世でも辛い人生になるかもしれんが…)


 そして、フィアナが覚醒して手に入れた強さが、必ず自分の魔王復帰への障害になると確信したアルスは、自分の魔王への道が苦難に満ちていることを認識すると気が重くなってしまう。


「これが… 私の勇者としての力……」


 次期魔王(自称)を倒したフィリアは自分の体を見ながら、彼女自身まだその覚醒した強大な力を自覚できていないようであった。


「そうだ、アルス! 今すぐ傷を治してあげるね」


 彼女はアルスが怪我をしたまま、地面に倒れている事を思い出すと、近寄ってきて怪我の治療をするために回復魔法を掛ける。


「さっきの攻撃で、MPが足りない!? どっ どうしよう!? そっ そうだ! 回復薬! 回復薬を飲ませてあげるね!」


 だが、ギガホーリーブレイクでMPを大量に消耗していたため、回復魔法が使用できなくなっており、慌てて腰の小さな鞄から回復薬を取り出すと、栓を抜いてアルスの口にねじ込む。


「ゴボッ、ゴボボッ! ゴボボボボボボッ!?(こら、小娘! 溺死させる気か!?)」


 仰向け状態で口に薬瓶を突っ込まれたので、アルスは後少しで薬液で溺死(窒息死?)しそうになってしまう。


「ああっ! ごめん!!」


 アルスの必死の抗議に、フィリアはすぐに薬瓶を口から引き抜く。


「ゲホッ! ゲホッ…! 危うく死ぬところだった…」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 何度も謝罪するフィリアの横で、次期魔王の次に幼馴染に殺されかけた彼は、涙目で咽ながらなんとか無事生還する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る