03  元魔王 対 次期魔王




 フィアナは迫ってくる黒い奔流を地面に倒れたまま、絶望に支配された瞳で見つめている。

 そして、近くまで迫ってきた時、諦めて目を瞑り思わず呟いてしまう。


「アルス… 助けて…」


 だが、その時―

 彼女の耳に、聞き慣れた少年の自分を諌める声が聞こえてくる。


「愚か者め… だから、今の貴様には無理だと言ったのだ!」


 少女がその声で目を開けると、自分とメガダークブラストとの間に、幼馴染の少年が立っており、左手でマジックバリアを張って攻撃を防いでくれている。


「アルス?!」


(くっ!? やはり、詠唱の短いマジックバリアではきついな…!)


 咄嗟にフィアナの前に立ち詠唱不完全でマジックバリアを張ったため、メガダークブラストを防ぐことは出来たが、バリアを張っていた彼の左腕は、彼女の全身の怪我よりも酷い状態になっていた。


(愚か者は我ではないか! 敵である小娘を助けるために、腕を一本犠牲にするとは!)


 彼が心の中で、助けたことを後悔していると後ろから先程まで絶望に襲われ、地面に倒れていたフィアナが嘘のように元気になり、聖剣片手に彼に抱きついてくる。


「アルス! 助けに来てくれたのね!」

「えーい、邪魔だ! 戦闘中にまとわりつくな!」


「ごめん! だって、助けに来てくれたのが、嬉しかったから!」


 そう言ったフィアナの目にはまだ涙が溢れていたが、これは先程の絶望と恐怖から来る逃避の涙ではなく、嬉しい気持ちからであった。


「それほど元気なら、体は大丈夫みたいだな」


「うん、何とか。というか、アルスの左腕のほうが、酷い怪我じゃない! 今治してあげるよ」


「我― 俺の事はいいから、俺が時間を稼いでいるうちに、急いでこの場から離れろ!」

「そんな事、できるわけないよ!」


(いや、オマエが離れてくれないと、我がフルパワーで戦えないんですけど!?)


 彼女の目の前で、魔王クラスに近い魔力を使用して戦えば、後で騒ぎになることは明白であり、下手をすれば元魔王だということがバレて、今度は自分が討伐の対象となるかもしれない。


「貴様ら! ワレを無視して、イチャつくな!!」


 フルパワーでは無かったとは言え、メガダークブラストを防いだ目の前の少年と威力が減衰していたとは言え、急に元気になった勇者の少女に、警戒したデスグレモンドは様子を窺うことにしていたが、自分を忘れてイチャ付き始めたのでつい怒りを顕にしてしまう。


「イチャつくなんて~ そんな~ 」


 アルスの腕を回復しながら、モジモジ照れるフィアナ。


「照れてないで、さっさと逃げろよ。頼むから!」


(でないと、我フルパワーで戦えないから! 死んじゃうから!)


 そして、そんな彼女に焦りながら逃げるように促すアルス。


「安心しろ! 二人共纏めて、消し飛ばしてやる! 貴様らがイチャついている間に密かに溜めたこのメガダークブラストでな!!」



 デスグレモンドは、密かに溜めていた魔力でメガダークブラストを二人めがけて撃ち込み、完全に不意を突かれたフィリアは慌てて魔力を溜めるが到底間に合わない。


「甘いわ! こっちもマジックバリアで防ぎ終わった時から、密かに右手で魔力を溜めていたのだ!! くらえ、メガマジックブラスト!!」


 だが、魔族同士考えが似るのか、アルスも不意打ちするために、密かに右手に溜めており、その魔力を迎撃のために解き放つ。


 お互い密かに溜めていた魔力は、太いビームのようになってお互いに向かって伸びていく。


 一方は光り輝き、一方は禍々しく輝くその太いビームは、中央で衝突すると爆発を起こし爆風が発生する。


 爆風によって巻き起こった砂煙は、視界を奪うほどでその中でアルスは次弾を放つために再び魔力を溜め始める。


「次期魔王と名乗っている割には、不意打ちなんてセコイ真似して恥ずかしくないの!?」

「貴様の相方も不意打ちするために、魔力を溜めていたではないか!」


「俺はか弱い人間だから、いいんですー!」


 砂煙越しでフィリアとデスグレモンドの言い合いが始まり、アルスも現在人間であることを理由に元魔王を棚に上げて、自分の不意打ちを正当化する。


「死ね! メガダークブラスト!!」

「くらえっ! メガマジックブラスト!」

「いっけぇーー! ホーリーブレイク!」


 砂煙越しに三人は、魔力ビームを撃ち合う。


 三人のビームは周囲の砂煙を吹き飛ばしながら、直進して行き中央で三度激突するが、今回はメガダークブラストをアルスとフィリアの2つのビームで対抗しているので、押し勝っている。


「おのれ! 二人掛かりとは卑怯な!」

「人間は力を合わせて、戦うのよ!」


(そうだぞ、甘えるな! 我は5人掛かりで、ボコられたぞ!)


 フィリアの言葉を聞いたアルスは、心の中で後輩魔族を窘めていると、メガダークブラストを押し返されたデスグレモンドに、二人のビームが命中してダメージを与えることができた。


「まさかワレがここまでダメージを受けるとは… 」


「やったー!」

「いや、まだだ、フィリア! 油断するな!!」


 全身ボロボロになったデスグレモンドを見て、喜ぶフィリアをアルスは注意すると彼の言う通り、次期魔王はその名乗りが伊達ではないことの証明を始める。


「ワレがこんな小娘ども相手に、真の姿を開放することになるとはな!!」


(やはり、真の姿を残していたか!)


「はああああぁぁぁ!!」


 デスグレモンドが変身を開始したので、アルスはフルパワーで戦うために、フィリアに逃げるように促す


「フィリア! 君は今のうちに、父さん達がいる所に逃げるんだ!」

「それなら、アルスも一緒に逃げようよ!」


「二人で逃げても、変身を終えたヤツからは恐らく逃げ切れない。俺はここに残って、時間を稼ぐ」


 変身を続けるデスグレモンドの魔力は、増え続けており流石のフィリアもその魔力を感じ取ったのか、その表情を強張らせている。


「アルスを置いてなんて、いけないよ!」


 相手の強さを感じとって強敵と判断した彼女は、死ぬかもしれない幼馴染を置いていくことが出来ない。


「君は勇者になって、魔王を倒すんだろう?」

「でも… 」


「早くいけっ!」

「わかったわ… 死なないでよ…」


「もちろんだ!」


 アルスの切羽詰まった声に、フィリアは状況が思っている以上に不味いと認識して、渋々その場を後にする。


 彼女が立ち去ってから、少しして変身が完了する。


 その姿は一回り大きくなり、頭の角も牙も爪も伸び、更にあちこち黒いトゲがこれでもかといわんばかりに増えており、何より感じる魔力も倍ほど増えている。


(これは、不味い事になったな。これは、本当にフルパワーで戦わないと最悪死ぬな…)


 アルスと真デスグレモンドの魔力はほぼ互角であり、フルパワーで戦ってようやく勝てるかどうかというところである。


「小僧、すぐに殺してやるぞ。小娘の後を追わねばならんからな!」

「そうはさせるか!」


(問題はこの人間の体が、我が内包する強大な魔力に耐えきれるかどうかだな…)


 アルスがその魂に内包する魔力を開放すると、真デスグレモンドの魔力に匹敵する力が体内に溢れ出してくる。


「何だ、この魔力は!? 貴様は一体何なんだ!?」

「貴様とお喋りするつもりはない!」


 アルスはクールにそう言ったが、本音は元魔王の強力な魔力によって、既に体が悲鳴をあげ始めているからで、早く決着を付けなければならないからだ。


 詠唱を開始した二人の前に3つの魔法陣が三角形状に現れ、奇しくも同じような魔法になる。


「消し飛べ! ギガマジックブラスター!!」

「消え去れ! ギガダークブラスト!!」


 3つの魔法陣から、魔力ビームが放たれると3つのビームは途中で一つとなり、極太ビームとなって眩い光を放ちながら、敵を消滅させるために相手目掛けて伸びていく。


 そして、二人の丁度中央付近で、本日四度の二人にとっては最後の魔法同士の衝突が起きて大爆発を起こす。


「うわあああ~」


 華奢なアルスの体は、その爆風で後方に吹き飛ばされるとそのまま地面を転がる。

 そして、砂煙が晴れた時、地面には血だらけのアルスが倒れていた。

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