02 勇者(♀)対 次期魔王 そして、それを見守る元魔王
フィリアとアルスの屋敷は町外れ建てられており、屋敷には攻撃を防ぐ結界が張られている。
結界が張ってある理由は、このように稀に魔物や魔族が勇者の子孫を討伐するために襲ってくるからで、襲撃を受けるのも今回だけではない。
爆音の正体は、その結界に何者かが攻撃をしたためであった。
「ワレは次期魔王のデスグレモンド! 勇者の末裔フィリア=ガルフィオンよ! ワレと勝負せよ! 村外れにて待つ! 来なければ、街を破壊する!」
デスグレモンドはフィリアに逃げられないように、街を人質にとって彼女を誘き出しに掛かる。
(ほう…? 次期魔王を名乗るだけあって、中々の攻撃だったな…)
「次期魔王…」
(流石の生意気なフィリアも、次期魔王を名乗る相手では、取り乱すようだな。いい気味だ、さあ、もっと怯える姿を見せよ!)
普段苦々しい思いをさせられている元魔王は、デスグレモンドに怯える少女を見て、日々の溜飲を下げようとする何とも情けないプチ復讐を行うのであった。
次期魔王のデスグレモンドに町を人質に取られて、呼び出されたフィリア。
(こやつ、笑っていやがる…)
だが、彼女は驚いてはいるが怯えておらず、むしろ目を輝かせて、笑みまで浮かべている。
「これは、チャンスだわ! 女神様が私に勇者になれと言っているんだわ! 女神様、感謝致します」
彼女は女神に感謝の祈りを捧げると、聖剣を勢いよく鞘から引き抜く。
「アルス! 危ないから、アナタはここで待っていて! 私一人であのデス何とかを倒してくるから!」
「今のフィリアでは無理だ!」
元魔王は思わず制止する言葉を、思わずフィリアに掛けてしまう。
それは、自分でも何故そのような事を言ったのか理解できなかった。
「大丈夫! 私にはこの聖剣があるし、何より勇者の子孫なんだから!」
フィリアはそう言うとアルスをこの場に置いて、デスグレモンドに向かって走り出す。
(愚か者め… 今の我でもあの者に勝つのは至難であろう。いくら聖剣を持っているとはいえ、小娘の貴様に勝てる訳がなかろう… まだ魔力が戻っていない我は、お言葉に甘えて高みの見物と洒落込むとしよう。さっき、我を馬鹿にした罰として、せいぜい痛い思いをして、泣かされてくるがよい!!)
冷静さを取り戻して魔王は、デスグレモンドに向かって勇ましく駆けていく幼馴染の少女を、先程と違って冷ややかな目で見送りながら,他力本願な復讐を考える。
(しかし、俺達の両親がいない時を見計らって襲ってくるとは… これは、明らかに狙われたな…)
二人の両親は、隣町にアークデーモンが現れたと報告を受けて、それを退治するために朝から出払っており、明らかにフィリアを一人にするための罠であったとアルスは推察する。
フィリアがデスグレモンドに近づくと、向こうは戦闘態勢に入る。
デスグレモンドは体長3メートル程で、頭から牛のような2本の黒い角が生えており、目は赤く肌は紫で黒を基調としたローブを纏い、如何にも魔族という姿をしている。
「貴様がフィリア=ガルフィオンか?」
「そうよ!」
「貴様を倒せば、ワレは次期魔王として君臨することが出来る! 可愛そうだが、死んでもらうぞ!」
そう言ったと同時に、デスモンドは手から炎の球を放つが、フィリアは炎の弾を神聖魔法で迎撃する。
「ホーリー・ランス!」
前に突き出したフィリアの左手の先に出現した魔法陣から、聖なる光の槍が飛び出し炎の球を目掛けて飛んでいく。
炎の球とホーリー・ランスは、両者の丁度中間地点で激突すると爆発を起こし、爆風がフィリアを襲うが、彼女は魔法を放つために前に突き出した左手をそのまま風よけにする。
すると、その左手の指の隙間から、デスモンドが炎の球を今度は両手で二発放つ姿を捉える。
フィリアは大きく横に跳躍して回避すると、左手から新たな神聖魔法を放つ。
魔法陣から無数の聖なる光の矢が飛び出して、敵目掛けて飛んでいくが、デスモンドはマジックバリアを展開して、その魔法攻撃を防ぐ。
「効いていない!?」
(苦戦しているようだな… まあ、あの目障りな小娘がここで死ねば、我が魔王として復活した時の憂いが一つ消えるか…)
近くの木の陰に隠れながら、様子を窺う魔王は心の中でそう打算する。
遠隔攻撃では埒が明かないと踏んだデスモンドは、近接戦を選択してフィリアに接近すると両手での鋭い爪で何度も攻撃を繰り出すが、彼女は華麗な体捌きと足捌きで見事に回避している。
そして、隙を見ては聖剣で反撃をしているが、次期魔王を名乗るだけあって、かすり傷程度で凌ぐ。
(接近戦では、僅かにフィリアの方が上か…。流石は我を毎回ボコボコにするだけはあるな!)
自分が稽古でボコボコにされた事は、自分が弱いのではなくフィリアが強すぎるだけと正当化する。
(しかし、実戦経験が少ないくせに、物怖じせずに戦っている。あの小娘、年の割に心身共に強すぎるだろう…)
その理由は単純で、アルスを追い詰めた勇者と聖女の間に出来た子供が、優秀な冒険者と結婚して、その子供がまた優秀な者と結婚と優秀な遺伝子をどんどん取り込んでいき、その集大成がフィリアである。
接近戦に分がないと解ると、デスモンドは大きく跳躍して距離を取り、大技を繰り出すために、魔力を溜め始める。
フィリアもそれに合わせて、魔法を聖剣に溜め始める。
(馬鹿者、何をしている! 敵の得意な分野に合わせてどうする!! 有利な接近戦を仕掛けるんだ!!)
その光景を見ていたアルスは、心の中でフィリアの判断ミスにそう叫ぶ。
彼の見立て通り、接近戦ではフィリアの方が上だが、魔力勝負ではデスモンドのほうが上である。
だが、若く戦闘経験の少ないフィリアは、接近戦で有利であったこともあり、相手の力量を見誤って相手の攻撃方法にあわせてしまう。
「これが、とっておきよ! 奥義! ホーリーブレイク!!」
フィリアは両手で中段に構えた聖剣ブランシュナールに、魔力を充分に注ぎ込むと聖剣を振り上げてから、勢いよく振り下ろして<奥義ホーリーブレイク>を前方に放つ。
<奥義ホーリーブレイク>は、魔王であったアルスを消し飛ばし掛けた<最終奥義ギガホーリーブレイク>の格下の技であるが、並の魔物なら一瞬で消し飛ばし、強敵でもそれなりのダメージを与える事ができる今のフィリアのとっておきの聖剣技である。
(さて、どうなるかな?)
アルスが見守る中、聖なる光の奔流とも言うべき太いビームが、デスモンド目掛けて一直線に伸びていく。
デスモンドは、慌てる様子もなく光の奔流が間近に接近するまで、両手に魔力を溜め続けると一気に前方に放出する。
「メガダークブラスト!!」
放たれたメガダークブラストは、デスモンドの手前1メートルほどで、ホーリーブレイクと衝突すると徐々にホーリーブレイクを押し返していく。
「そんな!?」
「やはり、押し負けるか…」
焦るフィリアとは、対称的に冷静にそう呟くアルス。
ホーリーブレイクが、間近まで押し帰ってきた時、フィリアは咄嗟の判断で聖剣ブランシュナールを構えて盾とする。
すると、ブランシュナールには属性耐性が付いているため、ホーリーブレイクを押し返すのに威力が削られていたメガダークブラストの威力を更に軽減する。
そのため、メガダークブラストの直撃を受けたフィリアは、致命傷を受けずに済んだ。
だが、全身を襲う痛みと自信のあった技を返された事は、まだ14歳の少女の心を折るには充分であり、彼女は地面に倒れたまま動けなくなってしまう。
「お父さん… お母さん… 助けて…」
聖剣は右手に握ったままであるが、その表情は絶望に支配されて涙で溢れており、体も恐怖で震えている。
その姿は、まさしく元魔王が見たがっていた姿である。
だが…
(あの生意気な小娘の… あの姿こそ、我が切望していた姿ではないか… それなのに、どうして、こんなに心が痛むのだ!?)
アルスは自分でも解らない辛く苦しい感情に戸惑い困惑する。
「フハハハ! ここまでのようだな! 今、楽にしてやる!」
地面で倒れたままの少女を見て勝利を確信したデスモンドは、止めを刺すために両手に魔力を溜めて、メガダークブラストを放つ準備をする。
(このままでは、フィリアが殺される! 助けなくては!! 助ける!? どうして?
あの忌々しい勇者の子孫である小娘の排除は、我も求めていたことではないか!?)
元魔王は死を間近にした幼馴染を、助けるかどうか一人葛藤を続ける。
「これで、俺が次期魔王だ!」
放たれたメガダークブラストは、ホーリーブレイクとは対称的な黒く禍々しい黒い太いビームとなって、フィリアに向かって伸びていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます