01 元魔王と幼馴染勇者(♀)
異世界【リブルーズ】、魔物とそれを統べる魔王と人間達が戦う世界。
そこに住む少年アルス・クライトンが、勇者パーティーに討伐されそうになった元魔王デスヘルダークが、最後の力を使って人間に転生した姿である。
10歳になり、ようやく人間社会にも慣れ人間の文字も読めるようになり、自分の置かれている立場も分かってきた。
魔王デスヘルダークが、倒されてから200年が経った時代に、アルス・クライトンと名付けられ人間の子供として転生したこと。
(勇者共を血祭りにあげられないのは、とても残念ではあるが、まあ仕方がないな。うん!)
強がってはいるが、内心ではホッとしていた。
あれから魔王が2体現れたが、勇者の子孫達もしくは別の者に討伐されたこと。
(まあ、我でも倒せなかったのだから、無理もあるまい。しかし、情けない後輩達だな。我が魔王として復活した暁には、おまえ達の仇も取ってやるからな!)
10歳の魔王はそう心に誓うのであった。
まあ、魔族への戻り方は、まだ解らないが…
次にこれは皮肉とも言うべきものであるが、自分が転生したのがなんと自分を討伐した勇者パーティーの一人であった魔法使いレイチェアルスライトンの子孫の家だったのだ。
だが、このことは元魔王にとって好都合でもあった。
何故ならば、何だかんだと言っても元魔王である彼の魔力は、同年代よりも格段に高く、これはこの体に内包された魔王の魂によるものだと彼は推察している。
本来なら、その魔力の高さで周囲の目を惹いてしまうところであるが、魔王を倒した魔法使いの子孫であれば、「魔力が高いのは、当然だよね」で済んでしまい、これによりアルスは悪目立ちせずに力を蓄えることができた。
とはいえ、まだまだ大人には勝てないので元の魔力が戻るまでは、目立たないようにできるだけ力を隠すことにしている。
あと、もう一つこの家に生まれて良かったことは、家の蔵書に魔導書が大量に所蔵されており、魔法の知識や魔族に戻るための方法が得られるかもしれないところである。
(これぞ、天佑! どうやら、世界の意思とやらは我に魔王に戻って、この世界を支配せよと言っているらしい! ククク…)
14歳になった元魔王デスヘルダークことアルス・クライトンは、茶色の髪に筋肉質ではなく、如何にも魔法使いと言った細身の体であり、ルックスは中の上といったところである。
魔力は魔王時代の7割程まで戻ってきており、魔王復活まであと3年いやあと2年といったところであろう。
そんな14歳のある日、彼が自室で日課の蔵書を読んでいると、ドアをノックする音が聞こえる。
(また、あの小娘か…)
アルスは頭を掻いてため息をつく。
そして、物憂げな表情と足取りでドアまで近づき扉を開けると、そこには隣に住む幼馴染の同い年の少女が立っていた。
「アルス! 本ばっかり読んでないで、たまには体を動かしたほうがいいわよ? 私と稽古しよう♪」
そう言って、アルスに木剣を差し出してきたのは、自分を追い詰めた勇者クリスト=ガルフィオンの子孫であるフィリア=ガルフィオンであった。
フィリアは同い年で、綺麗な肩までの金髪、白い肌に整った顔立ち、青い瞳を持つ所謂美少女であり、その姿は先祖であるあの聖女ソフィアに似ている。
つまり、彼女はアルスを追い詰めた勇者と聖女の子孫であり、彼にとっては天敵のような存在である。
そのためアルスは、幼い頃から彼女を警戒しており、何よりもフィリアは腕が立ち幼い頃からこうして剣の稽古に誘っては、アルスをいつも負かしてきた。
(いつか我が魔王に返り咲いた時には、必ず一番に八つ裂きにしてやるぞ!)
幼いアルスは、負かされる度に夜そっと枕を涙で濡らしながら、心の中でそう誓い続け元の魔力回復に勤しんだ。
彼が稽古に付き合っているのは、剣が使えるようになれば剣と魔法の両攻撃で継戦能力が上がり、勇者パーティーに勝てる要素が増えると考えたからである。
決して、『断って彼女の不興を買うのが、怖かったわけではない!』ということを、元魔王の名誉のために言っておく!
彼の庭で稽古を終えたフィリアが、打ち負かしたアルスに回復魔法を掛けている。
今回も負けてしまったが、おかげで剣の腕は上がってきている。
(フフフ… 今に見ていろ! 貴様が鍛えた我が剣技で、いつか痛い目にあわせてやる!)
そして、いつの間にか”八つ裂き”から、”痛い目”という”殺す”から”怪我させる”に
仕返しのレベルが下がっており、これは本人も気づかないうちに長い人間生活で、人間に情が湧いてしまっているのかもしれない。
「あ~あ、早く魔王が現れないかしら~。そうしたら、ご先祖様みたいに討伐してやるのに!」
回復を受けている彼が心の中でそう思っていると、彼女は何気ない感じでこのような事を言い出し始めたので、彼は思わずこの身の程知らずの少女を諌めることにする。
「今のフィリアに魔王が倒せるわけがないだろう」
「大丈夫よ。私はこの<聖剣ブランシュナール>に選ばれたんだから!」
彼女は強気な態度で、腰に装備していた聖剣を引き抜く。
アルスは、その前世の自分を消滅させかけた聖剣を見て、身の縮む思いがした。
聖剣は例え勇者の血を引いていたとしても、選ばれなければ使用することが出来ず、現に彼女の両親及び親戚は鞘から抜くことが出来なかった。
それを若干14歳で選ばれたフィリアは、それだけでも勇者としての素質が高いことが窺える。
(忌々しい聖剣め… いつか叩き折ってやる!)
そして、彼女が嬉々として聖剣を抜く度に、自分が消し飛ばされたトラウマに襲われる元魔王は聖剣を忌々しく思っていた。
「例え聖剣が凄くても、扱いきれなければ意味がないよ。いい子だから、その剣をさっさとしまいなさい」
聖剣の放つ聖なる力に、内心怯えながらアルスは剣を鞘に戻すように伝えるとフィリアは納得していない表情で、聖剣を鞘に収める。
「でも、魔王デスヘルダークなら、今の私でも倒せると思うんだよね~」
「なん…だと…」
彼女の自分を倒せるという無礼な言葉を聞いたアルスは、いつもの心の中では無く思わず声に出してしまう。
そして、すぐさまこの生意気な小娘に反論する。
「おっ おいおい、こむす― フィリアよ、それは思い上がりだよ。今の未熟な君に、魔王デスヘルダークを倒せるわけがないと思うよ、俺は。」
元魔王はできるだけ紳士に冷静に反論してみせるが、それに対して彼女は倒せると思う根拠を話してくる。
「そんなことないよ。だって、アイツは歴代魔王の中で、最弱らしいわよ?」
(この小娘! 魔王である我を”アイツ”呼ばわりした挙げ句に、”歴代最弱”だとぉー!)
「どっ どっ どうして、歴代魔王の中で最弱だと思うんだ?」
怒りで声を震わせながら、アルスは生意気な小娘に尋ねる。
「在位僅か3年だし、ご先祖様が魔王城に突入した時に、アイツ以外いなかったらしいわよ。しかも、城には宝物が一切なかったらしいわ。きっと、部下の魔族が逃げ出す時に、宝も一緒に持ち出されたのよ。弱いから!」
(おいおい、この小娘はさっきから、何を言っているんだ?)
「えーと、なんて言ったけ? デス… デスへ… スゴクワルダーだったかしら?」
「魔王デスヘルダークだよ! ”デスへ”はどこにいったんだよ!? というか、オマエ数分前まで言えてただろうが!!」
元魔王の的確なツッコミを受けたフィリアは、本人を目の前にとんでもないことを言い出す。
「そもそも、そのデスヘルダークって名前が、如何にも弱そうじゃない? <デス(死)>に<ヘル(地獄)>に<ダーク(闇)>って… 名前で人間を怖がらせようって、必死感が伝わってきてマジウケるんですけど!」
フィマナのその推察は的を射ており、彼が魔王になるまで名乗っていた名は<アルイゼス>であり、怖くもないし威厳もなかったので、魔王になった時に魔王らしい怖い名前に改名したのである。
自分が必死に考えた名前を、“プークスクス”と言った感じで笑うフィリアを見て、元魔王は流石に我慢の限界を迎えてしまう。
「なんだと! この、こむす― 」
馬鹿にされ続けたアルスが、危うく素で言い訳をしてしまいそうになった時、運良くその声をかき消すぐらいの爆音が爆発の光と共に屋敷中に鳴り響く。
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