07  元魔王の過去





 200年、魔王デスヘルダーク居城―


「何故、勇者達との戦いが明日に迫った状態で、俺を蘇生した!?」


 勇者PTが明日に迫った魔王城で、魔王の腹心で親友の魔剣士アスイオスが、自分を蘇生した友人に噛み付く。


 彼は現時点において、魔界で一番の剣士であり相棒の魔狼フェンリルとのコンビネーションによって、勇者PTを窮地に追い込んだが前日の戦いで敗れ去っていた。


「勇者PTを倒してから、俺を蘇生すればよかったんだ! それを戦いの前に大量の魔力を使用して蘇生魔法を使いやがって!」


 アスイオスほどの強者を蘇生するには、大量の魔力を消費するため、今の魔王の魔力は半分以下になっており、明日の戦いまでには全快しないであろう。


「お前を破った相手なら、我の魔力が万全でも勝てないさ。そうなれば、お前を蘇生できなくなってしまう。お前の奥さんのお腹の中には、子供がいるじゃないか。奥さんとお腹の子供のためにも生きるべきだ」


 魔王の戦闘力が10とするなら、アスイオスは7であり、フェンリルは3で合せて10、その彼らが敗れたのであれば、自分も勝ち目はないであろう。


 そのため、魔王はどうせ敗れるなら、親友を蘇生させる事を選んだのであった。


「それならば、我らが勇者共と戦って、奴らの力を削ぎます!」


 悪魔魔道士ベリルルを筆頭に、命を捨てて勇者の力を削る提案をしてくるが、魔王はこう言って皆を窘める。


「馬鹿なことを言うな。ベリルル、お前が死んだら、年老いた両親はどうするんだ?」

「それは…」


「メフィレには子供が5人いるし、カークラースはこの間子供が生まれたばかりだ、命を無駄にすることはない。勇者PTは我が一人で相手をするから、皆は今日の内に城を退去するがいい― いや、退去せよ!」


「そんな! 魔王様を一人で戦わせるわけには!」

「そうです! 魔王様だけを死なせるわけには!」


 人望で魔王に選ばれた彼に、その選んだ部下達は一緒に戦うことを望むため、魔王は彼らが安心して城を後にできるように例の作戦を説明する。


「我は敗れるとしても、人間共に魔王と魔族の矜持を見せねばならない。それに、奥の手も用意している」


「奥の手とは?」


「実はこの魔王の部屋に、転生魔法の術式を施しており、後は転生場所と時間、種族を明日敗れそうになった時に、魔力を注ぎ込みながら転生先の条件を指定して、術式を発動させれば転生できる仕組みになっている。我は転生先で捲土重来を図るつもりだ」


 勇者PTの予想以上の猛攻に、転生先などの条件を設定できなかったのは、前述した通りである。


「おお…」

「転生した時は、いつでもお呼びください。必ずや馳せ参じまする!」


「うむ。我が魔王として復活したその時には、遠慮なく頼らせてもらう!」


「城から退去する時に、宝物庫の宝を退職金代わりに持っていくがいい」

「魔王様……」


 部下達は名残惜しそうに、魔王城を一人また一人と去っていく。


「アルイゼス(魔王の本名)… 別れの言葉は言わんぞ。だが、必ずまた会おう」

「ああ、アスイオス」


 最後にアスイオスが、親友とそう再開の約束を告げて、フェンリルを伴って去っていった。

 魔王の部屋には、彼と使い魔であるイビルキャットのキャスパーグだけが残る。


 イビルキャットは、悪魔のような翼の生えた黒猫のような姿をしているが、その可愛い外見とは裏腹に爪は鉄を切り裂き、低級ではあるが魔法も使える魔獣である。


「魔王様、転生した暁には、わたくしめを召喚してください。老体なれどお役に立ってみせます」


「うむ、その時はよろしく頼む」


 こうして、魔王デスヘルダークは勇者PTと死闘を繰り広げ、余裕がなくなって人間に転生することになる。


 アルス達が、王都の<冒険者養成学校>に通うようになって半年がたった頃、二人は年始年末の長期休暇で実家に帰ってきていた。


 半年たったがフィリアとの差は埋まらないため、アルスは新たに考えた⑧を実行することにする。


 ⑧昔の仲間と連絡を取って、力を合せてフィリアに対抗する


 200年経ってはいるが、魔族の寿命は人間よりも遥かに長いため、皆存命であろう。


 だが、人間のアルスが魔界に会いに行けば、出会う魔物や魔族全てと戦闘になり、旅どころではなくなってしまう。


 そこで、まず使い魔のキャスパーグを召喚して、彼に元の仲間達への繋ぎをつけて貰い、向こうから人間に化けてこちらに来てもらうことにする。


 体調が悪いと嘘をついて、家族が出かけた時を見計らって、キャスパーグを召喚する。


「召喚は魂の契約だから、有効なはずだが… 」


 自室の床に召喚用の魔法陣を描くと指を口で噛んで、血を出すというカッコイイ方法を用いようとしたが、痛そうなので針で指先を突いて血を数滴魔法陣に垂らすと、すぐに回復魔法で回復させてから召喚の儀式を続ける。


「いでよ! 我が下僕、キャスパーグ!!」


 魔法陣が輝きだし煙とともに、中央に悪魔のような翼の生えた黒猫のような姿をしたイビルキャットのキャスパーグが出現する。


「魔王様、キャスパーグ、お呼びにより参上いたしました」


 召喚されたキャスパーグは、左前足を前にして腹部に当て、右前足は後ろに回して頭を深々と下げる。


「この姿でも我だと解るのか?」


「わくしめと召喚契約しているのは、デスヘルダーク様だけです。それに、姿は変わっておられても、魂より感ずる魔力は魔王様のそれですからな」


 アルスの疑問に、老齢で白髪交じりの黒猫は丁寧な口調でそう答える。


「それなら、話が早い。実は… 」


 彼は今迄の経緯とフィリアの事を話した後に、作戦⑧を説明する。


「魔界でもあの勇者の子孫の力は噂になっております。それ故デスグレモンド以降、挑む者はおりません。今のところはですが…」


「そうか… では、キャスパーグ。さっそくだが、まずアスイオスに連絡を取ってくれ」


「そのことなのですが… 実は魔王様… わたくし5年前に腰をやってから、引退しておりまして… 」


「ええー 」


 次回に続く。

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