第21話 Sの森⑧
やたらと長く感じた動画撮影初日を終え、翌日俺は編集作業に取り掛かった。
特にそういった編集作業が得意という訳でもないが彼奴らに任せて今までの様な動画を作り上げられたらたまらないので引き受けてみた。
しかし、いざやってみると思いのほか苦戦している。
「いや、これズレてるかな?もうちょい手前から繋げるか」
「いやいや、そこ手前から繋げたら本名で呼びあってる所も入っちゃうよ?『ピー』とか入れるの?」
「あぁもう。カメラ回してる時はちゃんとしとくべきだった」
美優に手伝ってもらいながらも頭を抱えている。
「はいはい、イライラしない。珈琲入れるからちょっと休憩しない?」
美優は微笑みながらそう言って立ち上がりキッチンの方へ歩いて行く。
休日の昼下がり。いつもなら美優とゆっくり過ごしたり、何処かへ出かけて満喫したりしているのに今日は編集作業に追われている。
簡単に請け負った事を少し後悔していると、入れたての珈琲の香ばしい匂いと共に美優が戻って来た。
「はいどうぞ」
「あ、ありがとう」
皆が撮った動画を流し見ながら美優が入れてくれた珈琲に手を伸ばす。
「ふぅ、落ち着くなぁ」
入れたての自分好みの珈琲は、心を落ち着かせてくれる。
「それは良かった」
そう言って美優は横で微笑んでいる。
「え?ちょっと待って」
横で一緒に動画を見ていた美優が突然食い入るように画面を凝視する。
俺達には見えない様な何かが映ってしまっているのだろうか?
「え?ひょっとして何か映ってる?」
気になり恐る恐る聞いてみる。
「・・・健太が思ってる様なのが映ってる訳じゃないんだけど、逆に誰が見てもわかるのが映ってるよ。わかったら少しゾクッとするかも」
そう言って美優が動画を少し戻す。
画面に映し出されているのはSの森の最後の場面だ。
女子3名で締めのトークをしている所だ。
そしてその後、皆で手を合わせ頭を下げる。
「ここ!健太見て。この慰霊碑」
そう言って美優が指を差す。
最後皆で手を合わせる時に、俺も手を合わせる為に足元にカメラを皆が映る様に置いたんだが、画面の端の方に慰霊碑も映っていたのだ。
動画を一時停止し、画面をズームして美優が指を差した場所を見た時、確かに俺もゾッとした。
その慰霊碑には『稲見 幸太郎』と記されていた。
「いや、ちょっと待て。・・・彼奴らが会ったって言ってた人って確か・・・」
「そう。稲見さんて言ってたよね」
「・・・何かの偶然なのか?それとも・・・」
とりあえず他のメンバーに連絡して、集まって皆の意見を聞く事にする。
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