第20話 Sの森⑦

「いいか、俺と美優がお前達がいない事に気付いて戻って、そして探して5分だ。そこから歩いて御神木の所まで行くのに5分程だった。だからお前達とはぐれてた時間はおよそ10分程のはずだぞ」


「え?ちょっと待って。私達が健太君と美優ちゃんがいない事に気付いて探してたのが5分ぐらい。そして御神木まで5分ぐらい。そこで5分ぐらい待った後に稲見さんが現れて、そこから稲見さんと10分ぐらい喋った後に健太君達が来たんだから、私達的には25分ぐらいはぐれてた感覚なんだけど」

 佐和子が戸惑いながら説明するが、恐らく全員が戸惑っている事だろう。


 その後、もう一度録画した動画を見比べたりするも、特に結論には至らなかった。


 そして議論は帰りの場面に移る。


「なぁ、そもそも帰り、御神木から森を抜けるまでの時間もおかしかっただろ?」

 ノブが皆を見渡しながら問いかける。


「そうだね。帰りは確かに早足にはなったけど御神木から森を抜けるまでに5分ぐらいだった。行きも帰りも一本道のはずなのにちょっとおかしいよね」


 正直こんな事は予想外だ。

 過去に心霊現象にあった身としては動画や写真に霊が映ったり、機材が原因不明のトラブルに見舞われたりとかならまだ覚悟はしていた。

 しかし、時空を超えたと言えば言い過ぎかもしれないが、お互いの時間軸がズレた様な現象が起こるとは夢にも思わなかった。


「さてと、ここでこれ以上議論してても進展はないんじゃない?それに皆疲れてない?私は正直疲れたよ。ここら辺で今日は一旦解散として皆ゆっくり休もうよ。そしてまた後日、今日の事考えよう」

 美優が提案し、皆それに納得した。


 俺は1人1人家に送り届けながら帰路に着いた。


 全員を送り届け、美優と2人アパートに帰って来て、部屋で落ち着く。


「なぁ美優。今日色んな所行ったけど何処も見えたりしなかったのか?」

 皆いたから聞けなかったがずっと気になっていた事を聞いてみる。


「うん、何も見えなかったよ。まぁ年々そういうの見えなくなってきてるから、私がただ見えなかっただけでそこにいたかもしれないけどね」

 美優は笑いながらあっけらかんとしている。


「おいおい、怖いな。まぁ美優からしたら見えなくなる方がいいんだろうけど」


「まぁ見たくはないかな、正直。でもあの森に入った瞬間、空気が変わったのはわかったよ。逆にわからなかった?」

 美優が横で膝を抱えながら首を傾けこちらを覗き込んで微笑んでくる。


「まぁそう言われればそんな気もするけど、夜の森なんて雰囲気あるからなぁ」

 俺はそう言いながら美優の肩をそっと抱く。


「ふふ、長い1日だったね。流石に疲れた」

 美優がそう言いながら体を預けてくる。


 今日初めて動画撮影に同行した訳だが、5箇所も回ったせいかやたらと長い間動画撮影していた様な気分になる。

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