第19話 Sの森⑥
「とりあえずさぁ、ここで議論してても仕方ないし早くここ出ない?」
そう朱美ちゃんが提案する。
確かにこんな所に長居したくないのは皆同じ様で帰り支度を急ぐ。
「ちょっと待って。ここまで来たんだから撮影だけはさせてほしいの。お願い」
佐和子が慌てて頼み込む。
「まぁ確かにそうだな。じゃあ俺がとりあえずカメラ回そうか」
俺はカメラを録画モードにして皆に向ける。
「じゃあとりあえず御神木から最後皆で手を合わせる様にしようか」
泰文が流れを取りまとめる。
「さぁこのSの森。最奥にある御神木までやって来ましたが立派ですね~」
佐和子が御神木をバックにリポートする。
「うわぁ、なんか雰囲気あるね~」
美優がちょっとオーバーなリアクションを取りながらそれに答える。
「こういう真っ暗な森の静寂に包まれた中で見ると
朱美ちゃんは御神木の傍らで佇み、1人頷いている。
そんな皆をカメラに収めた後、足元にカメラを置き皆で手を合わせる。
そして足早にその場を後にした。
御神木を後にし暫くすると森を抜けた。
『やはりおかしい』
率直にそう思った。
恐らく皆同じ様な思いだろう。
車を停めてた場所まで戻って来た時にどうしても我慢出来なかったのかノブが口を開く。
「なぁ、帰りにかかった時間、どう考えても短くないか?」
「それも踏まえて何処か別の場所で話し合おうぜ。とりあえず今は一刻も早くここを離れたい」
俺の今の偽らざる本音だった。
車に全員が乗り込んだのを確認すると俺は車のエンジンをかけ、ようやくSの森を後にする。
田園地帯を伸びる幹線道路をひた走り、郊外にある24時間営業のファミレスまで戻って来た所でようやく一息つく事になった。
「ふぅ、とりあえず俺と美優の行動とお前達4人の行動をすり合していこうか」
「まず俺達はお前達から少し離れるように先行していた。そして俺が転けた時に振り返ったらもう既にお前達の姿はなかった。ちょっとの間、その場で呆然とした後お前達がいたと思われる所まで戻ってみる。ここまでお前達とはぐれてから5分弱だ。長くみて5分としようか」
俺は自分達の行動を1つ1つ思い出す様に説明する。
「じゃあ俺達は、健太達がいない事に気付いて皆で近くを捜索したけど見つけられなかった。多分5分ぐらいは探してたと思う」
泰文が皆を見渡し、皆も頷いている。
「そして御神木を目指そうって事になって一応周りを気にしながら進んで行ったら御神木に着いたんだ。ここまで更に5分ぐらいかな。そこでN建設の稲見さんて人と出会って少し喋った後帰って行って、その後に健太達が来たんだ」
「ちょっと待ってくれ。その稲見さんが帰った後に俺達が来たんだよな?その稲見さんて人はどれくらいそこにいたんだ?」
「えっと、稲見さんの愚痴とかも聞かされてたから10分ぐらいかな?」
「いや、ちょっとおかしいぞ。時間が全然合わない!」
狐につままれた様とはこういう事を言うのだろうか?
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