第17話 Sの森④

 茂みの中から現れたメガネをかけた男性は稲見いなみと名乗った。


「ねぇ佐和子ちゃん。許可もらってるんだよね?」


 朱美が佐和子に確認する。


「うん、もちろん。あっ、これその時にもらった名刺です」

 そう言って佐和子は持っていた名刺を稲見に見せる。


「こちらの社長さんには今日、これぐらいの時間に動画撮影させてもらうって説明してたんですけど」

 佐和子は少し上目遣いで稲見に説明する。


「あぁ、そうだったのか。いやぁ申し訳ない。最近肝試しだなんだと若い人達が無断で入ってきてゴミとか散らかしっ放しで帰ったりするから警戒してパトロールしてたんだ」

 稲見はアタマを掻きながら説明する。


「いやぁ会社からは何も聞かされてなかったからまたかって勘違いしてしまってさ、申し訳ないね」


「あぁ、私達もこんな時間に騒いで申し訳ないです。稲見さんはいつもこんな時間まで見回ってるんですか?」

 朱美が頭を下げながら稲見に質問する。


「いや、いつもって訳じゃないんだけどね。一応ここの管理者だからたまに見に来てるんだよ」


「うわぁ、大変ですね。ご苦労様です。建築業界ってブラックですねぇ」

「ちょっと!」


 泰文の失礼な軽口に流石の佐和子も険しい表情を見せる。


「ははは、いや本当にそうだよ。残業は凄いし、休みなんてあってない様な物だし、会社からは『納期は守れ』『早くしろ』『安全第一』なんてめちゃくちゃプレッシャーかけられるしね」

 稲見は冗談めかしながら話ている。

 そのまま稲見の会社や仕事の愚痴のようなものを暫く聞かされる。


「まぁここの逸話知ってて来てるんだろうけど、戦国時代の処刑場って話は本当だし、ウチの従業員が昔ここで作業中に亡くなったのも本当の話だからね」


「あ、あのその時に亡くなられた方って心臓発作って聞いたんですけど元々持病があったんですか?」

 ノブが恐る恐る質問する。


「ああ、心臓発作らしいよ。持病があったかどうかは聞いてないけどその時の現場管理者はだいぶ責任感じてたみたいだね」


「あの、私達の友達2人とはぐれてしまったんですけど、何処かで見かけませんでしたか?」

 朱美が健太と美優の事を聞いてみる。


「はぐれた?この森で?う~ん、わからないなぁ。俺は君達以外の人には出会ってないなぁ」


「そうですか。ありがとうございます」

 落胆する朱美に、それを慰めようとするノブ。


「まぁ君達なら大丈夫だと思うけど、そうだな、帰る時は手ぐらい合わせてやってくれないかな」


「あ、はい。わかりました」


 そう言うと稲見は帰って行った。


 結局2人の手がかりは無く再び途方に暮れる4人。


「こうなったらもう警察に連絡するしかないよね」

 佐和子が覚悟を決めた様に言う。


 その時背後から聞き慣れた声がした。


「あ、皆いるじゃん!朱美ー!」

 振り返ると美優と健太がいた。


「美優ー!」

 慌てて朱美が駆け寄る。

 その目には少し涙を浮かべていた。

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