第15話 Sの森②

「ミューちゃん、ちょっとこの先見に行かない?」

 俺はそう言って美優と2人先に行く。


 カメラを森の奥に向けたまま、顔だけを横にいる美優に向ける。

 俺の意図を察して美優は首を少し横に振り、声を発せずに口元の動きだけで『何も』と伝えてくれる。


「ふぅ」

 どうなっているんだ、と思いながらため息が漏れる。

 仕方なく進んでいると


『ガツ!』

「うわっ」


 木の根につまずき豪快に転んでしまった。


「ちょっと大丈夫!?」

 美優が面を外して慌てて駆け寄ってくる。


「いてて、最悪。こんな暗闇で真っ黒なサングラスかけてるから足元なんか全然見えない!」

 そう言って後ろを振り返ると他のメンバーの姿も見えない。


「あれ?彼奴あいつらは?」

 俺が不思議に思い問いかける。


「ん?あれ?そんなに離れちゃった?」

 美優も困惑の表情を浮かべている。


 張り詰めた空気の中、暫し沈黙が訪れる。


「彼奴の悪戯いたずらとかなら怒ってもいい所かな?」


 俺が空気に耐えきれず口を開くがむしろ悪戯の方が笑えるかもしれない。


「そうだね。私も朱美にちょっとやり過ぎだよって抗議しようかな」


 美優が手を握ってきたので俺も自然と握り返す。


 暫く2人で他のメンバーを待つが俺達以外の気配は全くしない。


「美優、なんか色々と嫌な予感がするけど、とりあえずちょっと戻ってみようか」


「そうだね。お願いだから手離さないでね」


「勿論離さないよ」


 心の中で『一生』と付け加えて、来た道を戻って行く。

 美優の手からも不安が伝わってくる。


 たまに霊が見えたりすると言っても別に美優は霊能者という訳じゃないんだから無理もない。

 何よりこんな現象は想定外だ。


 そして暫く戻ってみたがやはり他のメンバーは見当たらなかった。


「さてと、やっぱり誰もいないんだけど分かれ道ってなかったよな?」


「たぶんなかったと思うよ。どうする?」

 美優は俺を見つめながら眉毛を八の字にして、困った様に微笑む。


 俺もどうすればいいか正解はわからないが美優を不安にさせない為にもしっかりしなければならない。


「とりあえず御神木目指して進んで行こうか。とりあえずそこがゴールだし彼奴らもそこを目指してるはずだし」


「そうだね。まぁ2人だしデートしてるつもりで行こうか」

 美優が明るく答えてくる。


「こんな夜中に森の中で?」


「もう!せっかくポジティブに考えようとしてるのに!」


「あ、ごめんごめん。そうだな、デート気分で行こう」


『・・・そう思うと今日の美優の浴衣姿いいよなぁ』

 そんな事を考えながら美優の方を見つめていると


「ちょっと!なんか変な事考えてないよね?流石に嫌だからね!こんな所で」


『お前は読心術の心得でもあるのか!?』

 と思いながらも慌てて取り繕う。


「いやいや、そんな訳ないだろ。さぁ行こう」

 そう言って下心を隠しながら美優を引っ張って行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る