第5話 高校進学

 この頃になると、無言電話がしょっちゅうかかってきて、父はズブズブと沼にはまるように相手の女にはまっていった。今まで聴かなかった曲を聴き、帰ってこないことも増えた。

 私の暗い森にも、騒がしく好きでもない曲が流れ出すが、今までより追われる感じがないのが救いだった。


 中三を迎えた私は、高校進学を希望した。出来れば大学にも行きたい。そんな私に父は条件をつけてきた。


 高校が私立ならば、大学は国公立。

 高校が公立ならば、大学は私立。


 こんな分かりやすい選択はない。勿論後者を選んだ。だが、私立に行かないことに決まった段階で、普通は受けるであろう滑り止めの私立を受けるのは、一切まかりならぬとのお達しが降ってくる。その時の担任が、新卒音楽教師はじめての担任受け持ち、というトリプルアタックで、途方に暮れた。何度も私立を受けて、準備してはどうかと聞かれたが、父の耳は閉じていた。仕方なく、私は志望校を代えて、学区で下から2番目に数えられる学校にレベルを落とした。

 結果、無事です合格。これで大学は私立に行かせて貰おうじゃないか、と、私は息巻いた。底辺校の怖さも知らずに。


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