第十五話 プレゼントを手渡しに


「これで、お二人は地球へ帰還されても、問題ありません」

 と、若い男性係官に言われても「はいそうですか」とは、ゆかない二人だ。

「それは良いのですが、その…先ほどの映像に関して、なのですけれど」

「はい…?」

 何か問題でも?

 と、本気で解らない様子。

 あんな恥ずかしい映像は消して下さい。

 と言いたいマコトだけど、さっきの裸映像を思い出されるのも恥ずかしくて、口にし辛い。

 中性的な王子様のような美顔を魅惑的に悩ませるネコ耳美少女捜査官に代わって、無垢なお姫様の如く愛顔を恥ずかしそうに微笑ませるウサ耳媚少女捜査官が、懇願をした。

「先ほどの映像の消去を、お願いいたします」

 強い意思を感じさせる二人の視線に、男性係官は、言いづらそうに、しかし正直に話してくれる。

「えぇと…ステーションでチェックをされた映像に関しましては、要請があれば消去いたします。ですが…」

「「?」」

 そもそも惑星サベージは、当然だけど領有主である主星カナイマンの領星であり、サベージに関する権限の全ては、その所有主である惑星国家カナイマンに帰属している。

「それで、記録用の無人ドローンの映像に関しまして、当ステーションだけでなく、カナイマン本星の記録施設へも リアルタイムで送信されておりまして…」

 そちらの管理や運用は、全て主星である惑星カナイマンの行政の、管轄である。

 というのが、惑星連合でも共通しているルールだ。

「つまり」

 記録映像の所有権が惑星国家にある以上、特殊捜査官の二人がどれ程の懇願をしようと、まあ門前払いである。

「しかも今回の映像ですが、まさしく、歴史的な記録映像でありますので」

 生態すら解らなかったハチ類や、絶滅したと思われていた熊類、新種発見である植物や、ツノゴリラの新たなる生態など、科学的にも生物学的にも、世紀の映像と言えた。

 ちなみに、裸の二人に這い寄ったイヤらしい形の芋虫と、岩の眼球は、特に珍しい生物や生態でもないから、そちらに関しては惑星国家でも消して貰えるかもしれないと、係官は言う。

(どっちも、ボクたちが上からの後ろ姿の映像だよね)

(ですわ)

 となると、確認しておきたい事もある。

「一応、お尋ねしますけれど…あの映像が生態記録の映像でしたら、つまり 誰もが閲覧可能 なのですか?」

「いえ、それは有り得ません」

 貴重な資料映像だからこそ、一般の誰もが閲覧可能、というわけではない。

「生物化学の研究機関に関わる研究者のみが、政府に申請した上での閲覧可能、という扱いでしよう」

 それはつまり、生物科学者であれば誰でも閲覧できる、という意味でもある。

(あまり 変わらないと思うけれど)

(ですが、致し方ありませんですわ)

 なにせ相手は惑星国家であり、しかも生物学的に歴史的な記録映像であるという点は、捜査官である二人も理解が出来てしまう。

 とにかく、大自然の中で野生生物と望まずにも戯れたあの全裸映像が、生物学以外の興味本位で閲覧されない事を、祈るだけだ。

「…解りました」

 二人は綺麗な敬礼を捧げると、凛々しい美顔のまま、宇宙船の発着港へと向かう。

 裸の映像が残されるという恥ずかしとを必死に隠しながらも、ケモ耳とケモ尻尾が羞恥にピンと立って二人のTシャツが捲れ、大きくて丸々艶々なヒップが、無意識にも露出してしまっていた。

 港に接岸されている専用航宙船ホワイト・フロール号へ乗り込むと、二人はコックピットでTシャツを脱いで裸になって、予備の正式スーツへと着替える。

「男性用のTシャツ姿のマコト とてもセクシーで魅力的でしたのに♪」

「ないよ。むしろああいう恰好こそ、ユキみたいに庇護欲を刺激する女の子が来ている方が、男性たちの好みだよ」

 と、マコトは係官たちの視線を思い出しながら、言い切る。

 マコト自身が自分の魅力に無自覚であり、自分へも同じ熱い視線が向けられていたけれど、いまいち気づけていないのだ。

 正式スーツであるメカビキニへと着替えたら、気持ちがシャキっとする。

 捜査官モードになった二人は、コックピットのシートへとお尻を降ろし、男性係官へ発進の許可を申請した。

「こちら、地球連邦 対外惑星捜査部所属、ホワイト・フロール号です。発信許可を お願いいたします」

『こちら惑星サベージ・ステーション。発信を許可いたします。お疲れ様でした』

 労いの挨拶を貰って、白鳥がロックを解除される。

「ホワイト・フロール号、地球へ向けて 発信いたします」

 ユキの操縦で。航宙船ホワイト・フロール号が光の軌跡を残し、漆黒の宇宙へと飛翔をした。


 数時間の通常航行とワープによって、二人は公海強盗に遭った老夫婦の住む惑星へと到着。

 宇宙ステーションへ入星許可を申請して、捜査官特権でもある、専用線のままで惑星の宇宙港へと着陸。

 行政機関に連絡を取って、被害者の老夫婦の家へと、エレカで向かった。

 老夫婦の屋敷は大きくて綺麗で、よほどの資産家であると解る。

「おおぉ…こんなにも早く、取り戻してくださるなんて…」

 出迎えた老夫婦は、大切な孫娘へのプレゼントを受け取りながら、感謝の涙で顔を濡らす。

「良かったですね」

「私たちも、とても喜ばしいですわ」

 悦びを分かち合って、二人は豪邸を後にする。

 老夫婦はプレゼントを抱いたまま、ビークルが見えなくなるまで、見送ってくれた。

「大変だったけれど、プレゼントを取り戻せて 良かったよね」

「ええ。あのような方々の笑顔こそが、私たちへの この上ない報酬ですわ♪」

 ビークルを操作するユキの鼻歌も軽やかで、惑星での恥ずかしい体験も、どうでも良くなる。

(まあ、あの映像に関しては、諦めるしかないけれど)

 この日の、ホワイトフロールの活躍と老夫婦のエピソードは、後にこの惑星での暖かな出来事として、語り継がれてゆく事となる。

 宇宙港へと戻って、白鳥を宇宙へと飛翔させてから、マコトが今回の出来事を、上司であるクロスマン主任へと報告。

『なるほど、ご苦労だったね。地球へ帰還しだい、報告書を提出したら 二~三日ほどノンビリするといい。以上だ』

「は、はい」

 として、通信が終了。

「…ユキ、聞いた?」

「今の クロスマン主任のお言葉って…」

 二人の功績を認めて、帰星したら数日、休暇をくれたのだ。

「主任が、ボクたちの働きを 認めてくれたんだね」

「うふふ。とても 幸せですわ♪」

 ユキは早速、休日の過ごし方を考えてウキウキしている。

「ドコに行きたい?」

「惑星トロリヤで、新しく発売されたという、トロリヤケーキを食べてみたいですわ♡」

「うん、食べたいね」

 マコトも、ユキに負けじと心がウキウキ。

 白鳥の翼も軽やかに、二人の心は美味しいケーキの惑星へと飛翔をしていた。


 約一日の時間を要して地球本星へと帰星したマコトとユキは、クロスマン主任へと報告書を提出する為、本部へと向かう。

「ハマコトギク・サカザキ、帰還いたしました」

「ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼン、帰還いたしました」

『入りたまえ』

 今回は全く叱られる要素もないどころか、ご褒美に休暇まで貰える二人である。

 輝く笑顔をいつも以上に眩しく輝かせ、主任へと報告書を提出した。

「被害者であった老夫婦から、キミたちへ、あらためて礼状が届いているよ」

 古式ゆかしい紙のお礼状を、恭しく受け取るマコトとユキは、しかし別なる、予想外で恥ずかしい報告も受ける。

「それと、これはつい先ほど 銀河生物学会に発表された、レポート映像だ」

「「?」」

 壁の大型モニターへと映し出されたのは、銀河生物学会での、惑星サベージに関する学術レポートと、その映像データ。

「あっ!」

「まあ!」

 文書での報告は、惑星上で確認された生物に関するレポートだけど、添付されている資料映像は、あの恥ずかしい体験動画だった。

 巨大スズメバチに裸へと剥かれる様子や、熊たちから逃走する際の全裸化、裸での大の字拘束での放尿や、六本腕ゴリラによる全裸天上開脚の痴態など全てが、鮮明な映像で確認できてしまう。

 巨乳や巨尻、開かれた秘処の綺麗で繊細な前後内部の隅々、まさに純潔の証までもが、クリアな映像で全く隠されてなど、いなかった。

「…これは…」

 これは単に、生物学的な記録としての側面と、惑星ごとに公開禁止の基準が違う故の、映像処理である。

 それでも唯一、二人にとっての救いと言えたのは、顔と音声だけは非公開処理をされてからの、映像データ提出を経ての公開だった事だろう。

 この映像をどれほど弄ろうと、全裸少女たちの素顔や正体は、絶対に解らない。

 とはいえ。

「…これが、その…学術報告として…」

「つまり、あの…一般公開…ですわ」

「そうだね。知性は全人類共通の財産だからね」

 クロスマン主任のお言葉は、いつも通りに冷静だ。

 素顔がバレなくても、二人の裸が詳細に銀河中へと公開された事に、消え入りたい気持ちのマコトとユキだった。


                     ~第十五話 終わり~

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