第十三話 映像検証室で


「それでは、こちらへ…いらして下さい…」

宇宙船ドッグへ向かう通路で、扉が開いて、係官の男性が二人を呼ぶ。

 うら若き女性捜査官たちが、ブーツとグローブと大きなTシャツだけという扇情的なスタイルである事に驚き、視線を泳がせつつ先を歩いた男性係官。

 係官の後を歩きながら、二人は、係官の言葉が詰まった理由を理解する。

(ボクたちが 下を着けていないの、やっぱりわかっちゃったかな)

(それはそうでしょう。サイズ的に、シャツの下から覗けている筈のトランクス・タイプのパンツが、見えていないのですから)

 二人がノーパンだという事に気づいた男性係官だけど、とはいえ「下着は着用されないのですか?」とか、さすがに気まずくて訊けないだろう。

 マコトたちにしても、下着を着けていない理由が「お尻がキツくて通らなくて、無理に引っ張ったら破けました」なんて、恥ずかしくて言えない。

 なのでユキもマコトも、敢えてスルーな空気のまま、係官に付いて歩いた。

 歩きながら、何かの要件でもあるのかなと考えて、思い当った。

「あ、そうか…あ!」

 思い出して、慌てるマコトは、美しい中性フェイスを恥ずかしさの焦りで朱く染めて、黒いネコ耳がピクんと立ってしまう。

「? どうかいたしまして?」

 パートナーの慌て美顔に、ウサ耳をピンと立てて、無垢な問いかけ表情のユキだ。

 マコトは小声で、思い出した事を話す。

(惑星に降りた時、無人のドローンが 上空からボクたちの事、撮影していたよね)

(ええ。生物の保護惑星となっている地に降りる際の、銀河ルールですもの。おかげで、私たちの行動に犯罪性は無いと、映像で証明されますわ)

 ユキは、まだ思い当らない。

(ボクたち、惑星で どんな目に遭った?)

(…あ)

 ようやく、理解できたらしい。

 ポッドでステーションを発進したあたりから、降下して荷物を回収してステーションへと戻って来るまでの間、二人の全てが。上空のドローンで撮影されていたのである。

 それはつまり。

(全部…ですの…?)

(全部だよ きっと…)

 そして二人が連れられているのは、ポッドと揃って帰還したドローンの映像を、降下した当事者たちとステーションの係官たちとで一緒にチェックをして、惑星上での行動に違法性が無いかを確認する、映像検証室であった。

(そこまでが、惑星降下の責務だったっけ…)

(それは、つまり…)

 ドローンによってつぶさに撮影された、惑星サベージにおける野生生物たちと二人の過激な触れ合いを、男性係官たちと一緒に検証をする。

 それも、最初から最後まで。

(これをしないと、惑星生物保護法違反で、ボクたちは逮捕されてしまうから)

(…なんという…)

 マコトよりもヌードに抵抗感の薄いユキでも、あの恥ずかしい体験の映像を、同じ公僕の男性たちと見るのは、相当に恥ずかしいようだ。

 かくいうマコトも、もし捜査官でなければ出禁も覚悟で逃げ出したい程である。

 そんな恥ずかしい直近未来に戸惑いながら、二人は映像検証室へと到着。

 規定により、生物専門のフクロウ系異星人の係官と、犯罪行為専門の金属生命体の係官も同席をして、男性検証者は合計三人。

 つまり、このステーションにいる男性係官、全員だ。

「どうも」

「お疲れ様でした」

 部屋で待機していた男性たちは、二人のノーパンぶかぶかTシャツ姿に対して、常識としては驚いたものの、種族が違う為か、生命体としての欲求には刺激を受けていない様子。

 地球人類と激似な男性係官が、上気して俯きつつ、横並びなシートへの着席を掌で促す。

「こちらへ…」

「どうも」

「ありがとうございます」

 さり気なく「気にしておりません」という芝居が丸出しなマコトに比して、ユキは本当にノーパンをスルーしているような、完璧芝居だ。

 正面の壁が一面、巨大なモニターとして機能をする。

 五つのシートには、向かって右から、ユキ、マコト、生物担当、犯罪担当、そして出迎えた若い係官と、並んで座った。

「では これより、惑星サベージ降下時に於ける、お二人の行動を検証いたします」

「「はい」」

 逃げるワケにもゆかず、二人は揃って、恥ずか死の死刑台へと上げられる気分だった。

 ドローンからアップされた動画が再生されると、ポっドがステーションから切り離される場面から。

 外から撮影されているけれど、音声はクリアだ。

『ポッド発進』

『初めて扱うんでしょ? やっぱり上手だね』

 操縦席での二人の会話も、特にHではないけれど、他人に聞かれると恥ずかしかったり。

 この辺りで止めませんか?

 と言いたいけれど、それは無理だ。

 ポッドが惑星へと降りて、二人がポッドから大陸の大地へと立ち、墜落したカーゴへと歩いて、目的の荷物を回収して、ノンビリと歩いてポッドへと歩いて戻っている。

「ハハハ、特に問題はありませんね。普段、お忙しいでしょうお二人にとっても、気分転換になりましたようで 何より」

 と、犯罪担当の中年金属生命体な係官が微笑む。

「…良い惑星ですよね」

「大自然も豊かでしたし、空気も太陽も樹々の香りも、心地よい体験でしたわ」

 と、そつのない対応をする二人だけど、この先の映像を想うと、先回りな恥ずかしさに責められて、ケモ耳もケモ尻尾もピクピクと震えてしまう。

 画面は、ツノゴリラに気づいて大樹の陰に身を潜める二人の場面だ。

「おお、ツノゴリラと遭遇してしまいましたか。パワードスーツ無しで、よくご無事で」

 生物担当の初老なフクロウ系係官が、二人を気遣う。

 二人が慌ててポッドへ乗り込み、急発進で脱出をしたところで、ツノゴリラが放った岩に驚いたバードストライクが発生。

 ポッドが落下し、宇宙港までの二人の逃走劇が始まる。

「なるほど。これで、帰還までに時間が掛かったワケですな」

 犯罪担当係官が、やはり犯罪性は無いと、安心をする。

 ポッドから脱出をした二人は、ツノゴリラとの戦闘行為を避けて、匂い付けなどでツノゴリラの気を逸らしつつ、宇宙港を目指して森の中へ。

 生物担当の係官が。素直に感心をくれた。

「ふむ…ツノゴリラの脅威に晒されながら、パニックに陥る事もなく、実に冷静に対応と逃走をされていなさる。流石は、銀河に轟く特殊捜査官、ホワイトフロールのお二人ですなぁ!」

 という賞賛の言葉に、犯罪担当係官も頷く。

「いやまったく。あのような状況になると、生物学者の先生たちでも、無闇に麻酔銃を乱射してしまう方もおりますのに。いや実に、今後の惑星調査における、緊急対応のマニュアルとするべき映像ですよ!」

 二人でウンウンと頷き合って、若いケモ耳美少女捜査官たちの対応に、心底から感心しているようだった。

「お褒めに預かり、光栄ですわ」

 妙にかしこまった言い方のユキ。

(これからの映像が恥ずかしくて、ユキも緊張している)

 と、マコトは自分と同じ心理のパートナーを想う。

 森を駆けて逃走している二人の姿が、後方斜め上空から撮影されている。

 高度十メートルほどからの撮影だけど、走る二人の大きなTバックヒップが左右に揺れる艶も柔らかさも、鮮明だ。

「………」

 露出過多な美少女捜査官の艶々美尻を見続けるのは、ステーションの監視員でも滅多にない体験なのだろう。

 学者たちの生物調査グループなら、顔以外の全身が隠れるような防護服が当たり前だし、ジャングルを駆けるメカビキニ娘たちのややフェチな映像なんて、見た事が無くて当然である。

 検証映像は早送りなんてしないので、しばらくは逃走する二人の、メカビキニに包まれた揺れるヒップや弾む巨乳が目を引く映像が、室内に流れた。

((………))

 当事者たちの前でこのようなセクシー映像を見る男性たちも気まずいけれど、見られる二人もそれ以上に気まずいというか。

 まるで自分たちのスタイルを自慢しているようで、根拠も無く、申し訳なく感じたり。

(はやく、終わって…)

(ですが、この後は…)

 ユキがヒソヒソと告げた通り、画面の中では、マコトの背後の大樹で蠢く巨大スズメバチに、ユキが危機感を現している場面となった。

「おおっ! こっ、これは…っ!」

 まだ恥ずかしいシーンではありませんですが。

 と思ったら、生物担当係官からは、知的に興奮する言葉が溢れる。

「サベージ・シンリン・スズメバチではっ、ありませんかっ!」

「「サベージ・シンリン・スズメバチ…?」ですか…?」

 正式名を初めて知った二人に、生物担当係官が、エモノを見つけたフクロウ丸出しな感じの興奮も隠さず、説明をくれた。

「はい! 存在は確認されていたのですが、記録映像としては、一瞬だけカメラに写り込んでいた、くらいの映像しか記録されていない、たいへん珍しい生物なのですっ! それが こんなにハッキリと、しかも長い時間、画像に記録されているなんて…っ!」

「いやぁ! これはたいへん、貴重な資料映像ですよっ!」

 犯罪担当の係官も、保護惑星のステーションに滞在している為か、この映像の価値や興味は、かなり強いようだ。

「「「おおお~…っ!」」」

 ステーションの男性係官たちが、食い入るように、映像を注視。

(そんなに 見ないで戴たい…!)

(もうすぐ、ですわ…!)

 今すぐにでも、この部屋から飛び出して地球まで逃げたい気分の、マコトとユキだ。

 そんな心を冷静な美顔で必死に隠す美少女捜査官たちの心情にも気づかず、男性係官たちは、映像の中の巨大スズメバチに魅入っている。

 そして、マコトとユキがもっとも避けたいその瞬間の映像が、映し出された。


                      ~第十三話 終わり~

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