第十一話 無重力のイタズラ


「ふぅ…本当に、危なかったよ」

「マコトの射撃の才能が無ければ…そう思うと、そら恐ろしい出来事でしたわ」

 安心したら、二人揃ってヘタり込んでしまう。

 宇宙港の着陸ポートに、大きくて丸いツルツルのお尻が、ペタんと着かれた。

「それにしても」

 気持ちよさそうに眠りながら、ツノゴリラは牡の象徴を大きく起立させている。

 その姿は二人が知る限り、人間のソレとほぼ同じような形で、体格に合わせてか、体積は人間サイズを超えていた。

 と、事件現場でイカれた犯罪者のやけっぱち全裸を何度か見ていて、覚えたくなくても覚えてしまった知識である。

 ついでに、少し前にランドホーリーという惑星から地球までの三日間、ヌードになって全身くまなく洗浄などのお世話をした年下の少年たちとも、無意識に比べてしまっていた。

 それはともかく、さっきまで、これを体験させられそうになっていた危機と恐怖を思い出すと、思いっきり蹴っ飛ばしてやりたくもなる。

「…まったく」

 とはいえ、野生の本能に悪意はないし、蹴るにしてもまた牡の生殖器官へ触れる事を考えれば、このまま眠らせておくのが安全な気がした。

「まあ、いいけれど」

 凛々しい中性的な美顔を悩ましく輝かせつつ曇らせるマコトに、ユキが突っ込む。

「あら、マコトったら…」

 無垢なお姫様のような愛顔で、しかもマコトの心理を察しているうえで、イタズラっぽい視線でからかった。

「ちがうよ。ユキのお婿さんに どうかなって」

「あのような強引なお見合いでは、相手方の優しさは測れませんですわ♪」

 とか冗談を言いながら、ポッドへ向かおうと、二人で立ち上がる。

 裸のヒップへ僅かだけ張り付いていた小さな草が、白くて丸いスベスベなお尻肌から、剥がれて落ちた。

「それじゃあ、ユキ」

「ええ。一番ポッドで、ステーションへ帰りましょう」

 ポッドの格納庫へ入り、状態を確認すると、特に問題は無し。

 二人はポッドへ搭乗すると、下部の貨物スペースにザックを降ろし、無重力空間でも荷物が浮遊したりしないよう、ロックで固定。

 ブーツとグローブと除菌首輪のみな裸のまま、操縦席へと上がった。

「自動操縦だっけ?」

「ええ。ポッドの発進ボタンを押せば、後はステーションとのリンクで、オート航行で到着ですわ」

 操縦できない事が、つくづく残念そうだ。

 裸の巨尻をシートへ座らせて、裸体にシートベルトを纏わせる。

 捜査官のスーツは、シートベルトが無くてもシートの吸着システムで人体を固定できる特別仕様である。

 しかし今の二人は、化学繊維でも食べる異様な巨大スズメバチによって、スーツを食べられてしまった、ヌードの状態。

 なので、一般的とも言えるシートベルトで、裸身を固定する事になった。

 肩の上から、双つの巨乳を寄せ合うように黒いベルトをかけて、シートの下から内股を通る二本のベルトと一緒に、腰ベルトのバックルでロックをする。

 左右のシートベルトは上下とも、お腹を護る太いベルトで繋げられていた。

「このベルト、もしかして 旧式?」

「あら、よくおわかりですわ。このタイプの古いシートベルトは、現在ではファッション性に重きを置かない貨物船などでしか、見られなくなったタイプですわ」

 マコト的には、知識として解ったのとは、少し違う。

 シートベルト界隈での現在の主流は、胸とお腹を透明で極薄なカバーで覆うタイプであり、今のマコトたちのように左右のベルトで裸の股間と巨乳が強調されてしまうようなタイプではないという事だけは、知っていたのだ。

 乳房も秘処も隠されず、むしろ左右のベルトで見せつけるように強調されているような、恥ずかしいシートベルトスタイル。

 にも拘わらず、やはりというか、メカヲタクなユキは気にしていないどころか、レアなシートベルト体験にご満悦の様子であった。

「目的のプレゼントは、回収して乗せましたし♪」

「うん。忘れ物はないよ。いつでも発進し…ユキ!」

 フロントのウインドウから外を監視していたマコトの声が、緊急事態だと告げる。

「? 如何 致しましたの…まぁ!」

 ユキも窓の外を見ると、ついさっきまで麻酔弾によって熟睡していたツノゴリラが、眠たそうに半身を起こしたところだった。

「今すぐに、発信いたしますわ」

 スタートボタンを入れると、ポッドが低い振動を発して、浮遊感が伝わってくる。

 そんな振動音に、繁殖予定のエモノが逃げてしまうと解った牡個体は、興奮した生殖器官も剥き出しのまま、上昇を始めたポッドへと走り寄ってきた。

「うわ来た!」

「しつこい子ですわ」

 マコトに比してユキがあまり慌てていないのは、ポッドの性能を熟知しているからだ。

 最初はゆっくりだった速度がすぐに加速をして、数秒と待たずに高度二十五メートルまで上昇をする。

 –グフアアアッ!

 船外監視用のカメラで見ると、ポッドを捕まえようとジャンプをして、届かずに悔しそうなツノゴリラの姿が。

「さすがに この高さまでは、ジャンプ出来ないみたいだね」

「そうでしょうとも、うふふ。ですが、あの表情を見てしまうと、少しだけ 可哀そうにも感じてしまいますわ」

「まあ…ね」

 もし餌とかで慰められるなら、いくらでも置いていってあげたい気分だ。

 ポッドは順調に上昇を続けて、アっという間に雲を抜けて、高度七十キロからの成層圏を抜けて、更に高度な宇宙へと脱出。

「重力圏からの脱出を完了、ですわ」

「シートベルト、もう外して良いよね」

 裸身で巨乳と秘処を強調させられるような辱めシートベルトを外すと、無重力となったポッドの中で、マコトは全身を伸ばして寛ぐ。

「はあぁ…はくく…。なんだか、ヘンに疲れたよね」

 ネコ科動物のように曲げ伸ばしをする裸身が、窓からの太陽光を受けて、立体的で官能的な陰影を魅せる。

「ですが、あの惑星の壮大な大自然は 開放的で魅力的でしたわ」

 開放的なのは二人の肌であったけれど、大自然が魅力的だった事は確かだ。

 無重力空間で、頬杖をつくような姿勢のユキの裸身も、太陽の光によって、誘うような魅惑的なシルエットを纏っていた。

「あ」

 と、ユキを見たマコトが気づく。

「無重力だと、そうなるんだね」

「? なんの事ですの?」

 二人が使用している専用の航宙船ホワイト・フロール号も含めて、宇宙船からステーション、更にはコンテナ船に至るまで、内部は重力制御がされているのが普通だ。

 しかも普段は、露出過多とはいえ捜査官の正式なスーツを身に纏っている、マコトとユキ。

 しかし今、二人は無重力空間に漂いながら、裸身である。

 丸い巨乳が、大きなヒップが、押さえる衣服もなく重力から解放されていて、いつも以上に綺麗な張り出しを艶魅せていた。

 タップリと実った双乳は、浮遊感のままに丸くて大きな柔肌を形作り、たぷたぷと静かに弾んでいる。

 尖端の小さな桃色媚突も、いつもより自由を謳歌しているかのように、愛らしくツンと自己主張。

 重力の影響から逃れている丸いお尻も、いつもより柔らかくプルんと突き出されている。

 身体の動きに合わせて柔軟に張りと揺れを魅せていて、まるで誘惑しているかのように見えた。

「なんだか…色々と すごいですわ」

「うん」

 お互いに恥ずかしい姿だけど、滅多に見られない無重力現象でもあるから、ついそのまま見合ってしまう。

「ちょっと、廻って見せてくれる?」

「…こうですの?」

 パートナーの注文通りに、ウサ耳捜査官が無重力空間で、裸身をクルり。

 空気抵抗なのか、白いウサ耳が少し遅れて廻って、起伏に恵まれた白いボディーを前に後ろにと、観察されていた。

「次は、マコトですわ」

「う、うん」

 ネコ耳捜査官も、裸の肢体をクルりと回転。

 ネコ耳はピンと立ったままだけど、長くてしなやかな黒い尻尾は、裸身に遅れて靡いて魅せる。

 一緒にシャワーを浴びる事もあるし、二人は最近、同じベッドで裸で眠る事が習慣化してしまっている。

 お互いに見慣れている裸の筈なのに、いつもと違う条件での状態を見せ合うと、マコトでけどなくユキも、少し恥ずかしい様子だった。

 ウサ耳少女の大きなタレ目が、熱っぽく濡れている気がする。

 きっとマコトも、同じなのかもしれない。

「…ね、マコト」

「…ん?」

 漂いながら、二人の裸身がゆっくりと近づいて、お互いの掌が触れ合う。

『こちらステーション。一番ポッドの接近信号を確認。まもなく、ステーションへと到着をします。接岸準備、よろしくお願いします』

「「は、はい…!」」

 男性係官の通信で、二人はハっと我に返る。

「こちらは 一番ポッド搭乗員。接岸準備はOKです」

「接続マーカー、グリーンを確認」

 急いでシートへと戻った二人は、捜査官としての使命感に従って、必要な通信作業をこなす。

 今の不思議な熱感覚を忘れる事もなく、そしてとぼける事もなく。

 二人にとっては、昔からの感覚の延長だと、口にしなくても感じていた。


                      ~第十一話 終わり~

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