第九話 宇宙港への侵入者
支給されたパスカードを使用して、ユキがゲートをオープンさせる。
ゲートそのものは、頑丈な細い板のみのシンプルな造りで、主に調査用のビークルなどを停車させる為の設計らしい。
それだけ、この惑星の生物の脅威度は低いのだろう。
「これで、設備が使用可能ですわ」
裸の二人がくぐったゲートが閉じられて、あらためて宇宙港の敷地を眺める。
「着陸ポート、結構 広いんだね」
「降下用のポッドだけでなく、大型の貨物も搬入出できるよう、設計されているのですわ」
メカヲタクなユキは、こういう設計にまで、知識が詰まっているようだ。
ポッドの格納庫であり待機場でもある倉庫を見ると、ポッドが三機、発射台にロックされていた。
更に歩道を進んで、管制設備の建物の施錠をパスカードで開錠して、最上階である基地フロアへと、階段を上がってゆく。
到着したフロアの扉が開かれると、最上階はポッド用の管制室だ。
「ここですわ。使用可能なポッドを、検索いたしますわ」
言いながら、ユキがコンソールのシートに裸のお尻を降ろして、操作開始。
管制塔でもあるこのフロアは、宇宙港の管制室の簡易版といった造りだ。
各種制御用のコンソールとシートが設置されていて、窓の外は施設内だけでなく青空や山々も望める。
マコトは、窓の外に拡がる雄大な大自然の景色を眺めながら、使用しなかった麻酔銃を手持ちぶたさにクルクルと指で回してみたりした。
「ポッドの準備が整いましたわ。ステーションと連携しておりますので、発進をすれば、自動操縦でステーションへと上がれるようですわ」
と、何気に少し声のトーンが落ちているのは、ユキ的には帰りのポッドも操縦したかったからだろう。
用意されているポッド三機は、みんな製造惑星も年代も違うのだと、ユキは言う。
保守や整備を考えると、同じメーカーのポッドの方がコストが安く抑えられるけれど、三機とも違うという事は、それだけ長年、使用してきた結果なのだろう
「そうなんだ」
メカヲタクではないマコトから見れば、単に細かいバージョン違いとしか、見えなかった。
「一番ポッドのロックを 外しましたわ。この子で、ステーションまで上がりましょう」
どうせ操縦させて貰えないならと、乗った事の無い中でもレアなタイプのポッドを選んだらしい。
格納庫から、ロックが外れる低い機械音が聞こえて、あとは乗り込むだけである。
「それじゃあ、行こうか」
マコトは最重要な、老夫婦から孫娘へのプレゼントが入ったバックパックを、裸の背中へと背負い直す。
腕と身体の動きに合わせて、大きな双乳がタブんっと弾んだ。
「これで、この危険な生物が闊歩する惑星サベージとも お別れですわ」
「帰ったら、とりあえずはシャワーでサッパリ…ユキ!」
窓の外のゲートで、何かが動いたのを視界の端に捕らえたマコトが、ゲートを見て、パートナーに警戒を伝える。
「!」
窓の下へと二人で身を沈めて、コッソリと覗いてみると、なんとゲートを無理矢理に乗り越えて、ツノゴリラが侵入をしている最中だった。
「あの個体…追い付かれた…ワケではないね」
さっき出会ったツノゴリラが追いかけて来たのかと思ったけれど、捜査官の目視で、別の個体だと、身長差や外見的特徴の違いなどで解る。
ポッド墜落の原因となった個体よりも、体格が大きい。
しかも体毛の色が僅かに色濃くて、頭部から首回りにかけて、黒々とした豊かなタテガミが、艶を見せていた。
タテガミのツノゴリラは、ゲートを壊しながら宇宙港へと侵入をして、何かを探しているような動きだ。
「なんていうかさ、さっきの牡よりも 強そうに見えない?」
「ですわね。まるでライオンの如く ですわ」
言われて、納得をしてしまった。
地球本星に生息する野生動物のライオンは、牡が戦いに勝利すると、牡としての自信がついてホルモンが分泌されて、タテガミが黒く変色をするという。
「つまりあの個体は、相当に実力があって自信満々。なんだろうね」
二人とも、窓枠に隠れてツノゴリラを警戒し、しかしフとツノゴリラがこちらを気にして振り仰いだので、また慌てて隠れたり。
「あの子が去るまで、隠れているしか ありませんでしょうね」
「そうだね。まあ、倉庫にも食べ物はストックされていなかったし、すぐに敷地から出ていくと思うけど」
と期待していたら、ポッドの倉庫から、ガシャガシャと乱雑な音が聞こえて来た。
「「!」」
二人の美顔が見合って、またコッソリと覗いてみたら、ロックされているポッドへと、ツノゴリラが六本腕でよじ登っている。
周囲から着陸ポートの下にまで、ツノゴリラが散らかした工具などか、散乱していた。
「…何をしているのでしよう?」
「まずい気がする」
見ると、端の三番ポッドの上に登って、操縦席のガラスを割って、匂いなどで中の様子を探っている。
「ガラス、壊してる!」
「大変ですわ!」
ユキが調べたところ、予備のガラスや一部のパーツは、宇宙港の倉庫では現在、底をついていて搬入待ちだと、記録で確認したらしい。
「現在は、あまり人の訪れない惑星ですから、保守点検も行き届いていないと思われますわ!」
二人のポッドがバードストライクで破壊された時も、緊急信号が作動しなかった程だ。
おかげで、何だかHな怪生物たちに、恥ずかしい体験をさせられたワケである。
「それにしても、あの子は 何を探しているのでしょう?」
「たぶん、ボクたちじゃないかな」
マコトの推測では、マコトたちの歩いた通りに、ツノゴリラが歩いて探っている。
倉庫にいるのも、二人がこの管制施設に上がる前にポッドの倉庫を覗いたから、まだ匂いが残っているのだろう。
「それは、つまり…」
「うん。いづれ ここにも向かってくると…あっ!」
三番ポッドに目当ての匂いの個体たちがいないと解ると、今度は二番ポッドへとよじ登って、ガラスを割って中を確認。
「あのまま、一番ポッドまで壊されたら–」
「管制施設からステーションへと救難信号を送って、ステーションの男性方に、迎えに来て戴く事になりますわ」
わざわざ降りてきて貰う事への申し訳なさ、だけではない。
「ボクたち、裸なのに?」
男性係官に迎えに来てもらうと、二人は裸で救出される事になってしまう。
しかも最悪、その前にこのフロアまで登って来られて、興奮するツノゴリラに見つけられてしまう。
そうなったら、こんな狭い場所で逃げ切れる自信は、二人ともない。
「それは、避けたいよね」
二人は頷き合うと、管制フロアから急いで駆け出して、倉庫へと向かった。
「早く行って、追い払わないと!」
二番ポッドが使用不可能にされているから、一刻も早く撃退をしないと、もう一番ポッドへと興味を向けているかもしれない。
管制施設から倉庫へと辿り着くと、今まさに、ツノゴリラは一番ポッドによじ登っているところだった。
「いけませんわ!」
ユキの声に気づいたツノゴリラが、大きな身体を振り向かせる。
巨体の体重でロックのフレームに強い負荷が掛かり、ギシ…と、破損へ繋がるイヤな音を立てた。
「そこから離れて! って言っても、解らないだろうけれど」
麻酔銃を構えるマコトが警告をするけれど、人間の言葉が解るとも思えないし、麻酔銃を恐れるような体験をしているとも思えない。
案の定、ツノゴリラは、小型のハンドガンサイズな麻酔銃が、そもそも認識には届いていないっぽい。
ただ、興奮させる臭いを発している二体の牝たちが、目の前に現れて超興奮。
という表情だ。
エモノを見つけたツノゴリラは、嬉しそうにポッドから飛び降りると、裸のケモ耳美少女捜査官たちへと、六本腕を拡げて覆いかぶさるように迫ってきた。
–ゴフフッ!
四メートル近い筋肉のゴリラは、恐ろしい顔をイヤらしく歪めて、裸の牝に涎を垂らす。
「うわ 食べられそうな勢いだよね」
「ある意味、きっと正解ですわ」
「どちらにしても お断りだけど」
ユキのセクシージョークも、言った本人も聞いたマコトも、笑えない状だけれど。
(こういう時でも、余裕は大切!)
冷静に対処する事が、生き延びる最重要な秘訣である。
残された、ただ一機のポッドを破壊されない為にも、マコトとユキはジリジリと後退をして、ツノゴリラを倉庫から誘い出す。
麻酔銃を構えるマコトの裸腰や、ツノゴリラが散らかした工具の中から拾った大きなスパナを構えるユキの巨乳が、牡にとって魅惑的な揺らめきを魅せていた。
–ゴフウウウッ!
「うわ 本気?」
ケモ耳美少女たちの裸と、魅惑的な甘い体香に刺激をされたのか、ツノゴリラは顔の上気だけでなく、明らかに牡の繁殖欲求を現し始めている。
「本当に、食べられてしまいそうな勢いですわ」
「そういうの、お断りだよ!」
麻酔銃で肩を狙ったら、発射音で振り向いた頭のツノで、麻酔弾が弾かれた。
「!」
偶然とはいえ、不味い。
少なくとも攻撃をされたと理解をしたツノゴリラが、まずはマコトを狙って、突進をかけて来た。
「くっ!」
今度は額を狙って一射。
–ゴウウッ!
しかし、巨体の割に動きが俊敏なツノゴリラの剛腕で、マコトは麻酔弾を発射すると同時に腕を叩かれ、麻酔銃がマコトの後方へと、放物線を描いて弾き飛ばされてしまった。
「あぅっ!」
無防備な裸のマコトに、ツノゴリラが迫る。
「マコトっ、ええいっ!」
駆けながら、ユキがツノゴリラの太いスネ部分へと、両掌持ちの大きなスパナで一撃を加えた。
しかし。
–グフ。
「ああ…っ!」
「は、離してよ…っ!」
特に痛みを感じる程でもなかったっぽいツノゴリラによって、ユキもスパナを弾かれ、武器を失った裸の二人は、怪力によって腕を捕らえられてしまった。
~第九話 終わり~
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