第二話 惑星サベージ


 指定された二番ゲートへと到着をすると、天井のロックで固定されたオレンジ色のポッドが、吊り下げられていた。

 小型のポッドは、高さが五メートル程の太いドングリみたいな形状で、船体下部の四方向に、可動式の小型ロケットエンジンが設置されている。

 これで惑星へと降りて、再びステーションへと戻って来るのだ。

「随分と、クラッシックなポッドですわ♡ 私、実物をお目にかかるのは 初めてですもの♪」

 メカヲタクなユキ的には、興奮物のヴィンテージ・ポッドらしい。

「これで 降りられるの?」

 銃器など以外のメカには明るくないマコトは不安を口にするものの、パートナーのユキがワクワクしているから、言うほど心配はしていなかった。

 曲面の胴体には、底面から一メートルほどの高さに、四角い搭乗口がある。

 スイッチを押すと、側面の上方が四角く開いて、そのまま下へ向かって大きく展開。

 内側には優秀な滑り止め加工が施されていて、地上に降りた際の昇降口も担っているらしい。

「下部がコンテナスペースだから、操縦席は上だよね」

「ですわね」

 無重力空間なので、二人は魚のようにしなやかに、メカビキニを纏った露出過多な肢体を泳がせて乗船。

 ポッドの中は、ほぼコンテナ状に広々としていて、操縦席とエンジン以外は貨物スペースという造り。

 生体調査などの調査隊が使用するには、十分だろう。

 マコトが貨物スペースへ装備品を固定している間に、ユキは装備品を放り出して、上部の操縦席へと泳ぎ上がる。

「まぁ…オールディーですけれど なんて品のあるコンソール…。私、ときめいてしまいますわ…♡」

「そう?」

 機会に嫉妬するほど子供ではないマコトだけど、ユキがこれ程までに、余所へドキドキしている姿を見ると、ちょっと面白くないのも本音だ。

 黒いネコ耳がピクっとうごめいたパートナーに、ウサ耳を跳ねさせて、ユキが微笑む。

「大丈夫ですわ。いかなメカ好きな私でも、そうそう心を奪われたりなど、いたしませんですわ♡」

「わかってるよー」

 ツンと返すマコトの美顔は、美しい中性的な王子様の僅かな憂いを、実に正直に伝えてもいた。

 マコトも操縦席へと上がって来て、ユキが主操縦席へと着席。

「それでは、お孫さんへのプレゼントを、回収に降りましょう」

「うん」

 副操縦席のマコトは、麻酔銃をチェックしながら応えた。

「こちらは降下ポッド、二番機です。これより、惑星サベージへの降下を いたします」

『了解。二号ポッド、切り離します。お気を付けて』

 ユキがステーションとの通信で発信許可を貰って、ステーションからポッドが切り離されるシークエンスだ。

 赤色警告灯が回転をして、警告音がビービーと鳴り響く。

 ゲートの空気が一分ほどかけて完全に抜かれ、ポッドの下壁が無音で開かれると、外は漆黒の宇宙空間と、太陽に照らされる広大な緑の惑星サベージが見えた。

 ポッドを固定しているメカアームが可動をして、ポッドをステーションの外へと搬出。

 カクんっと小さな振動で、ポッドがロックから解放される。

「ポッド、発進します」

 四方向のバーニアを適切に可動させて、ユキがポッドを惑星へと接近させてゆく。

「初めて扱うんでしょ? やっぱり 上手だね」

「この子が素直なのですわ。それにしても…私が、こうして この子を操縦しているなんて…はあぁ…♡」

 熱い吐息を吐いて、ユキの大きなタレ目が蕩けている。

「そんなモノかね」

 メカヲタク的には感動の体験らしいけれど、マコトにはサッパリわからない。

 ヲタク体験で感激していても、ユキの操縦が間違える事などない。

 ポッドが惑星の上空百五十キロまで降下をすると、あと半分ほどの距離で、大気圏へ到達である。

 ポッドのセンサーが、惑星上空の極薄い大気を感知。

「惑星サベージの大気層を確認、突入角度、調整」

 姿勢制御用バーニアを小刻みに噴かして、ユキがポッドを目的地へと降下させ始めた。

 旧世紀のように、空気との摩擦熱で真っ赤に燃えるような突入方法ではなく、ゆっくりと安全に降下が出来る。

 二人とも、訓練としては旧世紀の大気圏突入を経験してはいるけれど、それは船の姿勢制御システムに異常があった場合の、緊急的な降下方法である。

 というワケで、大気圏突入そのものはユックリと十数分で完了し、マコトが落下したコンテナの反応をチェック。

「反応があったよ。この拓けた場所が、一番の近場かな」

「了解ですわ」

 マコトが示した立体地図を見ながら、ユキがポッドを目的の森の近く、距離にして百メートルほどの平地へと、着陸をさせる。

 ズン…と、優しい振動で突き上げられる感じがして。

「降下完了ですわ。あぁ…この愛しいヴィンテージを、私が着地まで…操縦してしまったなんて…♡」

 メカヲタクの至福なのだろう。

 愛しいタレ目が、まるで官能に呑まれているかのように、そしてナゼか被虐的に、潤って揺れている。

「さ、コンテナの回収に行こうか」

「ええ♪」

 旧式過ぎるポッドを操縦できた事も、ポッドが問題なく動いた事も、そしてマコトがヤキモチを妬いている様子も、ユキには全てが嬉しいようだ。

 サベージの空気には当たり前だけど問題もなく、ステーションで全身殺菌をしている二人は、メカビキニのスーツに装備品を詰めたバックパックを背負い、緑の惑星へと降り立った。

 いつものスタイルとの違いは、特殊捜査官としてのガンベルトを装着していない事と、細い首に黒い艶々な首輪を着けている事だろう。

「ふぅ…空気、緑の香りで 美味しいね」

「本当ですわね。このような穏やかな自然惑星に、本当に 危険な生物がいるのでしょうか?」

 青い空と緑の大地と、山々は遠く高く、風も穏やか。

 森の木々からは鳥たちの小さく愛らしい囀りが聴こえてくる、平和な自然惑星という印象。

「任務でなければ、リゾートとして 来てみたいよね」

「あら、マコトってば ヌードのお話ですの?」

 と、イタズラっぽく微笑むユキは、かつてリゾートの惑星で全裸の島へと潜入捜査をした事件の話を、振っていた。

「ああいう恥ずかしい捜査は、もうお断りしたいよ」

 女性向けのリゾート・アイランドで、女性客は全裸で、礼服を着衣した男性コンシャルジュが接客奉仕をするという、惑星ビンプルン。

「あれは 恥ずかしかったんだから」

「くすくす、ですわね♪」

 マコトに比して楽しんでいるユキは、全裸に対して、それだけ抵抗感が薄いのである。

 などと話しながら、二人は徒歩で、森の中へと侵入。

 可愛らしい鳥の声や小さなトカゲらしき生物など、特に危険と遭遇する事なく、目的のコンテナへと辿り着いた。

 森の地面に落着したコンテナの表面は、大気との摩擦熱で黒焦げになっている。

 周囲の木々などとぶつかったりもして、コンテナ本体は落着の衝撃等で、破損もしていた。

「あった。中身は無事だね」

 コンテナに照合して表示されるカラーが緑色なので、中身に損傷は無いと解る。

 銀河統一規格で義務付けられているこの表示カラーは、中身の状態によって、緑色から赤色までの、五段階で色が変わるのだ。

 鮮やかな緑色は、荷物はまったく異常なしというサイン。

「コンテナは 大きくて無理ですけれど、プレゼントのパッケージ状態でなら、バックパックに入りそうですわ」

「だね。そうしようか」

 マコトがコンテナを開けながら、支給品の滅菌光線銃をコンテナの中へと照射。

 新品そのものなプレゼントを取り出して、バックパックへ収納する。

 その間に、ユキがコンテナへと、コンテナ成分分解光線銃を浴びせて、特殊な木製素材のコンテナを自然分解する細菌類を、付着させた。

 これで、銀河統一規格のコンテナは一年ほどで自然分解をされて、土に還る。

「回収完了 ですわ」

「うん。それじゃあ 戻ろうか」

 旧世紀の地球の、日本地域から銀河へと広まった、ランドセルほどのバックパックを背負い直すと、二人はポッドへと向かう。

「早く終わって 楽だったね」

 二人の頭上十メートルほどには、ソフトボールくらいの大きさな、ソフトボールみたいな外見の無人ドローンが、ほぼ無音で映像撮影を続けている。

「ねえマコト…まだお時間がありますし、少しだけなら この大自然を堪能しても、罰は当たらないと思いますけれど♪」

 と、ユキの可愛いワガママが出た。

「まあ、さり気なく ね」

「うふふ♪」

 パートナーの了解に、ユキが純粋な笑顔を見せる。

 雄大な大自然の景色は緑色だけでなく、クリアイエローや紫色など、地球本星では存在しない大樹が、盛大に茂っていた。

「とても 珍しい風景ですわ」

「本当だよね。彩の多様さでは、地球本星とは違う華やかさだよ」

 と、景色を楽しむ二人の背後から未知の脅威が迫っている事に、マコトもユキも、気づいていなかった。


                      ~第二話 終わり~

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