第一話 惑星降下前の規則


「ようこそ、惑星サベージへ…とは、言い難いですかね」

 ステーションで迎えてくれた、対応係の若い男性係官は、二人の露出過多なスーツに視線を泳がせながら、苦笑いで告げた。

「この惑星サベージは、ずっと以前に観光惑星だったと データで拝見しましたが」

 凛々しい美顔のネコ耳美少女捜査官に訊ねられて、二人よりも頭一つ分ほど背の高い、地球人タイプな若い係官は、現状を説明する。

「仰る通りですが、それはもう いわゆる二百年ほど昔でして」

 ステーションの管制室へと通されると、更に二名ほどの男性係官が、起立をして挨拶をくれる。

 一人はフクロウ顔の初老な異星人で、もう一人は眼鏡を掛けた初老な金属生命体。

「この惑星サベージは、主星である移住惑星カナイマンが開発をした 観光惑星でした。サベージ固有の野生生物と触れ合える、いわゆるサフアリ・パルク的な性格の惑星でして」

 太古の地球で流行った「サファリパーク」という観光形態は、ちょっと発音が代わったりしながら、現在のほとんどの地球領で使用されている名称だ。

「いわゆる 開園当初は盛況だったのですが、カナイマン政府が軍事クーデターにより崩壊し、その後 惑星サベージは生物兵器の実験場にされてしまいまして…」

 やがて、軍事政権は民衆の反乱と地球連邦の介入で転覆させられ、再び民主的な政権になったものの。

「その頃すでに、惑星サベージは異常な生物がはびこる…いわゆる魔大陸のような状況になっておりまして。もちろん、観光惑星とては使用不可能ですし、現在は 惑星の状況を監視するこのステーションが、惑星全体を管理しております」

 時々、サベージ生物の生態調査隊などが惑星へと降りる際に、このステーションを利用する決まりである。

「生物兵器の実験やら廃棄やらで。いわゆる『危険かどうかもよく解らない』というのが、このサベージの現状なのです」

 と聞かされて、ユキが訊ねる。

「惑星への降下そのものは、こちらのステーションで申請をして許可を戴ければ、認めて戴けますのでしょう?」

 愛らしいお姫様のような媚顔で無垢に訊ねられて。男性係官は頬が上気。

「も、もちろんですが…実際、調査隊も二十年に一度ほどしか 調査をしておりませんし…どのような生物が存在しているのか、このステーション衛星での望遠監視カメラでしか、確認はできておりません」

 主星であるカナイマンの経済や、惑星人たちの気質の為か、頻繁な調査は行われていないのである。

「つまり…例えば 化学合成的な性格が強い猛毒などを持つ危険生物が存在している可能性も…と?」

「ああ、それは ありません」

 軍事政権が開発をしていた生物兵器は、いわゆる猛獣系の物理攻撃オンリーな生命体であり、毒やウィルスの類は、ノータッチだったのだとか。

「猛毒性を持ったウィルスなんて、万が一にも拡散してしまったら、いわゆるバイオハザードですからね」

 世界を読めない独裁政権でなかった事は、惑星カナイマンにとっても幸運でした。

 と、対応係の男性は苦笑いだ。

 なんとなくノンビリした空気に、マコトもつい、気が緩みそうになったり。

「とにかく、ボク–んんっ、私たちは、この惑星に落下したコンテナか、あるいはその中身だけでも 回収しなければなりません」

 と言いつつ、コンテナの追跡データを、腕時計型の端末から立体表示をして、対応係に見せる。

「は、はい…」

 特に意図せず身を寄せるマコトの、胸の深い谷間が視線の下へと接近をして、対応係の若い男性は、また目のやり場に困る。

 そんなマコトの、自身の魅力に無自覚なトコロも、ユキは可愛いと感じていた。

「ぇえっと…こコンテナの落下地点は、了解しました。現在は 春先な季節の地域ですし、降下の許可を出しましょう」

 ただし、条件がいくつかあった。

 ①なるべく早く、予定表通りに戻って来る事。

 ②降下も帰還も、用意されている降下ポッドを使用する事。

 ③無人の監視ドローンを同行させる事。

 これらは、惑星サベージへ降下するいかなる調査隊にも、遵守される規則らしい。

「特にドローンは、絶対に手を触れてはなりません。サベージの生物による何らかのアクシデントがあった場合、場合によっては あなた方の無罪を証明する意味でも、ドローンの映像は証拠になり得ますので」

「ごもっともですわ」

 その他、いくつかの注意も告げられた。


 こうして、サベージ降下の許可を得たマコトとユキは、念のためにと三時間ほどの捜索予定を申請し、飲料水や簡易トイレや対生物用の麻酔銃など、惑星の決まりに則った装備を、ステーションから提供される。

 そして、二人が知識としては知っているものの、訓練以外では初めて体験する規則があった。

「それでは、こちらの滅菌室へ、ご案内いたします」

「「はい」」

 惑星一つで自然環境の保全に努めている惑星国家は、そう珍しくもない。

 それらの惑星へ降りる際には、別の惑星の細菌などをなるべく持ち込まないように、降下する人員は決められた滅菌処理をしなければならないのが、惑星連合の厳格な決まりであった。

 荷物の回収という任務でやって来た二人も、当然、その規則に従って、滅菌室へと入室をする。

 脱衣室で、ブーツやグローブだけでなく、装備品を外してメカビキニのスーツまで脱いでの、まったくの生まれたままな姿。

 ビキニを外すユキの巨乳がタプっと揺れて、ボトムを脱ぐマコトの巨尻がプルるっと柔らかい弾力を魅せた。

 装備品などは全て、自動殺菌ボックスで完全殺菌処理をして、裸になったマコトとユキは特殊な首輪を装着し、隣り合った個室へ入る。

 黒い首輪は、人体に影響のない、滅菌作用のある極短波な電波を放出していて、バッテリーは二週間ほど。

 この首輪を着けているだけで、呼気などに含まれる細菌は、体外に排出された時点で滅菌されるという、優れ物である。

 滅菌室は、上下左右前後ともに三メートル程の密室で、全ての壁の一辺に極細い緑色の光が眩しく点灯していた。

 二人が、両脚を肩幅より少し広く開いて、両腕も水平より少し高く上げて、唇を開く。

 腕を上げると、綺麗に丸い巨乳が柔らかく引かれて、僅かに持ち上げられる。

 両脚を開くと、普段は閉じられているお尻の谷底までもが、室内の空気に晒されていた。

 全裸に黒い首輪という恰好で、大の字姿勢を取らされていると、まるで人身売買組織に捕らえられた奴隷みたいな気分にもなる。

 個室だし規則だし、自然保護惑星に降りる人員は男女を問わず、この規則を護っているのは、解っているけれど。

(やっぱり 恥ずかしいな…)

 と感じてしまうのは、このチェックを担当する係官が、男性だからだろう。

 滅多に人が来ない惑星サベージは、基本的には暇なステーションであり、女性の係官が勤務する事は稀だと、常駐係官たちは、申し訳なさそうな愛想笑いをくれていた。

 二人の姿勢をセンサーが確認をして、女性的な機械音声が聞こえる。

『それでは、滅菌処理を開始いたします』

 滅菌がスタートすると、前後左右の壁が天辺から、上下の壁の後辺から、極薄い膜のような緑色の光が、体表をゆっくりと通過し始めた。

 緑色の光膜は人体に無害な滅菌好戦であり、人体や肌表面、口の中などの細菌を死滅させる。

 マコトの巨乳やその先端、ユキの大きなお尻やその谷間、更に下からの光線で、秘すべき閉じ目も立体的になぞられる。

 内部の状況や光線の照射具合を確認する意味でも、二人の様子や光線によって映し出される詳細漏らさぬプロポーションデータが、男性係官にチェックをされて、ステーションのデータに記録されていった。

『滅菌完了です。お疲れ様でした』

 穏やかで女性的な機械音声に告げられると、滅菌室の前壁の扉のロックが解かれて、二人は全裸に首輪という姿のまま別なる着衣室へと移動。

 自動で運搬されている、滅菌処理をされた装備品を装着し直して、降下の準備は完了した。

 これで、任務を終えるまでステーションの係官とも接触が出来ないので、マコトとユキは、室内の通信システムで、係官とのヤリトリをする事となる。

 着衣室から出ると、そこはポッドのゲートへと続く、白い通路。

 重力制御はされておらず、曲線美も眩しい二人の肢体が、フワりと浮かんだ。

 壁のモニターに、男性係官が映っている。

『準備は整いましたか?』

「「はい」」

『それでは、二番ゲートへと向かってください。そこに、降下用のポッドが用意されておりますので、降下はそれで 行ってください』

「「はい」」

 壁の移動用グリップを握って、通路の空間を泳ぐように、ゲートへと向かう。

「ボクたちのデータ、あの係官さんたちの個人観賞には、使われないよね」

「規則によると ですわ」

 マコトの羞恥な質問に、やはりユキは、少しイジワルっぽい笑顔で応える。

「ですが、見たところ 男性だけの職場のようですし。マコトの魅惑的なボディーをつい見てしまう男性たちの気持ちも、仕方なしだと思いますわ♪」

 とか、からかうウサ耳捜査官の楽しそうな表情は、穏やかなお姫様が小さくて無害なイタズラを楽しんでいるような、愛らしさも眩しい媚顔だ。

 対してマコトも。

「ユキのデータだって 見られちゃうよ。きっと」

 中性的な美しい王子様が、お姫様のイタズラに愛らしさと小さな呆れを感じているみたいな、美貌に輝く憂いの表情だった。


                       ~第一話 終わり~

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