SF ねこうさ ゆりボイン 5

八乃前 陣

プロローグ 宇宙強盗を追って


「やっぱり、パトロール任務は 真面目に努めておく事だよね」

「同意ですわ」

 白鳥を模した中型航宙船ホワイト・フロール号のコックピットで、ネコ耳のマコトとウサ耳のユキは、使命感の笑顔を輝かせていた。

 地球連邦政府の特殊捜査官である美少女たちは、パトロール任務の最中に、不審な光景を確認。

 接触を図ると、豪華な個人航宙クルーザーから、薄汚れた中型船が。逃走を始めたのだ。

 個人クルーザーからの情報で、所有者は富豪の老夫婦であり、清潔感が皆無な宇宙船は強盗の一団だったという。

 白鳥は、豪華船の周囲に地球連邦警察の警告チャフを散布すると、そのまま強盗団の追跡を開始。

「我々は犯人グループを追跡いたしますが、本部には既に通報いたしましたので、すぐに警護隊がお迎えに上がります。その場でお待ち下さい」

『ありがとうございます。正直、奪われた貴金属など、どうでも良いのです。しかしどうか、孫娘へのプレゼントだけは、取り返して下さい…!』

 さる惑星の上流階級らしい、おだやかな老夫婦は、船に乗せられていたお金や貴金属よりも、孫娘への誕生日プレゼントであるオーダーメイドなお人形さんの方が、大切らしい。

「お任せ下さい。お孫さんへのプレゼントは、必ず取り戻し、お手元へと お返しいたします!」

 孫娘想いな優しい老夫婦の暖かい心を、何としても護りたい二人だ。


「あの強盗たち、正体は解りまして?」

 穏やかなお姫様のように愛らしい表情を使命感に輝かせながら、ウサ耳美少女のユキが問う。

「ん。このところ、この宙域で強盗をはたらいている 犯罪グループの船だね」

 中性的な王子様のような凛々しい表情を美しく引き締めて、ネコ耳美少女のマコトが答えた。

 二人は、地球連邦の特殊捜査官として支給された制服に、身を包んでいる。

 しかし、そのデザインは二人用の特別品で、銀色のメカビキニであった。

 認識票としてのチョーカーと、巨乳をギリギリで隠しているドキニトップと、大きなヒップをほぼ隠していないローライズ・ハイレグ・マイクロフロント・超Tバックのビキニボトム。

 グローブとブーツと、腰にはそれぞれが選んだハンドガンが収められたガンベルトが巻かれている。

 全身、露出過多なメカビキニ。

 これは、外宇宙の人々に対する、地球連邦の好感度アップを目的とした、特別仕様のユニフォームであった。

 そして現在、そんな二人が追跡をしているのは、宇宙強盗の一団だ。

 最近、頻発していた宇宙強盗とは、惑星の地上で言う路上強盗の類である。

 宇宙を海に例えるものの。宇宙海賊と呼べるほどの存在でもなくて、小さな強盗を繰り返している犯罪グループを、宇宙強盗あるいは公海強盗と呼んでいた。

 二人は、被害者との通信で情報照合などをしながらも、追跡の手を緩めない。

 正面モニターの中央には、ゴマ粒のように小さな光が映し出されている。

 強盗グループの宇宙船の、ロケットエンジン光だ。

「レーダーで索敵するまでも ないね」

「ですわ。あの程度の加速で、逃れられると思っているのでしょうけれど」

 強盗団のロケットといえば、違法改造の加速装置が取り付けられているのは、明白だし常識だ。

 しかしその程度の改造性能など、地球連邦の純正航宙船のうえ。メカヲタクなユキによって思うがままに底上げ改造を施したホワイト・フロール号にとっては、物の数では無い。

「それでは、追い付きますわ」

 白銀の白鳥ホワイト・フロール号が、地球連邦随一な操縦テクニックを誇るユキの操縦で、アっという間に距離を縮める。

「とりあえず、ちゃんと法定警告だけは しないとね」

 マコトが無線で、所属国家とユニットネームを告げて、停船と無条件降伏を勧告するも。

「思った通り、より逃走速度を 速めましたわ」

「しかたないね」

 マコトがコンソールを操作して、トリガーを出現させた。

「威嚇だけど、ちょっと掠らせた方が 伝わるかな」

 ジグザグで逃飛行をする宇宙船のタイミングを、冷静に取る。

 –っビュンっ!

 白鳥の目から、黄色く低威力な破壊光線が発射されて、逃げる宇宙船の外装をビシっと掠めた。

「もう一度、警告します」

 射撃能力に於いては地球連邦随一を誇るマコトにとって、ランダムに方向を変えて逃げる宇宙船であっても、犯罪者たちの操縦など予測も容易い。

 あらためて警告をしたものの。宇宙船は停船する様子など微塵も見せず、逃走続行。

 そしてその先には、地球本星よりも少し大きな、地球タイプな緑の惑星があった。

「あの惑星に、逃げ込むつもりかな?」

「少々 考えづらいですわ」

 情報照合によると、目の前の惑星は「惑星サベージ」という。

 地球連邦所属の惑星国家「カナイマン」の領有惑星であり、豊かな緑と陸地と広大な海が、宇宙からでも確認できる。

 人工的な構造物は、宇宙に浮かぶステーションと、各陸地の小さな宇宙港だけで、惑星そのものは、ほぼ手付かずに見えた。

 というか、そもそも強盗船の外装が大気圏突入用ではない事が目視でも解る、メカヲタクなユキ。

 犯罪グループの宇宙船は、惑星の大気圏ギリギリな上空八十キロまで高度を下げて、尚も逃走を続ける。

「? ユキ、あれ もしかして」

「でしょう。あのように引力の強い高度まで下りれば、大気圏への落下を恐れて、こちらが追跡を断念する。と考えているのでしょう」

「断念する?」

「マコトのイジワル」

 イタズラっぽいマコトの笑顔も美しいとユキは感じながら、やはりイタズラっぽく応えるユキの笑顔は可愛いとマコトは感じた。

 その間にも、正義の白鳥は逃走船へと接近をする。

 強盗団の宇宙船は、諦めて高度を上げるかと思っていたら、意地を張ったかの如く、更に高度を下げてゆく。

「あのような高度、並みの操船技術では 惑星の重力に引かれて…!」

「あ!」

 二人が心配をした通り、逃走船は引力に引かれて高度を上げられず、そのまま惑星へと墜落を始める。

「これは…まずくない?」

 犯罪者たちの命もだけど、あの老夫婦のプレゼントを取り返せないのは、とても悔しいと思う。

 果たして、強盗団の宇宙船は大気との摩擦で真っ赤に燃えて、小さな爆発を起こしながら、崩壊してゆく。

「うわぁ…あれじゃあ、強盗団は全滅だね」

「でしょう…あら、マコト!」

 宇宙船のハッチが焼けてモげて、積まれていた荷物が散乱してゆく。

「見つけましたわ!」

 宇宙船の爆発直前に放出されたカーゴの中から、データで見たプレゼントの梱包ケースが放り出されるのを、確認できた。

「コッチで 追跡するよ!」

 マコトがコンソールを捜査して追跡探知をすると、梱包ケースは外装を破損せず、惑星のジャングルへと落下をした。

「あの様子だと、プレゼントの中身は無事だね。よかったよ」

「ですわね」

 宇宙船の爆発によって全滅した強盗団は可哀そうだけど、全ては自ら招いた悲劇だ。

 二人はそれでも黙祷を捧げると、惑星のステーションへと、白鳥を向かわせる。

「とにかく、あのプレゼントを回収して、あのご夫婦にお返ししないとね」

「ええ。お二人のお喜びになる様子が、楽しみですわ」


                    ~プロローグ 終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る