第7話 超能力を制御するのは難しい ②

◆◇◆


「30年ぐらい前の日本のある都会で起きた出来事なんだけどなー。1人のめっちゃガタイの良くて、身長もベラボウに高い男前の高校生の少年がいたんだ。その少年が言うには自分にはいわゆる不良というレッテルが貼られていて、そのガタイと見た目のせいからか超モテて、嫉妬に狂った男共に絡まれて喧嘩ごとが絶えなかったり、教師には疎まれてたりと大層生きずらかったらしくてな。高校に入ってすぐ、少年は刑務所の牢屋に入れられた」



「刑務所にいる時点で不良では?」


「ちょっと待って。出だしからすごい聞き覚えのある話なんだけど!」


『続き早よ』



突っ込みたくなる気持ちはわかる。オレはこういう長話をするのは得意じゃないんだ。所々聞きづらくなるのは勘弁して欲しい。いや、そっちじゃねえ!とみかんは叫ぶが構わず研は話を続ける。




「まぁ聞け。奇妙な事に、その少年が言うには、その少年は刑務所に入れられたんじゃあなくて、“自分から刑務所に入った”そうなんだ。少年が言うには自分には悪霊が取り憑いてて、悪霊が周りに危害を加えるから。だから、そうしないために自分から刑務所に入ってその力を押さえているんだ。って主張していたんだ」




「確かに似てますね!」


「似てるっていうか、その高校生って空条・・・」


『それ以上はいけない!!』




みかんが何か危険が事を口走ろうとしていた。させねえよと、さらに研は話を進める。大事なのはそこじゃあないんだ。話の肝はそこじゃあないんだ。




「その悪霊とやらがやらかす事は、こんな感じだ。何故だか少年の牢屋の中にある筈の無いラジオや新聞やタバコがいつの間にやら少年の身の回りに揃っていたんだ。誰かが差し入れしたわけじゃなければ、当然、刑務所の人間が提供したわけでもない。

でも、何故か刑務所の備品やら職員の私物が少年の周りに置かれていた。


そして、少年はいつの間にか火の付いてるタバコをぷかぷか吸いながら、ラジオで競馬や相撲の実況を聞きつつ新聞を熟読して、“オレの周りにいる悪霊が勝手にこれらを持ち込んでいるんだ!悪霊は何を仕出かすかわからない。だからオレはここから出ては行けないんだ!”と主張して、看守達はビビって近づこうとしない中、超心配しているお母さんが迎えに来てたんだけど、一向に牢屋の外から出ようとしなかったと言う」



「イヤ。レッテルじゃなくて、完全に不良ですよ。ソイツ」


「そもそも不良って家庭環境とか学校で上手く行ってない人間が、捻くれてなるもんでしょ?話聞く限り、そんなタマじゃないよ?」


『コイツ素行が素で悪くね?』




いやいや。確かにちょっと素行はアレかも知れない。けど、オレは知っている。この少年の心の中には気高く誇り高い、黄金の精神を宿しているんだ。だけど、何度も言うけどそこじゃあ無いんだ。本当に言いたい事はその先なんだ。もっともな突っ込みに研はスルーを決め込む。



「悪霊に取り憑かれていると主張する少年を何とか家に連れて帰りたいお母さん。そのお母さんはお父さんに。つまり少年にとってのおじいちゃんに事の経緯を説明するんだ。そして、おじいちゃんは少年を牢から出すために、少年とよく似た力を持つ占い師のおじさんを連れて来て少年と引き合わせる。ハイ!こっからがこの話の肝だよ!」



「あの。ちょっと気になったんですけど、少年のお父さんはその時、何してたんでしょうか?息子が大変な時に」


「そこは気にしなくて良いんじゃないかなぁ。登場人物は誰も気にしてないみたいだし」


『・・・仕事で忙しかったんだろう。多分』




この手の不思議なお話ってのは、どの情報を出して、どの情報を削るかが大事だと思う。

つまりお父さんは大事じゃなかったんだろう。うん。あ。でもオレの話もいい加減長いよなぁと研はちょっと不安になったりした。



「まぁ。とにかく、ずっとオレは牢屋の中で生きるんだ!って主張しまくる少年を牢屋から出すために、占い師のおじさんは少年の目の前で“少年とよく似た力”を集中させたんだ。すると“人間には見えない奇妙な造形の人型のエネルギー体”が現れた!



・・・・えーと。色んな意味で便宜上この“人型のエネルギー体”は“これから”式神”って呼ぶ事にする。名前に特に意味は無い。他に良いのが思いつかなかった。異論は認めない。というか吞み込んで!」




「“式神”ですね!了解です!」


「呑み込み早過ぎて、逆に不安になるな!この子」


『素直か!』




「そして占い師のおじさんは式神を使って少年を攻撃!少年の首を式神を使ってギリギリと式神の両手で絞め上げる!間に牢屋の鉄の柵があるけど、エネルギー体だからそんなの関係ねえ!少年は勿論抵抗。だけど、ガタイの良い少年の力をも上回る力で抑え込まれてどうにもなんねえ。絞め上げられて苦しむ少年に対して、おじさんは言う。“お前も私のように力を具現化させて抵抗しろ!しなければ死ぬ!殺す!”と。


そこで少年は殺されてたまるか。と覚醒!


今まで悪霊と呼んでいて、制御出来ずに苦しんでいた力を、火事場のクソ力で無理矢理抑え込んでイメージして具現化!少年は気が付くと自分の力を無事制御しておじさんの力に対抗出来るようになってたんだ。


おじさんはそれを見て式神を解除。少年も今まで、制御出来なかった力の正体がわかったし、制御も一応出来るようになった。つまり、もう刑務所にいる必要もないと母親とおじいちゃんと付き添いの占い師のおじさんと一緒に家に帰った。



そして、それから色々奇妙なことがあったものの、家族で幸せに暮らしましたとさ。終わり!ご清聴・・・はあんまりしてなかったけど、ありがとうございましたぁ!!」



「お疲れ様でした!」


「お疲れ様」


『お疲れ』



突っ込みどころはあったものの、一応啓二の悩みために長々と話したことには違いない。それにラストに来た頃には本当に疲れていたので、拍手と共に労いの言葉をかける一同だった。




◆◇◆



「つまり、オレがこの話を通して言いたかったので、啓二が力を制御出来ないのは、力を“見えない不確かな形”として扱っているからじゃあないか!と思うワケだ」



『成程。見える と 見えない では認識も捉え方も確かに天と地よ。“見える形”にした方が制御しやすくなるのでは?と。そう言いたいのでないか』



「そう!それ!」



「おおお!何か見えて来ましたよ!今の話で何とか出来るイメージが見えて来ましたよ。研さん!」



会った時には元気ながらも、どこかしんなりしていた啓二。でも、解決策という希望を提示されて今はウッキウキだ。そう、研は別に悪霊の力を使って、ラジオと新聞とタバコをどっかから調達して、タバコをぷかぷか吹かせて競馬を聞いて相撲聞け。とかそんな事を言いたいワケではないし、誰か似たような力の持ち主と出会って超能力バトルをやれ。と言いたいワケではないのだ。


ちょっと見てみたくはあるけれど。

だけど、せっかく出来た波を逃す研ではない。



「そう!まずはイメージしてみるんだ啓二!イメージは大事だぞ。不可能・無理とかじゃなくて自分は出来て当然って信じるんだ。ホラ、アレだ。鉛筆は結構誰でも折ろうと思えば簡単にバキッと折れるぐらいに当然とか何とか!」



『下手くそか!』



ビシィ!と右手で指差して。今でしょ!とばかりに叫ぶ研。



「押忍!」



急に始まったイメージ講座。

だけでも、せっかく出来そうな感覚になっているのは啓二もわかってる。波が来ている。“る”波が。不思議なもので、今までいくらやっても駄目だとどこかで思っている時は駄目なもので、何故か出来る!と思った時は自分でもわからないけど出来るもの。


啓二は目の前に、今まで自分の周りにずっと漂っていた“力”に形を与えようと、イメージしながら意識を集中させる。すると、ぼんやり目の前に人型の何かが光り出した。

啓二だけでなく、周りのみんなもそれを認識し出す。




・・・けど。




「あの・・・。イメージって言っても何をイメージすれば良いんでしょ?」


「みかん。お獅子何か無い?」


「ノープランかいっ!」


「いやでも、そこまで世話するのは何か違わない?」


「・・・そーだけど」


『啓二。自分の中で一番力の象徴たる人物や動物をイメージしてみるのはどうだろう?』


「押忍!お獅子さん。了解です」



再び、啓二は力のイメージを固め出す。啓二の取っての正義の象徴はすでに決まっている。あとはそれに強さの象徴を足して行こう。と“それを”形にしようと奮闘を続ける。けど何か上手く決まらない。



「ああっ。もう。造形が甘いなー。ペタペタ」


『みかんがエネルギー体の形を直接手で整えてるぞ。つか触れるのか。アレ』


「さすが職人の卵」



見てられなかったので、つい手が出てしまった職人みかん。物作りに関してはちょっと口がうるさくなる系女子なのだ。



「啓二君。力の流れるルートとか考えると、機能的な形になるよー」



「押忍!みかんさん。ありがとうございます!」




そして、みんなで口を出して、手を出して。汗をかきつつ、日が暮れて。街灯ついても、アレコレしながら最早作業と化した式神作りを手伝う面々。


何だか子供の頃、泥団子作ってたの思い出すねー。とか言ってきゃっきゃし出す始末だ。それでも確実に進む工程。とうとう啓二の考えた僕の最強の生物。もとい“式神”が彼らの目の前に数時間の時間をかけてようやく誕生した!




つづく!




・あと1、2本。

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