第6話 超能力を制御するほは難しい ①


「またか・・・」


冬もそろそろ本番に入りそうな本格的に寒くなって来た頃の朝7時。

とある地方のとある県で一番賑わっている町。

と言っても、それでも田舎には変わりないが。それでもその町の一角に住んでいる一軒家の2階にいる1人の少年。彼は今日も自分の部屋で起きた惨状に起きて早々、顔をしかめる。



その少年の名は今野 啓二 17歳。



高校は田舎なので選択の余地はあまり無く、入れるから入った偏差値が高くも低くも無い周りの友達が入るから入った平均的な高校だ。

自転車通学で毎日20分ほどかけて通ってる。身長そこそこ。父の職業のせいもあってか、正義感があり真面目で少々堅物。それが顔にも出てきている。


でも、小さい頃からの幼馴染の影響で、そこまで頭が固いというワケでもない。




「こういうのポルターガイストって言うんだっけ?」




有り体に言えば、自室がしっちゃかめっちゃかになっている。

机の上に置いていた、筆箱の中のシャーペンや消しゴムが規則性無く床にぶちまけられいる。壁にかけてあった時計が外れて、寝てた布団の上に落ちている。ハンガーにかけてあった服が何故か机の上に適当に重なって置いてある。



まずは泥棒や強盗の線を疑うんだろうけど、流石にここまで荒らされて気付かないハズがない。だからその可能性は低いだろうと啓二は思ってる。



家族がやったという可能性が無きにもしも非ずだけど、父は刑事で正義感の強い人だ。母は介護の仕事をしている優しい人だ。こんな事をするハズがないと啓二は心の底から信じている。


2人ともただでさえ仕事がクソ忙しくて疲れているし。


というワケで消去法で考えると。

1.別の何かの現象か力が働き、この状況が完成した。

2.それか、自分が寝ながらやった。夢遊病的な何かで。

3.もしくは、その2つを自分がやった。



ということになる。



「・・・まぁ。オレがやったんだろうなぁ」



色々現実逃避をしつつ。それでも現実とは思えない現実に目を向ける。



「啓二くーん。ご飯出来たよー」



1階から母の声が聞こえていた。

あまり遅いとこの部屋に入って来るかもしれない。



「はーい」


コレを見られたら色々面倒だ。早く片付けようと、昨日のまだキレイに片付いていた自室の姿をイメージして、元に戻るように意識を集中させる。



キィンッ―



何か金属的な音が頭の中に一瞬鳴った。

と思った瞬間に、散らばっていた物がふわりと浮き上がって動き出し、そこが元々の自分の指定位置だと云わんばかりに動き出し、元のあった場所に収まった。


・・・ハンガーにかかっていた服だけは、動きが複雑すぎて上手く戻らず、啓示が直に戻したけれど。


「この力、いい加減何とかしないとなぁ・・・」


呟きつつ、部屋を何とか片付けた啓二は朝ごはんを食べに1階にゆっくりした足取りで階段を降りた。




◆◇◆


「と言うわけで、北島町にいるとゆう退魔師の研さんにご相談に来ました」


「どうゆうワケ!?」



「今、大分話端折らなかった!?。オレ、上司から通達来て“今日、依頼人が訪ねてくるから北島町の神社で待機”。くらいしか情報もらってないんだけど!!?」


啓二の目の前にいる、背が結構高くとヒョロっとしている男。名前は研。

パッと見30前後で疲れたような顔立ち。紅葉色の線が所々に走っているベースが深緑色のコートを羽織っている研のいつものスタイルだ。



この男は全国でも数が少なく、啓二の住んでる県ではさらに数が少なくなる退魔師という職業をしている。が。それは仮の姿。本業は死神(研修生)である。

研修生なのに本業って言うのも矛盾しているけど、そういう事にしておく。本業が暇なワケでは無いけど、少子高齢化のためにちょっとオカルトな事が出来る人間が本当にいないため、研が上司から命令されて兼業で退魔師というていで仕事をしていたりする。




「こんにちはー。研ちゃんの付き添いで来たみかんだよー」



『我のやしろによく来た。童。何か祈ってけ』



研の後ろにトコトコ小柄で可愛らしい顔立ちの少女がのんきな顔を引っさげて現れる。本名は土野 みかん。


少しボサボサ頭のショートカットで、所々土汚れのあるツナギ服にジャンパーを羽織っている。いかにも仕事帰りに寄ってみましたな恰好であるけど、不思議と彼女によく似合っていた。


今年の春に高校を卒業し、地元の鋳造工芸会社に現在働いている職人の卵である。




そして、ちょっと物々しい物言いで。神社の本堂前の扉がガラリと開き、地面から謎の力で少し浮いて現れてたのは、普段は神社の本堂に納めてられている獅子頭である。理由も理屈も全くわからないけどしゃべる、しゃべれる。

先の北島町の秋季祭礼の祭りの練習の時に色々あって、誕生した“獅子神お獅子大好き”という名前の神様である。



時々、暇を持て余して神社に来た人にちょっかいかけたり、話しかけたりしている。




そんな一人と一頭を見て、啓二は内心少し驚いたものの、退魔師なんて名乗ってる人とその知人・友人みたいだから、突っ込むのも野暮だろう。と即座に頭を切り替え話を進める。




今は他人の事より自分の事だろう。頼み事をしに来たのは自分なのだ。余計な詮索は野暮・無粋!と割り切って。




「こんにちは!それと今日は急にスミマセンでした!実はオレ、家の近所の神社の神主の娘と幼馴染でして。そいつはちょっと不可思議なことに強いヤツなんです!んで。オレそいつに最近悩んでいる”力“についての相談に乗ってもらったら研さんを紹介されてここへ来ました!よろしくお願いします!」



身体を90度にキレイに折って、お辞儀をしながらことの経緯をザックリ説明。




説明がちょっと雑で下手だが、高校生男子。それに奇っ怪な事で悩んでるのを言語化するのは難しい。こんな物だろう。と、研もそういう言い回しにも慣れているので、啓二の説明で大体悟る。



「OK。今ので大体ルートはわかった」



神社の神主の娘 → 神主 → 神社本庁 → 研の上司 → 研に仕事発注。



大体こんな所だろう。いつもの事だし。と研は当たりを付ける。実際その通りだったりする。



◆◇◆


「なるほど。ポルターガイストのような超能力のような。そんな力が最近発現

したのは良いとして。全然、制御出来ない事があって困ってる。と」



啓二はつい最近、ポルターガイストのような念動力のような能力が発現した。

理由はサッパリわからない。



「はい。起きてる時はある程度制御出来るんですけど。寝てる時とか、無意識に勝手に力が発動する時があって困っているんです。今のところ、朝起きたら部屋がしっちゃかめっちゃかになってたり、学校で悪さをしてる人がいたらいつの間にか吹っ飛んだんりするぐらいなんですよ」



とりあえず啓二は原因追及より力の扱い方についてどうするかを優先。何故なら現在進行形で生活に支障が出てるからだ。




「ちょっと待って。最後のヤツ。無意識のせいにして自分の意思でやってない?」



「自信は無いけどそれは無いと信じたいです。オレ、そういう人には直接口で説教して拳で語りたいタイプなので」



「わかった。信じよう。そして君のキャラが少しわかってきた」



世の中、面倒だから体動かしたくない、手を使わないで良いなら全部勝手に不思議な力がやってくれないかな。と思う人間は結構いる。

それと反対に何でも自分で体を動かして、自分の拳で解決したいという人間も当然いるだろう。啓二は後者のようだった。



「とにかく、今はその程度で済んでるけど、大事になる前にこの力をどうにかしたいんです」



啓二は話の合間に近くにある小石や葉っぱを“力”を使って動かして。堺内を掃除しながらそう答える。最初はその力を見て、研もみかんも驚いた。が、一番ワケわかんねぇのココにいたわ。と、隣のお獅子を見て落ち着いた。


でも、これだけの情報じゃなあー。どうしたもんかなー。と研はこれからの方針をどうしようかと腕を組んで考える。その時、左隣からクイクイとコートの袖を引っ張られる感覚が。



見てみると、みかんが何か言いたそう。



「あのさあのさ。研ちゃん。研ちゃんの持ってる死神の銃って実体の無いエネルギー的なのを撃ち抜く効果あったじゃん。その銃使って啓二君の“力”?を消滅させるとか出来ないワケ?」



「やってみなきゃわからんけどなぁ・・・」



そう言えば、その手があったなと研は懐から銃を取り出して・・・



ゴッ!



その時、研達の近くにあった燈籠の上部が何故かその瞬間砕け散る。



「あ。オレの力。オレが無意識な時だけじゃなくて、オレに危害が及びそうになったり、“力”自身が自分に身の危険を感じたりすると勝手に発動するみたいなんですよ」



一応、啓二も神社の人たちにこの力を何とか出来ないか、相談して最初は祓ってもらおうした。けど、反対に祓おうとした神社の人は謎の力で地面に叩き伏せられていた。




「止めとこうか。イキナリ銃ってのも何だ。大人気ないと言うか」


「さよか」



研は取り出した銃をスッと懐へしまう。

銃は人類の最強の武器。そうだ。まだまだ使う時間じゃないハズだ。



そこでみかんは次に閃く。



「あ。それじゃあ。この中で一番本体の戦闘力が高いお獅子が、啓二君の“力”をねじ伏せて・・・」


『え?』


バキッ!


近くにあった人間の大人がうずくまったぐらいの大きさの岩が急に真っ二つに割れる。



『止めよう!!ホラ!何だ!無理に何かしてみて、本体である啓二君の体に何か悪影響があるとも限らん!!』


「まぁ。それもそうだねえ」



迂闊にこの啓二の“力”にケンカを売るのは不味い。研とお獅子はそう悟る。そして今回は完全に他人事なのでみかんは呑気なものだった。



でも、超自分事である啓二はそんなワケにはいかない。そりゃそうだ。自分事だもん。何やってもその結果が自分に全部返ってくるんだから、気楽に事を構えるワケにはいかない。

自分の力を消滅させたいと思ったことはあるが、消滅させることによって、自分に何かしら悪い反動があるのは困る。


でも、それとは別に啓二にとってこの力は困った力ではあるけど、消し去るのとは別の選択肢を取りたいという想いと理由が啓二の中にはあった。



「オレ。やっぱりこの力を消すとかじゃなくて、制御する方向でなんとかしたいです」



2人と1頭の眼を見て、前から心に秘めてた想いを語る。



「実はオレの父は刑事なんですけど、よく言ってました。刑事って生き物は国民には逆らうことの出来ない“法”の力と人間が生身では絶対に勝つことの出来ない“銃”って凶器を使いつつ、人を追いつめて捕まえなければならない仕事だって。そんな仕事をずっとしていると時には自分が正気なのかどうかわからなくなる。だから一番大切なのはずっと正気を保っているための自分の確固たる意思だ。って。


オレはそんな父が誇りであり、目標です。だから、ちょっとやってることは違うけど、父みたいに危ない力を制御して、そして誇りを持って生きていける人間になりたいんです。」



制御したい。邪魔だから、すぐに消し去る。

という考えは心優しい啓二には最初から抵抗があった。周りに取返しの効かない被害が出るならその選択肢も止む無し。だけど、そうじゃないなら、そうならない内にどうにかなるから出来るなら。啓二は後者の選択を優先したかった。


そして、言葉に発したとおり尊敬する父のようになり、父の気持ちに近付きたかった。



『うむ。立派な心掛けである』


「うわ・・・。まぶしっ」



若さゆえか、少年だからか、啓二の語る尊敬する父への思いと誇り。お獅子はこれぞ人間賛歌!その意気や良し!と感心し、ちょっとまだまだ他人に語れない過去を持つみかんにはただただ眩しい。あー眩しいわー。




「うーん。啓二。君の意思はわかった。オレに案があるんだけど、こんなんどうかな」



そんな啓二の言葉とみかんとお獅子の反応を見て、なんとなく頭にあった構想をちょっと話してみようと研は決める。まぁ考え事なんて案を10個出して、1,2個使えるのが出てこりゃ良い方だ。




「どんなんですか?」



啓二に取っては、どんな案でもあるだけ有難い。どんな話でも聞いてみたい。

そんな心境である。だから研がこれから話す内容もスンナリと頭に入ってきた。



「えーと昔、オレが聞いた話なんだけどさー・・・」



研は訥々語り出す。啓二とみかんとお獅子はひとまず耳を傾ける。

どこかで聞いたような、確かに啓二の状況とどこか似ているそんな話だ。






続く!



・懲りもせず再び投稿。

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