第5話 獅子は舞っても舞われるな ⑤ おわり。

◇◆◇


2人?の舞は更に活力と輝きを増して行く。

みかんの心の火と、お獅子大好きの心の火が混ざり合い。

炎となって辺りを照らす。


いつしか神社の周りに(来れる)北島町の人間は全て集まり。

固唾を飲んで舞いを見守る。





・・・だが炎はいつか火となり、ゆっくり消えるもの。

明らかに憑神お獅子大好きの力は衰え、終わりが見えてくる。




もう陽が落ちようとする頃に。

獅子舞の火も落ちようとしていた。






『・・・何故、止まる?』



鳴ってた太鼓も笛も。

みかんの様子を察して次第に鳴り止む。



「ねえ。もう止めない?疲れちゃったよ・・・」



『つまらぬ嘘を吐くな。・・・るのだ』







「のど渇いたしー。お腹すいたしさー」



『お前も我が使っているこ奴らも、舞いの合間に食べて飲んでおったろうが』






注:編集でカットしてるけど、ちゃんとみんなトイレ行ったり、適宜補給してます。






「そう!今日見たい番組あってさー。録画予約しに戻らなきゃ!」



『後でようつべなり、アマプラなりネトフリなり駆使して観ろ』



「詳しいな!」






「え―っと。それにさ!え――っと。ホラ!アレだ。その!あの・・・!」



『もう良いか。・・・るぞ』








「死んじゃうよ!」



『!』



「自分でもわかってんでしょ!?これ以上演ったら本当に死んじゃうよ!!せっかく獅子舞がやりたくて踊りたくて生まれて来たのに!これ以上演ったら本当に消えちゃうんだよ!!」



ずっと息を合わせて一緒に踊ってた。

だから、この中で誰よりも感じてた。

これ以上は行けない。と。





ただでさえ、太鼓の音を聞いただけで苦しむのに。

自分の中に入っているツダさんたちの身体を気遣い、力を使ってフォローしていたのも気付いてた。





よくよく考えたら、獅子舞自体がそもそも病魔を払う祭りでもある。




獅子舞をするために生まれて来たのに、獅子舞をするほど、お獅子大好きは自らの命を縮めるのだ。なんという矛盾した生命体。







『構わぬ・・・』



「意地はらずに!」

 


『意地ではない。我は限界近くまで踊った。それに主と踊ってわかった』



「何を?」



『人を操って。無理矢理踊らせても意味はない。皆が踊りたくて踊り。周りがそれを喜ばねば。な。本当の祭りとは言えぬ。・・・そうであろう?みかんよ」




「お獅子・・・」




『実は少し前から、もう我はこの者たちを操ってはおらぬ。この者たちはこの者たちの意思で我を動かしていた』







「・・・・・・・」







今まで獅子の頭や蚊帳や尻尾を持っていた人たちが。

ゆっくり獅子の体全体を持ち上げて、中から顔を見せる。



その顔からは操られている気配は微塵みじんもない。





「・・・ツダさんにみんな。正気になってたんだ」




『我はもう人を操る力が戻ったとしても、もう操つる気にはなれぬ。ならばみかんよ。せめて消えるまで再び我と踊ってくれぬか」



「待ってよ!何か別の手を考えようよ!」



『別の手だと・・・。あるのか。そんな物が』



「無ければ作れば良いんだよ!あたしコレでも職人の卵だし!物作り得意だし大丈夫だよ!(多分)」



『気持ちは受け取っておく。だが我はどこまで行っても憑神。人の世に居るだけで仇なそう。・・・ならばやはりいっそ、一思いに―」













「了解。そい!」



パン。 



『グフッ』



憑神お獅子大好き のすぐ横に来ていた研が死神の銃の側面にある安全装置のようなレバーを動かし、引き金を引いて即発砲。




そして、お獅子大好き はそのまま弧を描いて、ゆっくりと地面に倒れ落ちた。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









◇◆◇



「「「えええええええええええええええ―――――っ!!!」」」






その場にいた周りのみんなは大絶叫である。






「ちょっ!ちょっと研っ!!このタイミングでっ!この空気で撃つ―――!!?」




「えっ!?」



「イヤ止めてくんない!?その”お母さんの言う通りにしただけなのに何でそんな顔するの?”みたいな。母親の顔を見る子供みたいな眼は本気で止めてくんないかなぁっ!!”えっ!?”はこっちのセリフなんだけど!!」



「だってコイツはらうのがオレの仕事だし」



しれっと。



「いや。そーかもしんないけどさーっ!」



「この憑神。このまま放っておいたら、またお獅子の負の思念が集まってくるかもだし。本人?が、それを拒否ってたし。どっちみち消えるだけじゃん」



「そーかもだけど!」








『・・・良い。みかんよ』




「お獅子!」




『このまま我は消え(パン!)グフッ! ちょっ(パン!)話させ・・・(パン!)』



「お獅子---っ!!」



「流石腐っても神。耐久力パネエ」




憑神がしゃべってる間に研は3発銃弾を撃ち込んでみたけど効果は今ひとつだ!



「あ。今更だけどこの銃から”実体のない弾”を撃ってるよ。何つーか悪い気とかエネルギー的な物を撃ち抜いているんで物に被害は0」



「ホントに今更!」



「でも獅子頭はスゲー高いから、それは助かる」



佐久間さん。思わず呟く。

本番用の獅子頭は数十万は普通にするので仕方がない。




『グウウゥ・・・』



まだ息があるお獅子大好き。

それを見下ろし、再び研は狙いを定める。



「も1発行っとくか」





「ええ加減にセイッ!!」


「ゲフッ!」



研がまた銃を撃とうとしてたので。

みかんはえぐり込むような左ボディブローで黙らせる。

研は膝を折り悶絶!



そうしている間にいよいよ最後が近づいたのか。

お獅子大好きの眼から光が消えかける。





気付けば辺りはすっかり夜の帳が下りていた。




死期を悟った神社にいた人たちは。

なだれ込むように憑神お獅子大好きの元へと駆け寄って行く。





「お獅子!しっかり!」


「死ぬな!んで、生きて3週間後の祭りん時にまた一緒に踊ろうぜ!オレ今より上手くなるから!」


「おしし しんじゃうのー?」


「オレさっきの踊り感動したんだよ!また元気になって踊ってるトコ見せてくれよ!」


「お前さんの舞い見て、また酒飲みたいんじゃ。起きてくれんかのお・・・」




みんな口々に消えるな。と声を掛ける。




『主ら・・・。みかんも。ツダも。操っておった者たちも。我とまた踊りたいと言ってくれるのか』




「ああ!何十回、何百回と祭り当日にまたオレがお前を担いで踊ってやるよ!!だから!だから!」



「お前と一緒に当日はたっぷり酒を飲みたいんだよ!」



「消えるな!起きてくれ!」



「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏・・・」



「えーん。えーん」




これから起きる事実が受け入れられない。受け入れたくない。

だって目の前にいるコイツはただのお獅子好きじゃん。

もうオレ達の仲間じゃん。

死ぬ必要なんてない。生きていて良い。

だから、むしろもっと生きててくれよ。



みんなが必死で消えることに拒否をする。

みんなが必死で再び一緒に踊ることを切望する。




みんなが必死で祈ったからこそ。




その時。






奇跡が起こった!








お獅子大好きのそばに居た子供の涙が。



お獅子大好きの顔に零れ落ちたその瞬間!



憑神お獅子大好きの全体的に黒かったボディが稲穂いなほ色に輝く!

それと同時に全体的に傷んでいた箇所も修復!




最初はどこか不気味な雰囲気をボディから漂わせていたが。今ではその気配は跡形無く消え去り、代わりに神聖な気が獅子頭から満ちている!






「・・・あーレバー痛ぇ。お前良いの持ってんなぁ、みかん」


「研ちゃん!」



レバーって痛み感じないんじゃなかったっけ?って愚痴りながら。腹を右手で擦りながら。この光景を並んで見上げる。



「こりゃ裏返ってるなぁ」



「と言うと?」



「ここにいるみんなの想いによって、憑神お獅子大好きは”憑神”から純粋な”神”に生まれ変わろうとしてるんだ」



「マジでか」



「世の中、唯一神を除けば、人の願いや祈りによって生まれた神や仏って結構いるからなぁ。そもそもアイツも人の負の思念で生まれた神だし。正に人の想い次第で悪にも善にもなる。ってヤツだ。ま。オレも裏返って神になるの初めて見たけど」




「それじゃあ――」






周りの闇が全て消え。一瞬全てが白くなる。

今は昼だったかな?と思わず錯覚するほどだ。




光が徐々に弱くなり。

安定した時、消えかけていた憑神だったモノはもういない。



そこには新たに誕生した神聖な生命体がみんなの頭上の上を浮いていた。






『皆の者。心配をかけた』










『我は”憑神 お獅子大好き” 改め ”獅子神 お獅子大好き”!!!』





「あ。そこは変わらないんだ」













わ――――――――――――――――――-----っ!!!!





悲しみから一転。喜びに沸く一同。





「おめでとー 獅子神お獅子大好き――!これからもヨロシクなー」


『ありがとう。ツダ』




「祭りの日は気張ってアンタをまた支えさせてもらうぜ!」

「尻尾も気張って振るぜー!」


『ありがとう。蚊帳の中にいた人。尻尾持ってた人』



「おめでとー ししがみー」

「これからヨロシク」

「まだまだ生きて獅子舞を見んとのお」


『ありがとう。子供たち。佐久間。老人たち」






「獅子を。天狗を。踊りが本当は好きだったってことに気付かせてくれてありがとう。獅子神お獅子大好き。これからもまたろう」


『ありがとう。みかん」




「コングラチュレーション! ハッピーバースデイ!獅子神!」


『ありがとう。研。』











・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・










『でもお前は許さん!!』



「うべし!!」





再び上から下へと10㎏を超える獅子頭が研の頭上を襲う。

再びダウンだ!!









「「「ですよね―――――――――――――」」」








理由しかない暴力が研を襲う。







           再び LOSE  研!










◇◆◇




それから数分経ち。

みんなが獅子神をわっしょい、わっしょい している片隅で。

研はあぐらを搔きながらアゴを手で擦ってる。




「あー。頭もだけど地面に当たったアゴも痛え。ってさっきも同じよーなコト言ってた気がする」



「おつかれ」



その時、コツンと頭の上に置かれた研の好物の月餅と缶コーヒー。

見上げるとみかんが苦笑いして立っている。



「すっかり研ちゃんに騙されたよ。チクショー」



「んー。何のコトー?」



何を指してるか察していたけど、若干バツが悪いので。

バレるとわかっていてもしらを切る。



「ほら。コレ」


「あー。銃ね。持って来てくれたのか。あんがと。」



「その銃の側面に付いてる安全装置みたいなレバーさ。よく見ると”強―中―弱”って書いてあるんだよね」


「あー。あるね」



「お獅子に撃つ時、レバーを弱に設定して撃ってたっしょ?」


「忘れた」




はらうのが仕事だって言ってたくせに、全然違うことしてるよね?」


「結果的にはな」




「なんで」


「・・・」



「なんでよ?」


「・・・」



みかんはしゃがんで、研と同じ目線になって。何となく理由はわかっているけどあえて聞く。みかんは研の口から聞きたいのであえて聞く。




「あ――。アレだ」



研は懐から神社本庁からの指令の巻物を再び出して。

その中をチラリと見ると、相変わらず丸文字で「―処分せよ」と書かれてる。




改めて見た後、みかんの眼を見据えて答えを告げる。




みかんの望む答えじゃないだろうけど、オレという死神を知ってもらう良い機会だと独り言ちて。








「オレさー。昔から上司に東行け。って言われたら無性に西に行きたくなる性分なんだよねー」


「アンタそんなんだからいつまで経っても研修生なんだよ」




も少し良いこと言いたかったけど、思わず突っ込んでしまうみかんだった。








◇◆◇



その後。




3週間後の祭り当日。憑神改め”獅子神 お獅子大好き”と青年団と子供たちは北島町を太鼓と笛の音を鳴らして練り歩く。

(当然もう憑神では無いので、いくら鳴らしてもお獅子にはノーダメージだ)



獅子神の神通力が加わったことにより、2年振りとも思えない例年を遥かに超える踊りのクオリティで見る者全てが歓声を上げ、喜んだ。



もちろん、北島町随一の天狗役のみかんも大活躍だ。





そして、みかんの家で獅子を踊る時。見学に来ていた研はみかんのカレピだからと獅子頭を持たされて、天狗のみかんと20分ほど共演させられる事になる。




その結果。死神なのに研は体を超酷使したため、2日間肉体的に死んだ。









おわり。







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舞台が秋なので、なんとしても12月になる前に書きたかった今作。

お話作るって難しいなー。

またお話溜まったら上げさせてください。

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