第4話 獅子は舞っても舞われるな ④
◇◆◇
最初は互いにぎこちないが。
北島町の獅子舞の舞。
”一足” ”二足” ”倍返し” が終わる頃。
ようやく硬さが取れ出して。互いにキレが出始める。
”お獅子大好き” は苦しみながらも、自らの力で自分を動かす者たちの。
動きと体力をカバーさせ、さらに洗練させて行く。
対してみかん。
徐々に勘を取り戻し。動きは細かく 大胆に。
柔らかく 鋭く。 軽々と 力強くなっていく。
「おー。流石に”天衣無縫”だ”天空のみかん”だ言われるだけあるねぇ。佐久間さん」
「でしょ。研さん」
「ん―。でもなー」
「気付きました?流石カレピ」
「カレピは置いといて。・・・何と言うか苦しそう?。イヤ。気まずそう?」
そう。みかんは気まずかった。
踊っている間中。
全力でやってはいるし、本気でやってはいるのだが。
”心”が力を出し切れていなかった。
苦しみながらも、命を燃やすがの如く。
イヤ。文字通り命を燃やして踊ってる。
お獅子大好き に対してみかんは引け目を感じてた。
そもそもみかんはお獅子が好きではなかった。
正確には町内でお獅子の練習をするのが好きではなかった。
みかんは幼少の頃から生まれも育ちも北島町。
それなのに北島町にはなじめなかった。
そして、同じ年頃の子供のなかでは浮いていた。
特に何故か同じ同性の女の子とは感性が合わずに苦労した。
別に誰かが悪いワケではない。
ただ何となく他の子達と”合わなかった”。
他の子どもが好きなものを好きと思えず。
嫌いなものを嫌いと思えず。
心地良いとみんなが思っているものが、何故か苦痛だった。
だから祭りの季節になると。
半強制的に神社に町内の子供たちが集められて。
太鼓や笛の練習をする時。
練習をしている時はしゃべらなくても良いけれど。
休憩時間の時はとても気まずくて時間を持て余した。
だから当時、女は誰もしていなかった”天狗”に目を付けた。
大人たちに無理を言って入れてもらい。
誰よりも練習した。
休憩時間も誰ともしゃべらないために練習を続けてた。
今だから実感する。
どんなに努力をしても努力が実るとは限らない。
相当向いていたんだろう。
数年経ち、気が付いた頃。
誰にも真似出来ない。
土野 みかんの天狗が誕生していた。
◇◆◇
『・・・娘よ。みかんよ。つまらぬ想いにとらわれるな』
「え!?」
ふと昔のことを思い出していたその時。お獅子大好き が諭すように声を掛ける。
『何を想っているか知らぬが、今は主と我だけの場よ!我と合わせて我と舞え!下らぬ世事などどうでも良い。貴様の!貴様だけの!貴様にしか出来ぬ舞いを我と周りの者に見せつけろ!!』
『貴様の
「・・・そ、そんなことっ!」
その時、みかんの持っていた槍の穂先が光り輝く。
みかんの頭の中に。心に。
憑神お獅子大好き の記憶。
否。
お獅子大好き という憑神が生まれるほどの強烈で膨大なお獅子愛。
そのお獅子愛が流れ込んで来た。
そのお獅子愛は像を作り。
やがてみかんの中で楽しそうに獅子を踊っている人たちの姿になる。
その人たちは、それはそれは活き活きと。激しく、雄々しく、踊ってる。
いやぁ。お獅子って本っ当に良いモノですね。
何故か昔、どこかで聞いたことのあるダンディな声が聞こえてきた。
・・・きっと気のせいだろう。
みかんは思い出していた。
祭りの練習中は確かに苦痛な時間が多かった。
だけど、試行錯誤の末に上手く出来た時は一切の邪念無く嬉しかった。
一つの大きな壁を自らの力で超えた達成感があった。
それを積み重ねて少しずつ上達する日々はただただ面白かった。
そして、その準備をした物を祭り当日。
町内のみんなが盛り上がる中で披露するのは気持ち良かった。
たった一日だけだけど。
間違いなく、その日だけは自分は主人公だった。
・・・まぁ。培った技術が祭りの時以外。
マジで日常生活に心底役に立たなかったりしたけど。
それはそれで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◇◆◇
「そんなことあるワケないでしょっ!!」
みかんの”心”に火が灯る。
気まずい想いは最早無し。
槍を携え、掲げた右腕。
上に見えるは雲一つない秋空。
曇り無き”心”は頭上の青空の如し。
曇り無き”心”の輝きは朝日の如し。
元気で獰猛な笑みを浮かべて。
天狗の少女は獅子へと再び相まみえる。
「お。めっちゃ笑顔になった」
「なんか吹っ切れたみたい」
傍で見ていた研も佐久間も思わずニヤリ。
『ならば良し。まだまだ踊り明かそうぞ!』
憑神お獅子大好きも大きな口をさらに歪めてニヤリと笑った。
つづく! 次でラスト。
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