第二十一話 花火よりも


「あ、GOさん、トモちゃん、お帰りっス!」

「お帰りなさいまし~」

 ミッキー嬢と桃嬢が迎えてくれて、川に向かって右から、桃嬢、ミッキー嬢、亜栖羽、育郎の順で座る。

 チケットを交換して、青年がシートの端に座っているのは、人通りから少女たちを護る意思でもあった。

「川からの風が 少し涼しくなってきたね」

「ですね~♪ 花火まで、あと三十分ですよ♪」

 陽が沈んできて、太陽は対岸の街並みを赤く染めながらも、もう姿を消している。

 頭上の雲も赤く色付けられ、背後の空は群青色だ。

 若い女子たち三人に混じると、年の離れた青年は、特に会話に入れる事もなし。

 とはいえ、亜栖羽たち女子同士のオシャベリが微笑ましく感じるし、退屈な感じはしなかった。

「トモちゃん、宿題 明日から一緒に片付けようっス!」

「いいよ~♪ どこでやる~?」

「私の家に集まるのは、いかがでしょう…?」

「じゃ、桃ちゃん家で!」

 と、夏休みの宿題をやっつける相談をしている。

「宿題か、ふふ…」

 夏休みの頭に、育郎のアシストによって宿題を全て終えて、憂いなく海やドライブを満喫できた亜栖羽。

 桃嬢とミッキー嬢は、亜栖羽に協力する代わりに、宿題を写させてもらうとかの作戦だと、亜栖羽本人から聞かされている青年だ。

 少女たちが時々、こちらに話を振ってくれる。

「オジサンのおかげで、桃ちゃんたち二人も宿題、完璧で提出できます~♡」

「ほんとっス! 助かりましたっス!」

「こうして、ふっ様は少女たちを逃れられないように…はふぅ…♡」

「そっ、そんなつもりではっ、ありませんから…っ!」

 妄想ネタだと解っていても、つい真面目に反応してしまう青年だ。

 そんなこんなで時間が過ぎて、空もすっかり暗くなって星がきらめき、花火の会場にアナウンスがかかる。

『本日は、第八十三回 花火大会へ、ようこそ おいで下さいました。これより、花火大会を開催いたします』

 花火打ち上げのアナウンスに、会場から拍手が沸き上がり、空気もワァっと期待の熱を上げて行く。

「いよいよですね~!」

「うん!」

 会場中のみんなが空を見上げていると、川の中州から、第一発目が打ち上げられた。

 空高くへと打ち上げられて消えた光の尾は、更なる上空で、盛大に立体的な光の花を咲かせる。

 –ひゅるるるるる…ドーーーーーンっ!

「「「おおお~っ!」」」

 色鮮やかな光粒の巨大珠は、空気の振動と火薬の香りを、周囲に拡げて体感させた。

「生で見るの、子供の頃 以来だなぁ」

「そうなんですか~?」

「うん。なんだか ドキドキしてるよ」

 花火は続けて打ち上げられて、夜空には盛大な音と光の花がドンドドンと咲いて、そのたびに川辺の会場が照らされる。

 花火の種類も豊富で、大輪を咲かせる牡丹(ぼたん)や色鮮やかな菊(きく)、光る滝のような柳(やなぎ)や多彩な光の粒が弾ける椰子(やし)など、見ていて飽きなかった。

「………」

 みんなが夜空を見上げる中、青年は、隣の恋人を見つめてしまう。

 花火が打ち上がるたび、友達と一緒に楽しそうに瞳をキラキラさせて、思い出したように写真を撮って、感動している。

 愛らしい横顔が七色の光で照らされて輝き、楽しそうな笑顔が幻想的に、夜の空間で眩しく見える。

(……可愛いなぁ…♡)

 育郎はいつしか、花火ではなく亜栖羽の横顔を、何枚も連射撮影。

 ふいに、少女が青年へと向く。

「オジサンっ、今のすっごい、綺麗でしたね~♪」

「ハっ–ごっ、ごめんなさいっ、その…」

「GOさん、トモちゃんばっかり見てちゃ、ダメっスよ」

「ふっ様の視線から逃れられない亜栖羽ちゃん…はふぅ…♡」

「す、すみませんっ!」

 ウットリ視線が女子たちにバレていた青年だった。


                    ~第二十一話 終わり~

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