第十八話 浴衣の女子たち
「…こんな感じかな…」
亜栖羽へのお返事写メとして。この夏に一度だけ着用した浴衣に、再び袖を通す育郎。
大柄な身体に合わせて祖母が縫ってくれた濃紺色の浴衣は、恋人に評判が良かった。
昨夜、亜栖羽からのメールで「明日はみんな、浴衣です♪」と伝えられていたので、青年も浴衣で花火大会へ向かう事にした。
「そろそろ行くか」
浴衣姿で、電車に乗って、待ち合わせの駅へと向かう。
電車の中には浴衣姿の女性たちがチラホラいて、中にはカップルの姿もある。
カップルでも男性はほぼ洋服なのも、ちょっと面白い。
(…ああ、少し前なら こんな光景で勝手に落ち込んだり…ましてや花火大会そのものも、ネット中継で見てたっけ…)
去年の夏の花火大会は台風とぶつかってしまい中止になったけれど、その時も「残念だなあ」程度の感想だった。
しかし今年は、亜栖羽と一緒。
「でへへ…亜栖羽ちゃんの浴衣姿…生で見られるんだ…♡」
浴衣を着た大男がだらしなく破顔をして、特に同じ車両の女性たちがザワっとしたり。
「写真もたくさん撮るぞ!」
しかも今回は、亜栖羽の友達も一緒である。
(うむ…女子たちのボディーガードとして、ちゃんと三人を護らなければ…っ!)
蕩けた顔が一瞬でビシっと恐ろしく変化をして、やはり同じ車両の女性たちがビクっとなった。
目的の駅に到着をすると、やはり浴衣の客たちは、ほとんど降りる。
「みんな 花火大会を見に来たんだな」
駅の改札を出て、更に待ち合わせはココだったなと、改札付近で恋人の姿を探そうとしたら。
「あ、オジサ~ン♪」
と、繁華街の混雑の中でも絶対に訊き間違える事のない少女の声が、耳に届いた。
「あ、亜栖羽ちゃんっ–うおおっ!」
思わず声が漏れる。
亜栖羽は、淡い桃色の浴衣を纏っていて、スズランの柄が涼し気だ。
風の動きを表現したような、白い線も優しいイメージ。
髪はサイドポニーに纏められていて、小さな金魚鉢の簪が揺れていた。
(おおぉ…浴衣の天使だ…っ!」
と、感動が声で漏れる育郎に、友達二人が突っ込む。
「GOさん、相変わらず心の声 ダダ漏れっスね~」
ミッキー嬢は水色の浴衣で、全体的に大人しい感じで、濃い青色と白色が流されたイケメンな柄。
手には、竹製の団扇を携えていた。
「こうして、亜栖羽さんを褒め称えつつ その心を鷲掴みに…はふぅ…♡」
桃嬢は。意外にも黒系の浴衣だ。
墨のような綺麗な黒から緋色へと、グラデーションも上品で美しく、白抜きされた鶴の柄も清潔感を見せていた。
頭髪もポニーテールで纏めている。
よく見ると、三人の浴衣は白色が共通ポイントのようであった。
三者三様に魅力的な少女たちを前に、ちょっと緊張をした二十九歳。
「み、みんな、こんばんは…ゴホん」
「「「今晩は~♪」」」
元気で明るい女子たちと、大柄で筋肉質な男性の組み合わせに、ナンパ目的な少年たちが、理解不能な顔で戸惑っていた。
「み、みんな…可愛いね…」
正直な感想に、ミッキー嬢はニコニコしながらも、突っ込む。
「ダメっすよGOさん。アタシたちを褒めてくれるのは後にして、まずはトモちゃんを褒めないとっスよ」
「え あ、そ、そう…」
何と言っても、年齢と恋人無しが=な青年である。
恋愛に関しては、十五歳の少女たちに教わる事ばかりだ。
「あ、亜栖羽ちゃん…ゆ、浴衣っ–ととととても似合っててっ、可愛いねっ–っ♡」
「えへへ~♪ 嬉しいです~♡」
青年の言葉に、少女は輝く笑顔。
(ま、眩しい…♡)
もっと見たいと渇望する育郎は、心のままに言葉を溢れさせる。
「サイドポニーは涼し気だし、簪の金魚鉢も和風で似合ってるよ。浴衣の優しい色合いで亜栖羽ちゃんの愛らしさを引き立てているし、きっと亜栖羽ちゃんに着てもらって、浴衣も喜んでいるよ! ああ、足下の小さな下駄も可愛いなぁ…! 鼻緒の藍色とか、浴衣と対になってる感じで、すっごくっ、似合っているよっ!」
「オジサンに気に入って貰っちゃった~♪ えへへ~♡」
想う事の全てを口にしていると、亜栖羽も嬉しそうに頬を染め、ミッキー嬢は呆れ顔で、桃嬢はお腹いっぱいなフェイスだった。
~第十八話 終わり~
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