第十七話 1/10の二人


 夏休みラスト十日間の予定が決まって、亜栖羽は今日の要件を切り出した。

「あ、そうでした~☆ オジサン、見て下さい~♪」

 少女がワクワクフェイスで見せてくれたスマフォの写真には、プラモデルが写されている。

「あ、これ…」

「はい! なんとか頑張って、完成させました~♪」

 先日、育郎と一緒に見つけたプラモデルショップで購入した、女子高生のプラモデルと、筋肉大男のプラモデルの、完成写真だ。

「こっちが~、私に似てるってオジサンも言ってたプラモデルで~、こっちがオジサンに似てる感じのプラモデルです~♪」

 女子高生のプラモデルは、可愛いし清楚だし、確かに似ている。

 しかし筋肉の大男は。

「これ…たしか 同じスケールなんだよね?」

「? どーすけーる~?」

 プラモ初心者な亜栖羽には、同スケールとか、よく解らなくても当たり前である。

「えっと…大きさとして、1/10くらいの縮尺というか…」

「?」

 とにかく、育郎がネットで調べた感じでは、二体とも同じスケールのプラモデルだった。

「どっちも、同じ縮尺で小さくしたプラモデルっていうか」

 女児玩具の着せ替え人形を参考に話したら、亜栖羽には理解し易かったようだ。

「なるほど~。たしかに同じスケールなんですね~」

 女子高校生のプラモデルの身長が十五センチちょっとだと、レビュー動画で見たので、まあ1/10スケールと考えて、差し支えないだろう。

 しかし筋肉の大男は、尖った頭髪ではなく、その下の頭頂部を想定したとしても、二十三センチ程だと、やはりレビュー動画で見た。

 リアルスケールなら、身長百五十センチほどの女子高生と、二メートル三十センチの巨漢という、超アンバランスなカップルだ。

 並んだ写真を見るに、女子高校生の頭頂が男性キャラの腹筋くらいの高さで、完全にスケール違いにも見える。

 しかも男性キャラは上半身が裸で、腰にも毛皮を捲いていて、表情は白目を剥くほど怒っているのと、もっと怒っているバージョンの二種類。

 可愛い笑顔の女子高校生と並んでいる様は、まさにキングコングか鬼しか想像できない感じだ。

「何枚か、写真 撮ったんですよ~♪」

「み、見せて」

 数枚の写真で、亜栖羽に似た女子高校生プラモの、表情パーツを付け替えている写真もある。

 笑顔の他には、恥ずかしがっていたりホッペタを膨れさせて怒っていたり、特に庇護欲を刺激される困惑顔は、まるでキングコングに攫われた美女を想像させて。

「お、女の子のプラモは、ともかくだけど…」

 この筋肉大男が育郎だとすれば、亜栖羽を驚かせて怖がらせているようにしか、見えなかった。

「お顔~、もっとオジサンに似せられると、良いんですけどね~」

 と、亜栖羽は写真を見つめる。

「ぼ、僕に…?」

 フィギュアになるような顔ではないという自覚はあるけれど、敢えて求められると想像してしまう。

(…あ、亜栖羽ちゃんにソックリな女子高生プラモと、僕に似たプラモ…)

 並んでいる姿を想像すると、それはそれで、とても幸せな気持ちになったり。

「えへへ…亜栖羽ちゃんと並んでる~? あ、そうだ」

 今日、亜栖羽にプレゼントするつもりで持ってきた箱を、袋から取り出す。

「亜栖羽ちゃん、これ」

「? なんですか~?」

 青年が差し出した袋を、少女はワクワクと嬉しそうに受け取る。

「開けてみて」

「は~い♪ わあぁ…!」

 箱の中には、育郎が密かに購入して完成させた、女子高生プラモの小物シリーズが収められていた。

 学習机やスイーツのテーブル席など、ヴィネットとしての小物というだけでなく、お人形さんゴッコが出来る感じのアイテムである。

 プラモ制作の趣味を持つ青年は、全てのパーツを綺麗に磨き出し、塗装を整え、アイテムごとの艶も調整。

 机の底面などにもシャドウを吹いたりして、素人としてはかなりの見栄えだ。

 丹念に制作をされた小物類に、少女もしばし、魅入ったり。

「…これ、この娘のアイテムですよね…すっごく、綺麗~♡」

「でへへ…あ、亜栖羽ちゃんがプラモを買ってるの見て、僕もつい 作りたくなっちゃって。えっと…よ、良かったら…受け取って 貰えると…」

 モジモジする巨漢に、少女はパァっと明るい笑顔。

「わぁ、ありがとうございます~! いいんですか~♪ えへへ、嬉しいです~♪」

 喜んでもらえて、何よりだ。

 亜栖羽は、箱に収められている小物を一つずつ丁寧に手にしながら、ジックリと観察。

「はあぁ…オジサンの工作…すっっごく、細かくて丁寧ですね~♡」

 心底から感じ入っているようだ。

「そ、そうかな。気に入って貰えたら、嬉しいよ」

「はい~♪ 今夜早速、二人をデートさせちゃいます~♡」

 キラキラの笑顔は、育郎にとって何よりのご褒美である。

 それから二人は、初めての街を散策したりして、夕方になって亜栖羽の最寄り駅まで送って、今日のデートは終了。

「それじゃあ オジサン! 今日は、ありがとうございました~♡」

「うん。それじゃあ、またね」


 その夜、亜栖羽から送られて来たプラモの写真では。

「…美少女と怒り顔の大男が、小さすぎるテーブル席でスイーツを食べてる…」


                     ~第十七話 終わり~

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