第十二話 選択と結論


「オジサン、このプラモデル、購入しますか~?」

「う…っ!」

 育郎的には、難易度の高い質問だ。

(本音で言えば、すっっごく欲しい…っ! 亜栖羽ちゃんに似ているだけで絶対購入決定だしっ、目の前のこの娘プラモが別の男の手に触れられるとか考えただけで、怒りが湧いて来るっ! Hな妄想とかではなくっ、亜栖羽ちゃんに似ているというだけでっ、欲しくてたまらないっ! しかし…っ!)

 太古から、ヲタク男性に対してついて回る、誤解の認識が頭を過る。

(やっぱり女の子からすればっ、いい年した、しかも独身なオジサンが女の子の形のオモチャを手にしている姿なんてっ、よほどでもない限り、気持ち悪く見えても当たり前だしっ! もし僕が、このプラモを買って、亜栖羽ちゃんから軽蔑されてしまったら…っ!)

 正直、絶望が深すぎて、生きていけない自信がある。

「ぼ…僕は…っ!」

 強面を更に恐ろしく歪めて悩乱する筋肉青年が、命がけで辿り着いた答えは。

「ぼ、僕は…亜栖羽ちゃんのソックリさんより…亜栖羽ちゃん本人が、比べ物にならないくらいっ、良いのです…っ!」

 これも間違いなく、青年の本心だ。

「そ、そうですか~♪」

 亜栖羽の嬉しそうな笑顔が、輝いている。

 その微笑みが何よりも嬉しくて、心が満たされてゆく筋肉巨漢。

(うん。やっぱり、これで良いんだ…っ!)

 愛しい少女の眩しい笑顔が護れて、青年は聖騎士にでもなったような、誇らしい気持ちだ。

「それじゃあ、私 買っていいですか~?」

「えっ!?」

 なんと、亜栖羽似のプラモデルを、亜栖羽本人が購入するという。

「これと~ あ、これこれ~♪」

 少女がもう一つ購入したのは、男性キャラのプラモデルだった。

 世界的なバトルアニメの、劇場版の敵キャラクターで、主人公キャラと同スケールなのに、やたらと身体が大きい。

 全身が超マッチョで、頭髪なんてライトグリーンなパイナップルの葉のように尖りまくっていて、上半身裸のディテールもほぼ筋肉表現だ。

「こ、これ? 主役とかじゃなくて?」

 女子高生と、筋肉大男という、プラモデルとしてはちょっと不思議なチョイス。

「えへへ~♪ だってオジサン、この女の子のプラモデルが私に似てるなら~、こっちのキャラクターだって~、オジサンに似てませんか~?」

「ぼ、僕に…?」

 言われて、ジィっと観察。

 大柄でやたら筋肉質な感じは、男性キャラの商品としても珍しいくらい、強調されている。

 しかも商品はフルパワーバージョンと書かれていて。きっと筋肉ディテールも、より力強く大きく造形されているのだろう。

 パッケージも、女の子のプラモがスッポリ入りそうなくらいに大きくて、完成後のサイズも伺えた。

 アクションフィギュアとしては、女の子プラモと同スケールっぽいけれど。

「なんか…男性キャラのプラモ、大きすぎない…?」

「でも~、私はこのキャラクター、オジサンだな~って、思います~♡」

「そ、そうなの…? でへへ…」

 プラモのアニメキャラだからデフォルメされているだけうけれど、この位に逞しく感じて貰えていると思うと、やっぱり嬉しい。

「私、この二人を 作ってみたいです~♪」

 亜栖羽がそう望むのであれば、育郎としては反対する理由など無いし、むしろ力になってあげたいと、強く想う。

「なるほど…。うん、解らない事があったら、いつでも何でも訊いてね」

「は~い♪」

 亜栖羽は嬉しそうに、プラモデルを二つと、ニッパーと接着剤を、レジへと持って行った。

 プラモデル二つだけでも、結構な値段だ。

(女の子のプラモデル…色々と小物も 別売りされている感じだな)

 青年は、オプションアイテムである旅行鞄と、スウィーツなどのテーブルセットを、ちょっと欲しかったロボのプラモと合わせて、密かに購入。

(こっちを作って、亜栖羽ちゃんが完成させたら、プレゼントしよう♪)

 愛しい少女が喜ぶ顔を想像すると、心の中の幸せ度数が爆上がりな青年であった。


                    ~第十二話 終わり~

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