第十一話 愛し気なプラモデル


「へぇ…品揃えは、予想以上にマニアックな気がするなぁ…」

 さほど広くはない店内だけど、古くからの大手メーカーから新規のメーカーまで、その商品たちはそつなく並べられていた。

「異常戦士ランダム関係も、意外と潤沢に揃ってる」

「あれ~。このロボさん、私が生まれるよりずっと前の プラモデルですよね~?」

 そう言って少女が見せてくれたのは、ランダムのプラモデルとしては一番最初の、税別三百円の単色成型キットだ。

「うわっ、これがあるって…凄いんじゃないかな!?」

 亜栖羽どころか、育郎も生まれる前の商品である。

「こういうプラモが現役だとか、よく考えたら 凄い事だよね」

「私からすれば~、パパとかな年代の感じですかね~♪」

 そんな望郷にも似た想いだけで、購入してしまいそうになったり。

 青年的には、本当に欲しい人が手に入れてこそ、プラモも幸せだと考えている。

 なので、今は買わない。

「こっちの方は…ヒーローとかのプラモだ。最近の商品だね」

 仮面ヒーローとか、世界的バトル漫画のアニメキャラのプラモデルとか。

「こういうのって、女の子キャラ、あまり無いって 聞いてます~」

 と、友達のプラモ女子からは、聞いているらしい。

「たしかに そうだね。出ていない事はないけど、大手メーカーよりも新規のメーカーの方が、積極的に展開している感じはあるかな」

「キュリプラとか、出てないですかね~?」

 亜栖羽が好きな女児アニメのキャラクターだけど、商品展開としては、少女向けの着せ替えドールとか、大きなお友達向けのアクションフィギュアで展開している。

「やっぱり、メインのターゲット層が小さい女の子だからかな。プラモとなると、ターゲットが変わるんだろうね」

「そうなんですか~」

 ちょっと作ってみたい、と思ったのだろう。

 そのまま棚を眺めながら、奥へと進む。

 この辺りは完全に、新規メーカーの商品棚らしい。

「あ…っ!」

 ここで青年は、あるプラモデルに目が留まった。

「こ、これも 入荷してるんだ…!」

 最近、ネットなどで話題になっている、女子高生をモチーフとしたプラモデルだ。

 女子キャラがプラモデルになる場合、ピッタリスーツ+メカガジェット的なSF要素が強くなる傾向がある。

 しかし、いま育郎が手にしているこのシリーズは、日常世界の少女たちをモチーフとした、アニメタッチだけど普通の女子高生のプラキットである。

 制服姿で、完成するとアクションフィギュアとしての可動も出来る。

 友達シリーズも展開していて、机やテーブル席などの、周辺アイテムも展開しているという、話題のプラモデルだ。

 勿論、育郎もネットの情報で知ってはいるものの、興味はそこではなく。

(こ、このキャラクター…亜栖羽ちゃんに、すごく似てる…っ!)

 ネットで、紹介写真やレビュー動画を見た時から感じていたけれど、あらためてパッケージを手にすると、やっぱり似ている。

 髪型は違うけれど、明るい笑顔や優しい空気感が、特にそう感じさせていた。

 レビュー動画を見ながら「穢れた手で亜栖羽ちゃんに触るな」とか、一人勝手に心の中で怒りを燃やしていたり。

(こ、このキットが…今、僕の、手の中に…っ!」

 感激が無意識に言葉となっていて、当たり前に、隣の少女にも届いていた。

「オジサン、そのプラモデル…」

「ハっ–っ!」

 大人の男が、女子高生のプラモデルを手にして、だらしなくニヤニヤしている図。

(あ、亜栖羽ちゃんにっ、軽蔑されてしまう…っ!)

「いやっ、ぁあのっ、とと特別にイヤらしい気持ちとかではなくてですねっ–っ!」

 と焦って弁解を始めたら。

「そのプラモデルって~、私に似てるって 友達が言っていたプラモデルなんですよ~。似てますか~?」

「え…」

 亜栖羽の友達であるプラモ女子から、亜栖羽になんとなく似ていると、写真を見せられた事があるらしい。

 少女は素直な眼差しで、青年の答えを求めている感じ。

「ぇえっと…しょ、正直…亜栖羽ちゃんに似ているとは、思います…。でもっ、亜栖羽ちゃんの方がっ、一億倍以上っ、素敵で可愛いですっ!」

 恥ずかしさも混ざって、絞り出すように本心が溢れ出る青年だ。

「えへへ~♪ オジサンがそう言ってくれるなら、すっっごく嬉しいです~♪」

 恥ずかしそうに微笑む少女は、育郎のプラモ天使だった。


                    ~第十一話 終わり~

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