第十話 大型店舗を散策


 中央の広い出入口をくぐると、一階は薬や洗剤などを扱うドラッグストアだった。

 幾つもの棚と商品が並んでいて、所々でセール品なども見受けられる。

 案内板によると、五階までそれぞれの取扱品で分けられていて、地下一階は食料品のフロアだ。

「あ、奥にエスカレーターがありますよ♪ 上がりながら、それぞれのフロア 見ていきますか~?」

「うん…ん?」

 と、ここで考える。

 育郎は、初めての大型店舗を巡る時、まずは最上階まで上がって、ユックリと眺めながら降りてくる。

 しかし亜栖羽は、一階から各フロアを巡りながら、最上階まで上がって行くらしい。

(ふむ…たしかに 亜栖羽ちゃんの廻り方のほうが、買い残しとかの可能性を考えると 良いのかな…)

 育郎は、意外とせっかちな処もあるのだろうか。

 最上階まで上がって、降りながら色々なお店を確認して、一階に着いてから「あの商品どうしようか」と迷い、結局は購入する為にまた上のフロアへと戻った事は、何度かある。

 そな効率の悪さを自覚しながら、特に考える事もなく、なんとなくその方法から変えない自分。

(せっかくだし、とにかく 亜栖羽ちゃんの廻り方で、行こう!)

 こういうタイミングは、自分ではなかなか変えられないけれど、誰かと一緒なら変えられる事もある。

 それが愛しい少女なら、なおさらだろう。

「それじゃあ、ジックリ探索して行こうか」

「は~い♪」

 青年は少女をエスカレーターの前に乗せて、万が一にも転倒などをしても護れるように、後ろで壁となった。

 二階へと上がると。前の少女よりも後ろの巨漢の強面が先に見えて、店員さんが驚いたり。

「到着で~す♪」

「二階は…女性用の洋品店だね」

 亜栖羽は特に購入予定とか無いらしく、フロアを一周して、すぐにエスカレーターへ。

 女性客しかいないフロアで、一人男性であり筋肉巨漢な青年は、ウッカリでも下着などを注視していると思われないよう、天井を見ながら少女の後を付いて歩いたりした。

 エスカレーターで上がった三階は男性用品で、四階はオモチャや文具など。

「おもちゃ、見ます~?」

「う…ちょ ちょっとだけ、いい…?」

「は~い♪」

 青年の趣味に理解のある少女が、気を利かせてくれた。

「お言葉に甘えて…」

 と言っても、子供の対戦ホビーなどに興味深々というワケではない。

「…今年の仮面ヒーローの 割引販売が始まってる」

「本当だ~。人気なかったんですか~?」

「ううん。この番組が 予定通りのスケジュールで無事に放送を終えて、来月から新しいシリーズが始まるんだよ。つまり、商品の入れ替えだね」

 来月になると、新しい変身ヒーローのホビーが店頭に並べられるのだ。

「そうなんですか~。あ、そういえば、私の好きなキュリプラも、タイミングは違いますけど そんなスケジュールでした~♪」

 放送開始の時期が半年ほどズレているから、今期は仮面ヒーローが入れ替えのタイミングであった。

「亜栖羽ちゃんも、プリキュラのグッズとか、新しいのはチェックしてるの?」

 何気ない問いに、少女は恥ずかしそうに、素直に答える。

「えへへ、そうですね~♪ 小さい女の子とかと一緒に 新商品とか見ちゃいますね~♪ お店で触れられる新しいアイテムとか、子供たちが遊び終わるの、待っちゃったりして☆」

「そうなんだ…うふふ」

 なんとも愛らしくて微笑ましいエピソードに、強面青年もだらしなく破顔したり。

「あ、オジサン、プラモデルのお店、ありますよ~♪」

「え、あ、本当だ」

 おもちゃコーナーは、このビルの取り扱いだったらしい。

 対してプラモデルは、全国展開しているショップの支店が、フロアの奥に出店していた。

「へぇ…こんな下町の駅ビルに、珍しいなぁ…」

「入りますか~?」

「う~…良い?」

「は~い♪」

 亜栖羽を連れてプラモデル屋さんに入るのも、何度目か。

 このお店で、亜栖羽と育郎は、ある衝撃的な出会いを果たす。


                   ~第十話 終わり~

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