第八話 亜栖羽の行為


 更に写真を見せて貰うと、背景いがいでは、美少女と美少年しか写っていない。

「み、みんな綺麗だし、子供たちも、可愛いねぇ…」

「でしょ~? 今年 小学生になったマイちゃんとかアキナちゃんとか、もう天使~っ、なんですよ~♪」

 従姉妹たちの魅力が認められて、お姉さんな少女も嬉しそうだ。

「あ、叔父さん叔母さんたちも、久しぶりに会う感じなんですよ~♪」

「ぐ…」

 既に当たり前な事実だけど、誰を見ても、美紳士と美淑女しかいない。

 亜栖羽の一族は、みんな天使の血でも引いているのだろうか。

 しかも後ろに写っている大きな日本家屋は、どう考えても葦田乃一族の本家屋敷だろう。

「う、後ろのお屋敷も…立派だよねぇ…」

「はい♪ 葦田乃家の本家で、後ろの山とかも、敷地らしいですよ~♪」

 と、姪っ子たちと撮影した庭での写真を、楽しそうに見せてくれる。

 日本家屋の白い壁に、青い空と高い山々が連なって、まさしく日本の夏。

「す、凄いんだね…」

 亜栖羽の実家である超高層マンションを見た時も、勝手にひどく落ち込んだけれど、葦田乃一族の本家屋敷となると、更に大きなというか、決定的に埋められない差を見せ付けられてしまった感じだ。

(亜栖羽ちゃんの家系って、すっっごく貴族みたいな感じだし…しかも誰一人として…)

 育郎レベルまで届かないとしても、不細工な感じの人なんて、微塵も無し。

 しかもみんな、顔だけでなく、全身のバランスまで整っているように見える。

(…もし、僕が亜栖羽ちゃんと結婚したら…)

 美しき一族の中でただ一人、強面巨漢の筋肉男。

 頭の中で並べてみると、天使の一族に仕える使役獣のようにも見えた。

(……なんで、僕は…)

 せめて、人並みと言える顔と背格好であればとか、また落ち込んでしまう巨漢青年だ。

「オジサン♪」

「え…うむゆ」

 テーブル越しに、立ち上がった少女の細い腕が伸ばされて、小さな掌の白魚の如き細い指で、両の頬を抓まれて、引っ張られる。

 意外と柔らかい青年の頬が左右に伸ばされ、唇も一緒にプヨんと広がったり。

「? ?」

 亜栖羽は黙って、笑顔で、もともと変と自認する青年のイジられている変顔を、ジっと見つめていた。

「へ、へっほ(えっと)…」

「うふふ…」

 楽しそうな輝く微笑みを向けられていると、何だか不思議と、心が軽くなってきた。

(な、なんだろう…なんか、あんなに落ち込んでた気持ちが…)

 少女の指先で触れられて、顔を弄られただけなのに、なんとも言えないくらい、とても嬉しい。

 思わず、楽しく笑ってしまっていた。

「え、えへへ…」

「えへへ~♪」

「ひぃっ!」

 育郎と一緒に笑う亜栖羽とは別に、二人のテーブルを見た女性客たちが、強面青年の変顔に驚いたり。

 亜栖羽が指を離す頃には、青年の気持ちは完全に復活。

(そうだよ! 亜栖羽ちゃんは、僕の顔でも選んでくれたんだ! 顔の事でいちいち落ち込むなんて、選んでくれた亜栖羽ちゃんに失礼なんだ!)

 育郎の気持ちを察した亜栖羽の行為が、見事に実を結んでいた。

 少女は椅子に座り直すと、田舎での写真を更に見せてくれる。

「あ、これ、川遊びした時の写真ですね~♪」

「うんうん、ぉおお…っ♡」

 タンクトップにミニスカートにポニテと、涼し気なスタイルで裸足の爪先を川に浸し、大きな石に腰かける、亜栖羽と親戚の子供たち。

「亜栖羽ちゃん、可愛いなぁ…んん…!」

 思わず漏れた本音が恥ずかしくて、慌てて咳払いで取り繕うものの、少女の耳にはちゃんと届いている。

 川遊びの少女に、あらためて思う。

(亜栖羽ちゃん…水辺の天使なんだなぁ…♡」

 写真鑑賞は続く。

「あ、これは甥っ子の宿題の自由研究で、昆虫採集を手伝った時の写真ですね~♪」

 水色のワンピースに大きな麦わら帽子を被って、大きな虫取り網を勇まし気に構えている亜栖羽。

「うんうん…ほえぇ…♡」

(亜栖羽ちゃんは…虫取りの天使なんだなぁ…♡」

「あ、これはお墓参りの写真ですね~♪」

 制服姿だけど、ソックスなどが喪服色だ。

(亜栖羽ちゃん…お墓の天使なんだなぁ…♡」

 これも育郎としては、大絶賛の言葉である。


                    ~第八話 終わり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る