第七話 顔と身長


「それで ですね~♪」

 ドリンクがくる前から、亜栖羽は里帰りの話を始めた。

「この子が、今年 中学三年生になった、従兄弟のタカくんなんですけど~」

 と言いつつ、スマフォの写真を見せてくれる。

「う…っ!」

 育郎が衝撃を受けたのは、タカくんなる少年と亜栖羽が、肩が触れ合うほど隣り合って仲良く写真を撮っているから、だけではない。

(な…なんて 美少年…っ!)

 背が高くて全身が引き締まっていて、中性的な面立ちで、短く整った頭髪もサラサラでまつ毛も長い。

 まさしく、少女漫画の相手役そのものな、従兄弟のタカくん。

「見てください~。私より、背が高くなっちゃってタカくん~!」

「そ、そうだねぇ…」

 亜栖羽的には、従兄弟の美形っぷりよりも、身長を追い抜かれた事の方が、気になるらしい。

「ま、まぁ…男子って、中学のお終いくらいから 急激に背が伸びたりするからねぇ…あはは…」

 タカくんの身長よりも、美しい姿形に、地味な嫉妬と凄い敗北感な青年であった。

「そうなんですか~。あ、もしかしてオジサンも、中学生くらいから 背が高くなったんですか~?」

「ぼく? ん~、ぼくは…タカくんくらいの年には、もう百八十を超えてたかな…」

 背が高いけれど超筋肉質で顔も怖かったので、女子たちからは怯えられていた記憶しかない。

 あと顔。

「百八十センチですかっ? すっご~い! タカくんが知ったらすっごく 悔しがっちゃいますよ~♪ タカくん、私の背を追い越して ちょっと自慢っぽかったですから~♪」

「そ、そうなの…?」

 タカくんは絶対、女子にモテモテだろうし、なにより怖がられる事など、絶対にないだろう。

 そんな美少年に悔しがられるとすれば、正直、ちょっと恥ずかしいけど嬉しい気もする。

「だってタカくん、オジサンの話をしたら、驚いて悔しがってましたから♪」

「へぇ…って、えっ!?」

 従姉妹とはいえ、育郎と付き合っている事を話したのだろうか。

 もし強面巨漢の二十九歳と付き合っているとか、ご両親が知ったら。

(ボクが亜栖羽ちゃんのご両親だったら、絶対にやめさせるっ…自身があるっ!)

 亜栖羽が自分の娘だったら、絶対に容姿端麗質実剛健真実一路勤勉高学歴所得信頼第一な最高ランクの男性でなければ、死んでも認めない。

 つまり育郎自身はランク外。

(…ぼ、僕は両親じゃないけど…)

 と、自分に言い聞かせる青年である。

「実はですね~、夜 オジサンと電話しているところを、タカくんに見られちゃったんですよ~! それで 後ろから覗いてきて、オジサンと一緒に撮った写真 見られちゃいまして~♪」

 輝く微笑みで話してくれているけれど、ご両親にバレたりはしないだろうか。

「えっと…そ、そうなんだ…」

(亜栖羽ちゃんとお付き合いしている事は、隠すつもりじゃないけど…)

 育郎自身が、もっと自分に自信を持てるようにならなければ、ご両親に否定されても反論できる根拠が乏し過ぎる。

 そんな青年の心配もドコ吹く風のように、亜栖羽は話す。

「タカくん、オジサンの写真を見て『うわ誰この巨人 ねーちゃんの恋人!? 身長どのくらいっ!? デカいっ! デカすぎるだろっ!』って~、オジサンの身長、すっごく気にしてましたよ~♪」

「そ、そっち…?」

 美形な人たちにとって、顔の造形はあまり気にならないのだろうか。

「なので~、みんなで並んだ海の写真とか見せたら、驚いて何度も写真を見て、歯ぎしりしてました~♪」

「そ、そう…」

 海での写真から、タカくんは育郎の事を「海で出会った どデカいライフセイバー」と勘違いをしたらしい。

「オジサンとお付き合いしてる事、まだオジサンから許可を戴いてませんですし~。ミッキーと桃ちゃん以外、話してませんよ~♡」

「そ、そうなんだ…」

 安心しながら、色々と想う。

(もっと自分に、自信が持てるようにならなくちゃ…)

 とか。

(男は顔じゃないって…顔が問題にならない人たちの認識なんだろうなぁ…)

 とか。

「あ、これ。従兄弟たちみんなと 撮った写真です~♪」


                       ~第七話 終わり~

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