第六話 お茶室


 歩いて十分ほどの隣駅まで、育郎と亜栖羽は三十分以上もかけて到着。

 アーケード商店街と繋がっている隣の駅は、日常的な生活必需品を扱っている商店街でもあるからか、今日はそれほど多くの人はいなかった。

 夏休みだし特に若い人たちの姿はほとんどなく、ノンビリ過ごすお年寄りと、休日を楽しむ大人たちと、元気に駆ける子供たちの姿が殆どである。

「ちょっと時間 かけちゃったかな。亜栖羽ちゃん、暑くない?」

「はい~、全然元気、ピンピンしてます~♪」

 と、元気を体現するように、両腕と全身をピンピンと左右に伸ばす、パンク少女だ。

「えへへ…そ、それじゃあ…あ、あのお店だよ」

 思わず見惚れてしまって、慌てて目的のお店を見つけた青年である。

「わぁ~、綺麗なお店ですね~♪」

 新装開店のお店は、街の喫茶店やティールームというより、純和風の茶屋を思わせる造りだ。

 中規模なお店の壁は木造で、窓も大きく、お店を取り囲む花壇のお花など、女性をターゲットにしている感じ。

 立てかけてあるボードのメニューも、ケーキや羊羹など、和洋折衷な甘味処っぽい推し方である。

「入ってみようか」

「は~い♪」

 レディーファーストで、少女はス…と、青年は屈んで頭をぶつけないように、注意しながら入店。

「いらっしゃぃ…ませ…っ!」

 気づいた女性の店員さんが、育郎の姿を見上げて、軽く息を飲んで、すぐに接客モードへ戻った。

 青年は、大人として堂々としたいけれど、やはり恥ずかしくてオドオドと。

「あの…二人、なんですが…」

「お二人様…? え、あ…こ、こちらです…!」

 育郎の前にいた亜栖羽だけど、小柄なうえ青年の巨体に圧倒されていた店員さんは、言われて気づいたらしい。

 慌てて案内をしてくれた席は、窓際の二人席だ。

「ふぅん…お、お店の中も、女性向けな感じがするね」

 自分だけ場違いな気がして、ちょっと怖気たりする育郎。

「そうですね~♪ 内装とか、テーブルも椅子も可愛いですし♪」

 商店街の人出を考えると、お店は混んでいるとみて間違いないだろう。

 七人ほどが座れるカウンター席はほぼ満席で、テーブル席も二席くらいしか空いていなかった。

「さて、メニューは…」

 開いて二人で見ると、珈琲よりも紅茶と緑茶の種類が多く、軽食やデザートがメインのお店のようである。

「とりあえず、何か飲もうか」

「は~い♪ あ、オジサン見てください!」

 亜栖羽が細い指でさしたのは、メニューの下の方に書かれているドリンクだ。

「抹茶アイスとかじゃなくて、アイスグリーンティーですよ~! つまり、冷たい緑茶ですよね~♪」

「そうだよね。お店でこういうのは、ちょっと珍しいと思うよ」

 抹茶ではなく緑茶を、しかもアイスで出すお店。

 メニューをよく見ると、アイスぜんざいとか醤油アイスとかの和風メニューが充実している。

「和風喫茶 なんだね」

「ですね~♪ いいな~♪」

 お祖母ちゃんの影響で、和菓子やお茶が好きな亜栖羽にとっては、なかなか趣味なお店だろう。

「僕は…アイス玉露を試してみるけど、亜栖羽ちゃんは?」

「う~ん…どれも美味しそうですよね~」

 悩んでいる様子だ。

「とりあえず、今日 頼まなかったメニューは、また次の時に試してみる?」

「は、はい!」

 育郎は無意識で、次のデートの話になって、少女は嬉しそうに頷いている。

「それじゃあ、シンプルにアイスグリーンティーを戴きます♡」

「うん。えっと、て、店員さ~ん」

 今日のデートはオシャベリで、お店にもそこそこ長くいるから。青年としては気遣いも含めて、お茶請けとして羊羹アソートも注文した。

「か、かしこまりました…」

 強面で巨漢の青年と、小柄な美少女という組み合わせに、店員さんも色々と推察。

 しかし、少女の明るい笑顔が幸せに輝いていて、青年がだらしなくデレデレしている様子から、犯罪性は皆無と判断したようだった。


                     ~第六話 終わり~

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