第五話 ノンビリ歩いて
改札を抜けて、二人は隣の駅へと、線路沿いの道を歩き始める。
「あ、オジサン ごめんなさい。切符代、私 払います~!」
「いやいや いいよ。それより 亜栖羽ちゃん、日差し 大丈夫?」
電車賃を気にしている少女は、隣駅まで一緒に、夏の日差しの中を歩く事になるから、そっちが心配な青年だ。
「私は大丈夫ですよ~♪ 今日は湿気も少なくて、気持ち良いですし~♪」
陽光の中の亜栖羽は、太陽と元気と少女の存在そのもので、キラキラと眩しい。
「それじゃあ、なるべく日陰を探しながら 歩こうか」
「は~い♪」
ふたりは、目的の隣駅へと、ノンビリと向かう。
本来ならば、育郎が線路側を歩いて亜栖羽をガードしたいところだけど、線路の反対側は普通に車道で、しかもガードレールとかが設置されていない、ある意味で田舎の道のままである。
(あんまり車は来ないけど…やっぱり、車道側の方が危ないもんなぁ…)
少女に線路側を歩かせて、育郎は車に気を付けつつ、車道側を歩く。
もしかしたら二人が乗っていたかもしれない電車が、速度を上げながら追い越して、通り過ぎていった。
「あはは♪」
電車の通過で風が起きて、亜栖羽が楽しそうに帽子を押さえたり。
(うふふ…可愛いなぁ…♡)
と、どちらかと言えば頑張って「可愛い」を意識したのは、帽子を押さえた際にちらと覗けた、上着の隙間からのツルツルな白い脇の下などが、健康的で清潔でエッチに感じたからだ。
「コホん…男子よ紳士たれ…っ!」
(でも絶景だったなあ…♡)
心のアルバムにまた一枚、大切な写真が出来た青年である。
「このへんって、あまり高いビルって、ないですよね~。そのかわりって言いますか、大きな樹がいっぱい 生えてますよね~♪」
「ああ、そうだね。昔からの家が多いからだろうね。商店街も、昔ながらのお店が沢山あるし。まあ、下町かな」
「私、この街の感じ 素敵だなぁって思います~♪」
超高層マンションに住む社長令嬢の亜栖羽だけど、庶民派なところもあるのは、育郎もよく知っている。
(亜栖羽ちゃん…将来、この街に住むのかなぁ…?)
それはもちろん、育郎と結婚した事が前提というか、育郎的には絶対願望。
亜栖羽が微笑みエプロンで、帰宅のお出迎え。
『お帰りなさ~い♪』
「あああっ、最高過ぎてっ、前が見えないいいいっ!」
思わず声が漏れて天を仰ぎ、喜びで全身の筋肉にも力が籠る
「? オジサン、どうかしましたか~?」
「ハっ–ぃいえいえっ、あ、歩くのもっ、最高でいいかなって…!」
とか、慌てて取り繕う。
そもそも在宅プログラマーである育郎だから、亜栖羽が「お帰りなさい」と出迎えてくれるのは、仕事帰りではなく、主にお使いの帰りとかだろう。
「あはは♪ 歩くの いいですよね~♪」
「あ、亜栖羽ちゃん」
「はい?」
丁度、線路沿いの公園で、自動の水撒きが始まった。
太陽の光を受けてキラキラと煌めく噴水が、乾いた夏の土に跳ねて染み込んで、暑い夏に涼し気な景色を見せてくれる。
「しゃ、写真…撮って、良い…?」
「は~い♪」
緑と地面を潤す幻想的な噴水をバックに、デジカメで数枚。
「うん、凄く綺麗な写真が撮れたよ!」
「えへへ、見せてくださ~い♪」
二人で写真を確認すると、公園での写真だけで、十枚以上も撮っていた育郎。
画像の中では、夏の青空と息づく緑と、涼し気に光を散らす噴水をバックに、愛らしい少女が微笑んでいる。
「すごく撮ってるじゃないですか~」
「あはは、つ、つい」
恥ずかしそうに微笑む亜栖羽が眩しくて、育郎はまた一枚撮影。
「じゃ、行こうか」
「は~い♪」
二人はまた、目的地へ向かって歩き出す。
(でもあれだな…電車じゃなくて、良かったんだなぁ…)
それだけ長く、一緒にいられる。
一緒に歩いて、気づける景色もある。
その喜びは、亜栖羽も同じだ。
~第五話 終わり~
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