第四話 ヒマワリと
「オジサンは、どんな髪型の私が 良いですか~?」
「!」
亜栖羽的には、育郎の事だったらなんでも知りたい。という、ある種当たり前な質問だろう。
しかし、生真面目かつ愛する女性からの問いに、青年は真剣に悩む。
「亜栖羽ちゃんの髪型…うむむむ…っ!」
腕組みをして悩むと全身の筋肉が盛り上がり、その表情と姿は「過剰筋肉」という名前な現代彫刻の如し。
(亜栖羽ちゃんにもっともに合っているのは、サラサラのストレートヘアーだと思うけれど…海で見せてくれたポニーテールも、元気な感じで最高に可愛かった…。今も後頭部での三つ編みも、落ち着いた感じで少し大人っぽくて素敵だし、しかし写真で送ってくれたツインテールも、小動物みたいで、この上なく愛らしいし…うむむっ、どの亜栖羽ちゃんも最高過ぎて、ベストワンを選べないいぃっ!」
苦悩が声に出ている事に気づかない育郎の心の声を聴きながら、亜栖羽は更に、質問を重ねてみる。
「服装なんかは どうですか~? ワンピースとかの方が、お好みですか~?」
「服装…っ!」
今日の服装は、初デートの時に着ていたパンクっぽい衣装だ。
(もっとも意外で、かつちょっと露出が健康的で可愛い姿だっ! だけど海で見た水着とか…いや普段の制服姿も素敵だしっ…ドライブの時のワンピースも、清楚で護りたくなる感じだしっ、図書館で宿題をした時のノースリーブにミニスカートもっ、あああっ、どんな服装もこの上なく似合っていて素敵だあああああっ!」
内なる葛藤が駄々洩れな青年の苦悩姿を、少女は嬉しそうに恥ずかしそうに頬を染めつつ、堪能していた。
「わっかりました~♪ えへへ♡」
「? え…そ、そう…?」
あまりにも迷っていたので、呆れられた。
とか勘違いしそうになって、しかし亜栖羽の笑顔がそうではないと、解る。
ワイドショーなどでは、女性タレントさんが「ズバっと決められない男はイヤ」とか言っていた記憶があるけど、そういう感じとは違う様子なので、安心した青年である。
亜栖羽の嬉しそうな笑顔が輝いており、少女の納得がどこなのかよく解らない育郎だけど、とにかく合格ラインらしかった。
「あ、電車 行っちゃいましたね~」
育郎が亜栖羽を見惚れている間に、少女が乗って来た電車は発車してしまったようだ。
「そ、そうだね。あ、次の電車を待つ間に、その…しゃ、写真、撮って良い…?」
駅の後ろのヒマワリと青空をバックに、亜栖羽の写真を撮りたい育郎。
「はい♪ どこで撮るんですか~?」
「その 後ろのヒマワリとか…」
育郎が掌で指し示した後ろを振り向いた亜栖羽は、あらためて、ヒマワリと青空に感激した様子だ。
「わぁ~…。ひまわり、元気いっぱいですね~♪」
視界を占めるヒマワリ、とまではゆかないものの、ヒマワリよりも少し低い亜栖羽の視界だと、花と青空だ。
青年は、スマフォではなくデジカメを取り出して、ファインダーに少女を捕らえる。
「亜栖羽ちゃん、撮っていい?」
「は~い♪ ポーズ~♡」
亜栖羽は両腕をいっぱいに青空へと伸ばして、楽しそうな笑顔を輝かせる。
(ああ…亜栖羽ちゃん、可愛い…♡)
「はい、撮りま~す」
電子なシャッター音がして、デジカメに、パンクな夏の天使の写真が収まった。
ポーズを変えつつ更に数十枚と撮り続けて、次の電車が到着。
「あ、オジサン 電車が来ちゃいました~♪」
「え、ああ…それじゃあ、行こうか」
本日の目的は、駅で亜栖羽の写真を撮りまくる事ではなく、新しいお店で、亜栖羽とオシャベリを堪能する事だ。
天使とヒマワリと青空のコラボ写真撮影が楽し過ぎて、ウッカリ目的を忘れそうになっていた育郎である。
「さ、亜栖羽ちゃん」
乗車しようと亜栖羽にレディーファーストをしたら、何か思いついたらしい。
「オジサン、お隣の駅まで 歩きませんか~?」
~第四話 終わり~
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