第三話 駅で待ち合わせ
午前十時に待ち合わせだけど、育郎は、朝の九時から駅でスタンバイ。
爽やかカラーな半袖と大人っぽいスラックスで纏めた青年は、大人として平均点で恥ずかしくない恰好だ。
「万が一にも 亜栖羽ちゃんを待たせたりしたら、イヤだからな…!」
紳士の決意で強面が引き締まると、対面のホームでジュースを飲んでいた男子高校生たちが、ビクっし怯えてジュースを咳き込んだり。
最寄り駅は、最近になって再開発がされ始めているけれど、まだ昭和っぽさが色濃く残る、下町である。
各駅電車は停車するけれど、急行には通過されてしまう駅でもあった。
駅舎も、上下線を挟む形でホームが建設されているけれど、それぞれのホームを行き来できる通路は無し。
下り線ホームは商店街へと続いていて、上り線ホームの裏側は狭いけれど裏通りであり、自転車やオートバイなどの駐輪場にもなっていた。
今日、育郎と亜栖羽が待ち合わせをしているのは、下りのホームである。
電車の一番前の扉で下車すると待ち合わせ場所で、ここが目的駅の出口に一番近い、というワケではない。
単純に、屋根があって日陰になっているからであり、つまりは亜栖羽の日焼けに対する育郎なりの気遣いであった。
何本も電車を見送る青年は、まるで天使の降臨場を護る使役獣の如く、決意で筋肉が盛り上がったりして、下車する子供たちが驚いて逃げるように走り出したりしている。
「まだ時間があるし、今日は晴れてくれて 良かった」
見上げると、遠くに入道雲が湧いていて、日差しは強い夏らしい空。
風も乾いていて、日陰ならそれほど暑くなく過ごせそうでもあった。
ホームの後ろ側、一メートル強の壁の向こう側も駅の敷地で、ホームの長さと同じ範囲で色々な植物が植えられている。
今は夏真っ盛りで、沢山のひまわりが太陽に向かって顔を上げていた。
「亜栖羽ちゃん、喜ぶかなぁ…でへへ~」
ヒマワリと青空を背景に、白いワンピースで微笑む亜栖羽を想像したり。
「うんっ! 世界でもっとも画になる、夏の天使だっ!」
初めて会った時は育郎の天使で、初デートの時は春の天使。
夏休みに入って海に行った時は、海辺の天使。
この先も、秋の天使だったり冬の天使だったりするのだろう。
などと幸せな妄想に浸っていたら、アっという間に時間が過ぎて、午前九時四十五分。
「まだ時間があるぞ」
服装が乱れたりしていないかとチェックをしていたら、各駅電車が停まって、聞き慣れた天使の声が聞こえた。
「オジサ~ン♪ おはようございま~す♡」
たとえ一万年が過ぎても聞き間違える事はないと自信のある、少女の声。
待ち合わせの時間より早いなあ。と軽い驚きと巨大な喜びで、声のした方を見る。
「亜栖羽ちゃん、お早よ…おおおっ!」
扉から降車して来た亜栖羽の服装は、ある意味、育郎の頭に一番強く印象として存在している、パンク系スタイルだった。
頭には黒いキャップを被っていて、小さいドクロの缶バッヂが可愛い。
上着は袖なしの黒い艶ジャケットで、細い腕にもアクセサリーが巻かれている。
シャツは赤色で、ボトムは黒いショートパンツ。
ソックスはオーバーニーで、白い腿が素敵でちょっとエッチだ。
ブーツも少しヒールの高い黒系で、全身にメタルっぽい小さなアクセサリーがキラキラしていた。
しかしもっとも大きな変化は、髪型である。
キャップを被るためか、後ろで三つ編みに纏めている。
(み、三つ編みの亜栖羽ちゃん…なんて、可愛い…っ♡)
全身のスタイルはパンクっぽいけれど、育郎にとっては間違いなく、夏の天使だ。
思わず惚ける青年に、少女は少し、不安になった様子。
「あれ~? オジサン、この格好 あまり好みではないですか~?」
ちょっと申し訳なさそうな口調に、育郎はハっとなった。
「いぃいえいえいえっ! すっっっっごく素敵だしっ、可愛いしっ、エッチっ–ぃいえそのっ、眩しいですっ!」
「そ、そうですか~♪ 良かった~♡」
全力で褒められて恥ずかしい感じのパンクっ娘だけど、不安は払しょくされたようだ。
「亜栖羽ちゃんの三つ編み、初めて見たけど…その…かか、可愛いし、涼し気だよね…♡」
巨漢がモジモジしながら、強面が日向のアイスみたいに、だらしなく蕩けたり。
「えへへ~♡ オジサン、三つ編みが初めてって、気づいてくれたんですね~♪」
そんな亜栖羽から、予想外の出題がされた。
~第三話 終わり~
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