城と宝刀

狐のお宮

昔話

 むかしむかし、遠い昔。お侍さんがいた頃のこと。

 大変美しいお城と、そのお城に納められた美しい宝刀がおりました。


 美しいお城は美しい宝刀に向かって言いました。

「私が貴方のことを守ってあげるわ。美しい貴方が汚れてしまわないように」

 すると宝刀もお城に言いました。

「では私はこの身で貴女を守ろう。美しい貴女が踏み荒らされぬように」


 それからしばらくして、美しいお城に敵がやってきました。猛々しい声が辺りを揺るがします。

 お城の守りは堅く、敵は足止めを喰らいました。

「ああ、痛い。痛いわ。でもいいの、大切な貴方を守るためなら」


 しかしやがて最初の守りが破られ、次、また次へと、敵はお城を上ってきました。

「ああ、痛い。貴方を守れない。でも私は崩れないわ、貴方が此処にいる限り」


 追い詰められた果てに、ついに宝刀が持ち出されました。主の手の中で、宝刀は震えました。

「よくも、よくも私の大切なお城を。許さない、敵を狩り尽くすまで、私は止まらない」


 宝刀の怒りは凄まじく、一振りで敵を何人も斬りました。

「許さない、許さない。思い知れ、お城の痛みを、思い知れ!」


 宝刀の勢いは止まらず、大勢いた敵は何処か行ってしまいました。

 そして今まさに、最後の敵を、一振り。

 しかし同時に、宝刀も主の手をすり抜けました。


 宝刀はそのまま、お城の外へと飛び出しました。

 そうして太陽の光が宝刀を照らすと……


 宝刀は震えました。悲しくて震えました。

 かつてお城が褒めてくれた、銀の光を反射する自分の姿はありませんでした。


 お城もまた震えました。悲しくなって泣きました。

 かつて宝刀が守りたいと言った、壁も床も壊れてしまいました。


 お城は大きく泣きました。がらがらと大地を揺るがして泣きました。血濡れてしまった宝刀の、哀しく地面に突き刺さる姿が無念でなりませんでした。

 そうして美しいお城は、瓦礫の中に姿を隠してしまいました。


 宝刀は悔しくて願いました。己を照らす太陽に願いました。

 もう照らさないでくれと。光がお城の壁を通り抜けるたびに、血濡れた自分が熱く苦しくなるからと。

 そうして美しい宝刀は、身に付いた血と共に錆びて朽ち果てました。




 やがて時が経ち、たくさんの緑が生えては枯れていきます。

 そこにはもう誰も、お城と宝刀を知るものは居りません。



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城と宝刀 狐のお宮 @lokitune

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