9:ラヴィナ内部


 翌日。

 俺達は朝御飯代わりに昨日のスープの残りを食べると、早速ラヴィナ中枢へと向かう準備を開始した。


「何があるか分かりませんから」


 そう言ってシスカが竜骨をレーザーブレードで削りはじめた。あっという間にそれは片刃剣のような形になり、俺は持ち手に竜の皮を巻いた。


 見てくれはあれだが、やはり男としてこういう剣っぽい武器には憧れがある。


「斬れ味はさほどですが、ないよりはマシでしょう」

「ありがとうシスカ。あとは、食糧と水と……」


 水筒なんて物はないので、革を熱で接着させて作った革袋に中が空洞になっている骨を差して、簡易の水筒もどきを作り、それに煮沸した水を入れていく。


 食糧は昨日の夜に干した肉が、風が強かったおかげかすっかり乾ききっていたので、それを葉に包んで持っていくことにした。


「まあ、とりあえずこれだけあれば大丈夫だろうさ」

「はい!」

「じゃあ出発するか」


 こうして俺達はベースキャンプである格納庫を発って、島の中央部へと進んでいく。


「このラヴィナ上層部には、緊急用の連絡口があったはずです」


 シスカが遠慮無くレーザーブレードを振り回して、森を切り開いていくおかげで、歩きやすい。


「ならそこを目指そう」

「既に、それらしき場所はドローンが捕捉しています。あと……四十メートルほどでしょうか」


 そうして辿り付いたのは、やはり一見すると森の中にある広場だ。だが、良く見れば地面が薄く盛り上がっており、そこの上の土を払うと、直径四メートルはある巨大なハッチが出てきた。


 俺はそのハッチ上部についているハンドルを手に持つが、錆び付いているのか、全く動く気配がない。


「私がやってみましょう」


 シスカがハンドルを手に持ち力を入れた瞬間、バキン! という音と共にハンドルが破損。


「……ふ、風化が激しいようですね!」


 誤魔化すように千切れたハンドルをぽいっと背後に捨てたシスカを見て、俺は苦笑する。


「仕方ない。機械式の開閉装置が付いていることを祈ろう――起動」


 俺がハッチに触れてそう言った途端、機械音が鳴り響き、ハッチがぎこちない動きで横回転していき、上へと跳ね上がった。


「……ひ、開きましたね。流石です!」

「最初からこうすれば良かったな」


 まあ、シスカの脳筋っぷりが見れたしいいか。


 ハッチの中には、はしごが設置されていて下まで続いている。中は暗く見えないが相当深そうだ。


「降りるか」

「? 落ちる方が早いです」

「へ? あ、ちょ、だから、それは――うわああああああ」


 シスカが俺の手を取ると、そのまま穴の中へと飛び降りた。


「着地はしますのでご安心を」

「そういうことも、早めにいってくれえええええええ」


 俺の絶叫が縦穴の中に響いた。もうやだこの子!


 そうしててしばらく落下していると、シスカが飛行形態になり、何度か近付いてきた床にブースターをふかし、速度を和らげて着地。


「……思ったよりもソフトランディングだった」


 もっと、ドン! ガン! 着地! みたいな感じだと思っていたから余計にそう感じてしまう。


「私を何だと思っているのですか……。さあ、行きましょうか。念のため、ドローンを先行させます」


 シスカが例の羽虫型ドローンを十機ほど放つ。降りた先は通路だったが、何か古いSF映画とかに出てくる宇宙船の通路のように見える。のっぺりとした素材の床と壁、謎の光源から光を放つ天井が、余計にそんな雰囲気にさせている。


「中枢へと続いているエレベーターへと向かいます。ラヴィナの中央部を縦に貫いているので、この周囲のはずです」


 そういって、ドローンの情報を元に地図を作成しながらシスカが進んでいった。


「なんか、殺風景だな。いやまあ通路なんだからしかたないが」

「ラヴィナ内部は大体どこもこんな感じですよ?」

「そうなのか……」


 やはり俺達とは価値観が違うのかもしれないな。


 暫く歩いていると、なんだか広い円形の空間に出た。


「これは……」


 中央にはエレベーターらしき筒があるが、問題はその周囲だった。


「まさかラヴィナ内部にまで侵入があったとは……」


 周囲には、激しい戦闘の痕が残っていた。ひしゃげた自動人形、ミイラ化した竜のような死体。中には人間の兵士らしき死体もあった。


 とにかくそこには死の香りが色濃く残る空間だった。


 床に突き立つ銃や剣や槍が――墓標に見える。


「一体何が起こったのでしょうか」

「分からんが……自動人形達はエレベーターを護っていたように見える」


 見れば、エレベーターの近辺には自動人形が壁のように立ち並んでいる。だが、どれもが焼け焦げた痕や、無理矢理貫かれたような痕が残っていた。


「ここまで侵入されたとなればおそらく防衛機構も何らかの方法で無効化されたのでしょうね」

「わからんが……とにかく行こう」

「はい」


 俺達は朽ちた人形達の間をすり抜け、エレベーターへと辿り付いた。エレベーターの横にある操作盤には光が灯っているのを見て、シスカが少しだけ嬉しそうに声を上げた。


「エレベーターはまだ動いていますね。良かった、中枢はまだ生きているようです」

「それは良かった。エレベーターに起動のスキルを使うのは少し不安だったからな」


 動いている途中で壊れて落下とか、想像するだけでも嫌すぎる。


 シスカが操作盤を何やら触っていると、音もなく、エレベーターがやってきた。そのヌルリとした動きは、俺の知っているエレベーターよりもかなりハイテク感溢れている。


「いきましょう。あとは降りるだけです」

「おっけー」


 円筒形のエレベーターに乗り込むと、これまた音もなく落下していく。


「どうした? 不安そうな顔をして」


 何となくそう感じて俺がシスカに声を掛けた。


「……いえ。大丈夫です」

「まあ、知らんうちに家が荒らされてたら嫌な気分になるわな」

「中枢にいけば、記録が見られます。そうすればきっと何が起きたか分かるでしょう」

「……まあ俺的には、そういうのは分からないまま、曖昧なまま置いとく方がいいと思うけどね」

「そうなのですか?」

「俺達人間は弱いからね。そうやって目を逸らして生きることも大事だ」


 誰にだって目を背けたい過去はある。それをわざわざ直視する必要なんてない。


「それでも、やはり何が起こったかは知りたいです」

「そうか。なら仕方ない」


 エレベーターは静かにその動きを止め、ゆっくりと扉が開いていく。


 こうして俺達は中枢へと辿り付いた。


 そこで、待ち受けている者がいるとも知らずに。

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