7:ワンショット・ツーキル


 俺とシスカが、島の沿岸部の岩陰に隠れていると、機械化した羽虫が飛んできた。


「やはり、テュエッラはいませんね。ですが〝下等竜レッサードラゴン〟の群れが島の周辺を周回しています。あの襲ってきた黒竜も姿はありませんが、おそらくどこかにいると思いますね」


 その羽虫はシスカの手のひらに着地すると、そのまま形を変え、機械化している部分に溶け込んでいく。偵察用超小型ドローンらしいが、便利な物だ。


「それで、そのレッサードラゴンとやらは食えるのか?」


 腹ぺこキャラみたいなセリフで、自分で言いながら思わず笑ってしまいそうになる。


「食べた経験はありませんが、人類に関する資料の中に、〝ドラゴンステーキうめええ〟という記述があったのでおそらく可食できるかと」

「ステーキ……くいてえ」


 急激に腹が減ってきた。


「うっし、腹が減りすぎて倒れる前に始めようか」

「いつでも」


 俺はシスカは頷き合うと、拠点として使っている格納庫から運んで来た、殺戮人形へと手を置いた。


「――起動」


 俺の言葉と共に、百五十センチほどの大きさの人形の目に光が宿り、立ち上がった。本来は滑らかな表面なのだろうが、長年の侵食でボロボロになっている。


「ギギギ……ガガガ……」

「――行きなさい」


 シスカの言葉と共に、人形がさび付いたような動きで、島の端へとゆっくりと歩いていく。


 その動きはとても戦闘を出来る状態には見えないが、俺のスキルで動かせるのはあの程度だ。やはり、最低限しか直らないのがこのスキルの使いにくいところだ。中途半端と言ってもいい。


 まあないよりはマシだが……。


「さて。上手く釣れるかな?」

「ドール達は、かつて竜族と戦った際に最前線で戦った尖兵です。千年経った今でもこのラヴィナを警戒しているぐらいですから、きっと竜にとっては忌々しい存在なはずです」


 俺達が見守る中、人形が島の端へとたどり着く。


「流石に立っているだけじゃ、寄ってこないか?」

「我々はあの近くで喋っているだけで襲われましたから、来るはずですよ。仕方ありません、少し派手に動かしましょう」


 どうやら遠隔操作できるらしく、シスカが人形へと指示を飛ばした。


 すると人形の右手が変形していく。砲身状になっていくそれは、なんか凄い何かを撃ちそうなフォルムだ。


「おお、なんか凄いぞ!」

「……」


 だが次の瞬間――人形の右手が破裂音と共に盛大に弾け飛んだ。


「ぎゃっ!! むー! むー!」


 俺が思わず叫んでしまうが、すぐにシスカの手で口を塞がれてしまう。


「静かに」

「うー! うー! ぷはっ! りゅ、竜の攻撃か!?」

「違います、わざとですよ。やはり思った通り、歩く以上の機能は直っていないようです」


 どうやら、壊れるのを承知で無理矢理変形するように指示したようだ。その結果、人形の右手が爆発し――


「ほら……音に釣られて」


 シスカの視線の先を追うと、小さな青色の竜が二体、島の下から現れていた。


「キギャアアア!!」


 竜達は、腕が吹っ飛んでその場に倒れた人形へと吼えた。その口元には炎が渦巻いている。


「〝狙撃形態スナイピングモード〟」


 シスカの右手とあの銃が一体化していき、彼女の目の部分にバイザーのようなものが装着された。


「――ファイア」


 シスカの銃から、赤い光弾が音も無く発射された。しかし、それは二体の青い竜の丁度その間を通り過ぎていく。


「外した!? おい、しかも見付かったぞ!」


 こちらに気付いた竜達が叫びながらこちらへと向かって来ている。


「あえて外しました。大丈夫、想定内ですよ――今度は、撃ち抜きます」


 シスカの銃から、今度は赤いレーザーが放たれた。


 その赤い光線は、迫って来ていた先頭の竜の頭を貫通し、その後ろにいたもう一体の竜の胸部へと命中。


 二体の竜が地面へと墜ちた。ピクリともしないところを見るに、どちらも絶命したようだ。


「……すげえ。二枚抜きかよ」

「島の外で殺しても、死体を回収できないでしょう? だからわざと一発目は外して、こちらへとおびき寄せたのです」


 俺は竜の死体へと駆け寄りながら、シスカの説明に相づちを打った。確かに、最初の一では例え命中していても、島の下へと落ちていただろう。

 

「なるほど、そういうことか。凄いなシスカ!」

「この程度……雑作もありません」


 そう言いながら、その顔は心なしか嬉しそうだった。


「急いで、回収しましょう。沿岸部は危険ですから」

「了解! でもどうやって運ぶ? 思ったよりでかいな……これ」


 その竜は、テュエッラやあの黒竜ほどの大きさはないものの、乗用車ぐらいのサイズはある


「? 普通に運ぶだけですが」


 そう言ってシスカが二体の竜の尻尾を両手にそれぞれ掴むと、ずりずりとそれらを引きずりながら森の中へと戻っていく。全く重量を感じさせないその動きは、異様でしかない。


「……よし、絶対に怒らせないでおこう」


 あの細い身体のどこにあんな怪力があるんだ……?


 そうして、俺達は森の中に入ると、早速解体を開始した。


 シスカが右手から例のレーザーブレードみたいなやつを出して、それで硬そうな鱗や骨をするすると斬っていく。正直、かなりグロい光景だが、サバイバル動画で良く見たやつなので、そこまで抵抗はない。


 シスカが俺の指示で、食べられそうな肉を斬り出していく。俺はそれを巨大な葉っぱで包んでいく。


「シスカ、これはなんだ?」


 俺は竜の喉辺りにあった、綺麗な水晶のような石を見つけて指差した。


「これは……竜結晶です! そうか、これなら」

「へ?」


 シスカが、その竜結晶とかいう石の周囲の肉を丁寧に取り除き、手に取った。


 彼女が手から赤い光(エーテル光というらしい)を放ち、竜結晶に込めていくと――手のひらから


「火だ!」

「竜結晶とは、竜族が体内に持つエーテル器官です。彼等は心臓にある生体エーテル炉で生成したエーテルをこの竜結晶に供給することで、様々な属性のブレスを放つ事が出来るのです。竜の種類によって形状と属性が違い、爪や牙や角になっている場合もあります。この竜はどうやら火属性で、喉元に竜結晶を持つ種類のようです!」

「なんか分からんが、つまりはエーテルを込めれば火が出る便利な石だな! というか本体が死んでいても使えるのか」

「ええ。人類はこの竜結晶を武具だけではなく、様々な用途に使っていました。ああ、そういえば火の竜結晶を使った調理器具もあったと記録にありますね」

「おいおい、食糧だけじゃなく、火まで確保できたじゃないか!」


 竜狩り、マジで正解だった。


「はい! 竜結晶も使い過ぎれば砕けてしまいますが、少なくとも数ヶ月は持ちます。現時点で二個ありますので、問題ないでしょう。エーテルも私が供給できますし」

「――他にも使えるものありそうだな。骨、皮、爪、鱗、全部使おう」

「内臓類はどうしますか? エーテル汚染が酷いので可食できませんが」


 何かに使えるかもしれないが、流石に内臓類は臭い。確か、こういう内臓系の臭いは他の肉食動物をおびき寄せる効果があった気がする。


 ここに置いておくと、他の竜を呼び寄せてしまうかもしれない。


「とりあえず捨てるが、撒き餌に使えるかもしれないな。実験的に、沿岸部に置いておこう」

「なるほど。次の竜を狩る為にですね」

「ああ。だけども……」


 俺は二人では到底食べきれない量の肉を見て、笑みを浮かべた。


「食糧に関しては当分は要らなさそうだな」

「……はいっ!」


 無表情ながらも、シスカは嬉しそうに笑っているように俺には見えた。


 俺は、この島に来てようやく――心から笑えたのだった。


「さあ、飯にしようか!」

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