6:肉を得る、最も冴えたやり方


「た、確かに食事は大切で――」


 ぐぅ、と腹を鳴らしながら喋るシスカの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。あくまで無表情だが……。


「とにもかくにも、何か食べないと俺は死ぬ。半神半機も腹が減るから同じか?」

「……はい。水分も栄養も経口摂取になります」

「なら、食糧、火、そして水の確保が最優先だ」

「水なら、テュエッラが暴れたおかげなのか森の中に池や川が出来ていたので、問題ないかと。この高度で雨は降りませんし、貴重であることは確かですが」

「にしたって煮沸か濾過しないと飲めないだろ。まあ最悪直飲みでも良いけど」

「おそらく飲んでも問題ないかと思いますが、安定供給とはいかないので、それも考えないといけないですね」


 何となくだが、この島にはあのテュエッラが定期的に来ている気がする。あの嵐が定期的に起きていたからこそ、あれほどの森が、雨の降らないこの島でも緑豊かでいられるのだろう。


「じゃあ、残るは食糧と火だな」

「火?」


 なにそれ? ぐらいの感じで聞いてくるが、まさか火を見たことない、なんてことはないよな?


「いや、食材が万が一あっても、そのまま食べるのはマズイだろ? とりあえず焼けば、少なくとも腹は下さない。火で暖を取る必要はとりあえずなさそうだが」

「なるほど……食材を焼くという概念はありませんでした」

「ないの!? 食事はどうしてたんだよ!」

「……? 〝栄養棒〟と〝栄養液〟があれば事足りましたので」 


 うわあ……ぜってー、ディストピア飯的なサムシングだ……。もさもさのパサパサなスティックに、無駄に赤色なクソマズ飲料に違いない。


「ネーミングからして不味そうだな」

「味は気にしたことないですね、それしか食べたことないですし」

「まじかよ。ってことはもしかして火を使って調理するとかそういう文化はないのか?」

「ありません。ラヴィナはエーテル炉によって動力を得てますから、熱エネルギーが必要な場合はエーテルから熱エネルギーを抽出して使っていました」


 うーん、エーテルが何なのかさっぱり分からんがが、要するにオール電化のIHキッチンしかない家で生まれ育ったから、ガスコンロや火を使った料理を知らない、みたいな感じか。


「その、熱エネルギー抽出ってのはどうやるんだ?」

「専用の設備とデバイスが必要ですので、ここでは難しいです」

「なんか、さっきのジェットパック……飛行形態? で噴きだしてるあのよーわからん赤い光は熱エネルギーとかじゃないの?」


 原理はさっぱりだが、大体ああいうのって熱かったりするんじゃないだろうか。


「あれはエーテルをそのまま噴き出しているので、特に熱とかは」

「そうか……」


 ぐぬぬ……メカ娘だから、火ぐらいあっさり何とかしてくれるだろうと思ってたのに!

 

「まあいい。とにかく火は一旦置いておこう。問題は食糧だ。この島にはなぜか植物以外に生物が全くいない」

「そうでしょうね。元々無機物しかなかった場所ですし。鳥もこの高度までは飛べません。よって外的要因で他の動植物が入ってくるはずがありません」


 そういえば聞いたことがあるな。鳥の糞やら何やらで種が運ばれて、少しずつ緑が増えていくことがあるとか。だとしたら、なぜこの空中要塞は緑化したのだろうか。


「残念ながら、俺には食べられる野草の知識なんてない。そもそもここが異世界な時点で知っていても多分試せない」

「私も、植物を食べるという行為については経験がありません」

「ですよねえ……」


 うーん。これ、ちょっと詰んでるじゃねえか? 植物しかない島で、さらにそれを可食できるかの真偽を下す知識もない。


 片っ端から食べてを繰り返すしかないが、あまりにリスキーだ。一応、シスカには毒物を検知する機能があるっぽいので命を失うことはなさそうだが、毒のない葉っぱをもしゃるだけでは、人はいずれ死ぬ。というか俺が発狂する。


 やはりある程度満足感ある食事は必須だろう。


「海があれば釣りが出来るが……空しかないしなあ」


 釣りもできない。鳥獣もいない。昆虫もいない。


 あるのは、この朽ちた人形と俺達、それとドラゴンぐらいか。


 ん? そうか。


「なあシスカ」

「どうしたんですか? 私はラヴィナ内部で食料庫を探す方が早いかと思いますが」

「それは最終手段かなあ。シスカがそこまで案内できてかつ、そこに食糧が必ずあると保証されていて、しかもそれらが朽ちておらず、食べられる状態で保存されているのであれば――今から向かうのも悪くないが」

「ラヴィナ内部の構造についてある程度把握していますが……すみません、食料庫の位置は把握していません。なんせ身の回りの世話は全て〝自動人形オートマタ〟がやってくれていましたから」


 自動人形ね……もしかして、シスカって結構なご身分なのだろうか。このポンコツ具合がどうもそう感じさせる。


「それは仕方ないよ。そこを責める資格は俺にはない。いやさ、火はともかくとして……食料の候補を思い付いた」

「候補?」

「この島の周辺にいるじゃないか。忌々しい奴等が」

「まさか……」


 信じられないとばかりにこちらを見つめるシスカに頷いた。


「そう、だ。竜がこの島を警戒しているなら、丁度良い。逆にそいつらを釣って、食糧にしてやる」

「ですが問題があります。私には現在、攻撃兵装がありません。対竜砲は有効ですが、あれはあくまで対空砲なので、そこまで竜をおびき寄せるのが難しいでしょう。それを恐れないテュエッラを狩るのは論外ですし。私専用の攻撃兵装はラヴィナ内部にあるので、取りにいかなければなりませんが、場所が分かりません……」

「何を言っているんだシスカ。武器ならここに山ほどあるじゃないか!」


 俺はそう言って、脇にある朽ちた人形が腕に装備している、あの融解した砲身を携帯できるサイズにしたようなフォルムの銃らしきものに手を置いた。


「ですが、それはもう壊れて使えません……って、ああそうか、スキルですね!」

「その通り! というわけで――起動!」


 俺がスキルを使った瞬間に、銃に光が宿った。


「起動しました! これならば、エーテルを注入するだけで使えます!」

「そのエーテルとやらは見たところ、シスカが持っているのだろ?」

「もちろんです。私にはエーテル炉が組み込まれていますから」


 シスカが慣れた手付きでその銃を手に取って、何やら動作を確認していく。


「なるほど……確かに最低限撃てるようになっていますね。驚きです」

「だろ? なあそれって俺も撃てないの?」


 いや、銃なんて撃ったことないけどさ! どうせなら自分で撃ってみたいじゃん。


「それは難しいですね。銃弾となるエーテルを供給できるエーテル炉が必要ですから」

「そうか……まあ仕方ない」


 しょんぼりだ。まあいい、シスカが使えるなら問題ない。


「実は良い作戦があるんだ――」


 俺が説明すると、シスカが頷いた。


「ふふふ、良いですね。ワクワクします」


 無表情だが、シスカの顔は心なしか興奮しているかのように見えた。


「じゃあ始めるか、

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