5:作戦会議

 

 俺が目を覚ますと、そこは屋内だった。


「ここは?」

「……おそらくですが、要塞上部にあった〝殺戮人形キリングドール〟の格納庫でしょう。すっかり荒れ果てていますが」


 そこは狭いが、確かに倉庫的な場所だった。床から草が生えまくっているし、壁や天井にツタが張っているが、屋根はある。見れば、確かに武装した人型の機械が朽ちたまま整然と並んでいる。


「さっきのドラゴンは?」

「振りきりました。どうやら、警戒して島の中央部には近付かないようです。テュエッラのような〝長老竜エルダードラゴン〟は気にしないようですが」

「あんなクソ強生物が普通にいるこの世界が怖いんですけど」

「ああ、そういえば、異世界からやってきたと言っていましたね。あれは、竜と呼ばれる敵性存在です。いつ、どこから現れたのかは不明ですが、突如として現れ人類と我々エクスマキナ族に攻撃を開始しました」


 それからシスカが早口であれこれ説明してくれたので、俺は何度も聞き返しつつ理解を深めた。


「要するにだ。この世界には人類とそれ以外の生物、そして神と呼ばれる種族がいた。そしてシスカ達エクスマキナ族は、この神と機械のハーフ的な存在。それを半神半機と呼んでいると。で人類が暴れすぎて、呆れた神とシスカ達の一族は人類相手に戦争を始めたと」

「その通りです。そしてそこに竜族が現れ、更に混沌とした状況になったのです。ですが、その先何がどうなってこうなったのかは……分かりません」

「それはもう仕方ないさ。ってことはあのテュエッラとかいうクソ龍は、かなり強い奴なんだな」

「世界に数体しかいない〝長老竜エルダードラゴン〟です」


 そんなんと初っ端から遭遇するなんて運が悪すぎる。というかラスボスみたいな奴がこんな島をうろちょろしてるんじゃねえよ!


「遭遇して生きていたのが奇跡ですよ。これだけ風化と侵食が進んでいては、対竜砲台もまともに動かなかったはず」

「俺のスキルのおかげだろうな」

「そのスキルというのは何ですか?」

「うーん、それは俺が聞きたいんだがな。とにかく、故障していようが何だろうか、俺が起動と言えば動くらしい」


 そう俺が言ったあとに、周囲を警戒して見渡した。危ない危ない、うっかり変な物を起動させたらまた何が起こるか分からないからな。


 いや、でもそうか。


「……多分、手か身体のどこかが触れているのが条件かもしれない。対象に触れた状態で起動と口にすると、それは問答無用で起動するって感じか」

「なるほど。それならば一応説明がつきますね。原理は謎ですが」

「原理とかはないんじゃないかなあ多分。まあ、とにかくそういうわけだ」


 どうにも〝スキル〟という概念はこの世界にないらしい。となると、なぜ俺にこんな力が授けられたのかはますます謎だ。


「なるほど……大体理解できました」


 頷くシスカを見て、俺はため息をついた。シスカのおかげでこうして雨風を凌げ、かつ定期的に来やがる竜から隠れられる場所を見つけられたのは良かったが、状況はあまり改善していない。


「しかし、こうなるとシスカの飛行能力で下に降りるのは無理だな。シスカの見立てでは、この島の周囲は竜が警戒しているんだろ?」

「間違いないかと。かつての戦争時、彼ら竜族にとって最も脅威となったのは、神でも人類でもなく、彼等の領域である空へと足を踏み入れた、我々エクスマキナ族です。その王城であり、かつ最大の矛であるこのラヴィナが沈黙し、緑臭い島に変貌したとしても……万が一また動き始めるのを警戒して、千年の間ずっと監視していたのでしょう」

「んで、俺が見付かってしまったと」

「砲台が機能したのも知られたでしょうし、私の存在も認識されたと考えた方が良いでしょうね。これまで以上にこの島は警戒されるはずです」

「はあ……まあ遅かれ早かれか」


 竜を刺激してしまったのは悪手だったが、あの状況では仕方ない。


「それに私の飛行形態は本来、緊急的にしか使えないので長時間の飛行は出来ません。下に降りるだけなら可能でしょうが、戻ってはこれません」

「下に逃げた方が良いんじゃないか? ここにいたら竜にボコられるばっかりだ」


 俺が軽い気持ちでそう言うと、シスカは目を大きく見開いてガシッと俺の両肩を掴んだ。


「ラヴィナを廃棄なんてとんでもない! ここは竜が千年警戒するほどの場所です。それはつまり、彼等にとって致命的な存在である証明に他なりません! 唯一、竜に対抗できる武器を棄てるなんて自殺行為です!」


 もの凄い剣幕でまくし立てるシスカに、俺は思わず謝ってしまう。


「分かったわかった! ゴメンって」

「……すみません。取り乱しました」


 反省したのか、手を放しシュンとした態度になるシスカを見て、俺は頭を掻いた。


「いや俺だって、そんな自殺まがいの事はしたくないんだ。というかもうあの飛行形態は竜以上にトラウマだしな……。となると、この島で何とかするしかない」

「なら話はシンプルですよ、リンド。。そうすれば、自由に空を移動でき、大地にも降りられます。竜だって、ちゃんと防衛機構が起動すれば余裕です。長老竜は対策する必要がありますが」

「なるほど……空中要塞なら移動もできるし、防衛も出来るか」

「ですです! そうしましょう! ラヴィナにかつての力を取り戻してもらいましょう! リンドの力と私の知識があれば可能です! それに下界の様子も気になりますから」


 シスカがやけに嬉しそうにしているので、俺はその提案に乗ることにした。というか現状、そうせざるを得ないってのが本音だ。


「うっし。じゃあ目標が決まったな。まずは、このラヴィナを復興させつつ大地を目指す」

「頑張りましょう!」

「だがその前に――」


 俺はいい加減ずっと目を逸らしていたことに、まっすぐと向き合うことにした。


 というかもう限界だ。


「その前に?」

「――


 その言葉と同時に――俺とシスカのお腹が同時に鳴ったのだった。


 どうやら……半神半機でも腹は減るらしい。

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