第142話 貴族令嬢
宿泊施設の一階にあるレストランに下りると、その広さと調度品等の美しさに圧倒される。
「ここって……宿屋よね? 貴族屋敷のサロンルームみたい」
「ですよね! こんな宿屋に宿泊したのは初めてです」
シャルロッテも私と同じ様に驚き、キョロキョロと忙しなく見回している。
「ソフィア、シャルロッテ嬢ここだよ」
そんな私達を見つけたアイザック様が、席から立ち上がり手を振ってくれる。アイザック様達は先に来て席をとってくれたようだ。
「あっあそこだわ。シャルロッテ行きましょう」
「はい!」
次の瞬間、シャルロッテが前に勢い良く倒れた。
「えっ!?」
すぐさま背後から、馬鹿にする様な嫌な笑い声が聞こえてきた。
「クスクス……だから田舎者は嫌ですわ。マナーが全くなってない」
振り返ると、ゴテゴテとやたらと着飾った、貴族らしき令嬢が扇子で口元を隠し、私達を蔑む様に見てきた。
「さっさと退いて下さらないかしら? この宿屋に釣り合ってない平民の方達? いつからこのま
「なっ!」
シファさんが作ってくれた、この世に一つしかない特別な服なのに……馬鹿にするなんて。確かに見た目はシンプルかも知れないけど。許せない。
ーーソフィア! その変な女がシャルロッテを転ばせたんだ! オイラ後ろから見てたんだ。
どうやらディナーのご相伴にあずかろうと、シルフィとウンディーネが付いて来ていた様だ。
「えっ! そうなの?」
ーーそうさっ! どうする。コイツやっちゃうか?
シルフィが令嬢の頭の上でパンチしている。
ふと足元を見れば、豪奢なドレスの裾が少し捲れており、明らかに自ら足を出してシャルロッテの足に引っ掛けたのが分かる。
「ちょっと貴方! 何独り言を言ってるの? 気味悪いわね、さっさと早くそこを退きなさいよ」
シルフィと話していると、姿が見えないせいで独り言を言ってると思われた様だ。誰が簡単にどくもんですか!
「退かないわ!」
「そうそう。素直に……えっ?」
「だから貴方が謝るまで、絶対に退かない」
「なっ!? 貴方わたくしが誰だか分かってますの? プルーチン伯爵家が娘マウンティナよ」
「ルーチンだかマウンだか分からないけども、貴方なんて良く知らないわ! そんな事どうでも良いのよ! 早くこの娘に謝りなさいよ!」
私はシャルロッテを抱き起こし、少し汚れてしまった裾をパンパンとルルーチン令嬢にむけてはらった。
「ちょっ!? こっちに埃が飛んで来るじゃない! このドレスいくらするか分かってますの?」
「そんな見せかけだけの、ゴテゴテしたなんの価値もないドレスなんて、たいした値段しないでしょうよ」
「なっなんて事!」
ぺルーチン令嬢? が顔を真っ赤にしてワナワナと震えている。
「平民風情が、貴族に逆らうとどうなるか思い知るが良いわ!」
そう言うと、左手を上げて後ろに立っていた男達に何やら合図をした。
何かするんなら受けてたつ! そう思って構えていたら、手をグイッと後ろに引かれ目の前に突如壁が現れる……!?
「ったく……ソフィアはすぐ無茶をするんだから」
「ホントにね。後は僕らに任せて」
目前の壁はアイザック様とジーニアス様の背中だった。
さっきまで頭から湯気がでる程に怒っていた。ええとピローチン令嬢が何故だかアイザック様をウットリ見つめている。
「なっなっ貴方達はなんですの?」
「僕達は商人です。まだ見習いですがね。美しい令嬢……失礼しました」
アイザック様がそう言って笑ったけど目が笑ってない。氷のように冷やかな目でプリーチノ令嬢を見ている。あんな目をしたアイザック様は知らない。
「えっ……まっ」
ピレーチン令嬢は真っ赤な顔で鯉のように口をパクパクさせて、固まっている。
怖かったのかな?
「これは、失礼したお詫びだよ。それとあちらにある席を使ってくれたまえ、請求はこちらに付ける様に言ってあるので、好きな物を食べてくれたまえ」
ジーニアス様はお詫びだと言って、綺麗なネックレスを渡した。
プルーン令嬢が固まっていると
「じゃあ僕達はお先に失礼するよ」
ジーニアス様がそう言って踵を翻した。
「さっ行こう!」
「えっ? でも……まだっ」
プレーリン令嬢がまだ謝ってないとアピールするが、グイッとアイザック様に肩を捕まれ、私はレストランを出ていく事になった。
ええー! まだ謝って貰ってない! それに私なにも食べてないのにぃ! 納得いかない!
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