第108話 アイテムボックス



 グレイ隊長はピキッと固まりしばらく動かなかった。


 私とアイザック様はその様子を不安げにジッと見つめていたら、グレイ隊長は急に息を荒くし正気に戻った。


「はっはぁっ! アイザック様! 冗談ではなく……ほほっ本当にソフィア様が全て倒されたんですか?」


「グレイよ? 僕がこの状況でそんな冗談を言うと思うか?」


「いいえ……ですから驚いてしまって。その……ソフィア様の魔法はそんなにもお強いんですか?」


「そうだね。あそこに倒れているビックボア達は全て一瞬で倒された」


「全て一瞬で!?」


 それを聞いたグレイさんはまた青褪め固まってしまった。


 ……困ったな。

 そんなに規格外のことをしちゃってたとは、これから魔法を使うときはもう少し考えて行動しよう。


「とりあえず。このことは国王陛下に報告しますからね! ではあのビックボアを村に持ち帰りましょうか? あれだけあれば貴重な食糧だし村人達は重宝しますね。しかしあの量だ、運ぶには人手が足りない村人達にも手伝ってもらいましょう!」


 グレイさんが村人を呼びに村へと走って行く、その横をすり抜け精霊王様が尻尾をプリプリこちらに向かってトコトコと走ってきた。

 ……うん。丸い体に短い脚。あの姿はどうみてもミニチュアビックボアだわ。


ーーソフィア! シャルロッテとやらが一つ目の結界石に魔力を送り終え、二つ目に取りかかったぞ。あの娘なかなかやりおるのう。


「え!? 本当ですか! すごい」


 シャルロッテの報告を聞いてテンションが上がる!

 すごいわシャルロッテ。もう一つの結界石を終わらせるなんて。


ーーそれでソフィアの方はもう終わったのか? ワシが思うとったよりも早く片付いておる。なかなかやるのう。


 精霊王様が鼻息を荒くして褒めてくれる。


「いやぁそれ程でも……」


ーーそれであの肉塊はどうするんじゃ?


 精霊王様がビッグボアを鼻先でさした。


「今グレイさんが、ビッグボアを運ぶのを手伝ってくれる村人達を呼びに行きました」


ーーんん? あの肉塊必要なのか?


「もちろん!貴重な食糧ですから」


ーーならそんな面倒くさい事せずとも、ソフィアが運んでやれば良いじゃろう?


「私が? そんなの無理無理」


 あんな大量のお肉を、私一人でどうやって運べと言うの? 相変わらず無茶を言う。


ーー何を言うて? お主はアイテムボックスを持ってをるではないか! もしや存在を忘れておるんじゃ……。


物凄く残念そうに私を見る精霊王様。ちょっ?!あなたにそんな目で見られる覚えはないですよ?


それにアイテムボックス?!…………そんなの……


「……ああっ!」


ーーひょっ! 急に大声出すでない! びっくりするじゃろ。


「……すみません」


 興奮のあまり大声が出てしまった。


 そうだった、すっかり忘れてた。


 私、巻き戻る時に創造神様にチート能力の一つとして、アイテムボックスをお願いしてたんだった。

 全く使うこともないから、存在すら忘れてた!


「ちなみにあんなに大きな巨体をどうやってアイテムボックスに入れるの?」


ーーどうって小さな物を入れる時と同じでイメージじゃよ! あそこに見えるビックボアを袋に入れるイメージをするんじゃよ!


「イメージ? すっごい大きな袋で包むとか? むぅ難しいことを……」


 うーんっと。イメージだからあのビックボアを手で掴み大きな袋に入れるところを想像してみた。こんな感じかな?


 すると次の瞬間、ビックボアの死骸が全て姿を消した。


「ええ!?」


 ぜっ全部? 私はビックボア一体をアイテムボックスに入れたつもりだったんだけど……これってちょっと……何だろう。悪い事してないのに後ろめたい。

 額からじわりと嫌な汗が流れてくる。


 ピコン♪


 ビックボア百十四体収納しました。

 私の頭の中に謎の言葉が流れる。


 ちょっと待って! この展開はやばい様な気がする……。ビックボアが百体以上も入るアイテムボックスって……容量がおかし過ぎる。


 チラリと村の方を見ると、グレイさんが村人達を引き連れ意気揚々とこちらに向かって走ってくるのが見える。


 ええ……この事をなんて説明したら。


 私の異変に気づいたアイザック様が私をジッと見る。


「ソフィア? どうしたの? 様子が変だけど」


 私は無言でビックボアの死骸があった方を指した。


「んん? ビックボアがどうっ………って!! はぁ? 死骸が消えた!?」


 アイザック様は大慌てでビックボアの死骸があった場所に、走っていってしまった。


 ええと……この後どうしたら。何だろう……嫌な予感しかしないんだけど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る