第28話 逃避

「いいですよ、自分でどうにかしますから。 鍵はささってるんですか?」


 ルパンさんの話を遮る。


「・・・ 車にある、ダッシュボードの中や。 あそこまでどうやって行く気やねん?」


 そうだな。


「パイプ掴んで渡り廊下に降りて、向こうの校舎ならそんなにゾンビもいないんでダッシュでなんとかなるでしょ」


 ゾンビが集中してるのはこっちの校舎だ、向こうまで行ければ後は出たとこ勝負だな。


「さすが、さっきはどうやってとか言うてたけど。 自分も人が悪いな」


「1人ならどうにでもなりますよ、あの車そのままもらっていきますよ」


 適当に走ったらさっさと逃げよう。


「おう、あの車はな、鎖で門と繋がってんねん」


「はぁ?」


 どうすんだ?


 乗ったまま逃げれないんじゃ?


「まぁまぁ、あの車の役目は学校の周りが包囲された時に門を開ける用の車やねん。 考えてみ、門が倒されてあそこにあったら車で出れへんやろ?」


「あー、なるほど」


 マジでこの人は・・・


 一体、どこまで考えて手を打ってんだ?


「それでやな、あの車で門を開けてバスで逃げるっていう算段な訳や。 ま、せっかくのバスはまだ使われへんけどな。 あ、鎖は負荷が掛かったら切れるようになっとる。 問題は、その先の2台並べてあるトラックやな」


「あ」


 忘れてた。


 校門を出た先の道路はトラックで塞がれてるんだった。


 本当だ、俺はそのまま車で逃げれない。


「ほんまやったら、バスで逃げて右側のトラックを押して出る予定やったんやけど。 あのセダン車やったら無理や、トラックだけでもキツイのに、ゾンビが殺到してるせいでその重みもある。 押して通るんは出来ひん」


「別の道は?」


 正門から出れば左右にも道はある。


「もっと無理や、絶対ゾンビが通れんようにガッチリバリケードがしてあるからな」


「どうすりゃいいんです?」


「セダン車で門をどけてからバスに乗り換えるんがベストやねんけどな」


 出来るか?


 乗り換えは、校庭を走り回ってゾンビを端に誘導。


 それが出来たら一気にバスに近づいて車を降りてバスに乗ってエンジン掛けて・・・


 きついな。


 校庭って言っても広いけど、その作戦をするには狭い。


 ましてや、あのバスじゃ追いつかれたら窓ガラスを叩き割られてゾンビに車内に入られるじゃねーか?


「・・・ 無理じゃないですかね?」


「無理か」


 よく考えたらあのトラックの障害物があってこんだけここにゾンビがいるってことは、あの先は一体どんだけのゾンビがいるんだ?


「トラックはエンジンかからないんですか?」


「左は動かんな、右側のトラックなら動くかもしれん。 せやけど、下手したらここよりゾンビ多いかもしれへんで?」


 だよな、あのバリケードの近くで車からは降りれないだろう。


「そうですね、トラックって動かせるのはどういう仕掛けなんですか?」


「仕掛けって言うか、ニュートラルにして前に置いてある道塞ぐ障害物を台車に乗っけてるだけや」


 なるほど、だから押せば動くわけか。


 ん?


「障害物ってなにを置いてるんですか?」


「ブロック塀」


 それが台車に乗ってるわけか。


 校門の方を見る。


「見てください、ゾンビの列が切れてます」


 新たに入ってくるゾンビの行列はようやく終わりが見え始めている。


 だが。


 校舎内には一体どれだけの数がいるんだろうか、溢れるゾンビは校舎に群がり今では2階部分にまで達している。


 ゾンビがゾンビを踏み付けて登ってきている。


 すごい数だ、そりゃそうか。


 この小さな西和台という街だけでも人口は1万人近くいたはずだ、そこへ少しずつ、音と匂いでゾンビが集まっていたとしたら適当に考えても今ここには2万近いゾンビが集まっているだろう。


 ルパンさん達がコツコツとゾンビを殺していても、集まってくる数の方が多い。


 なんせ日本列島、ゾンビで溢れているのだ。


 コイツらを振り切ってトラックまで車で走り、トラックで逃げれば勝機ありかな?


 もしもトラック周りにゾンビがいたら追ってきたゾンビに囲まれて絶対に死ぬな。


 ガバガバの作戦だ。


 最早、作戦とも言えない気がする。


「ゾンビの列が切れてるからってどうするつもりや?」


「どうにかしますよ」


 予定を立てる方がアホらしい気がしてきた、出たとこ勝負で行こう。


 屋上の端へ行き、雨樋を掴んで揺さぶる。


 しっかりしている、これなら俺の体重も支えてくれるだろう。


「じゃ、行きますね。 タイミング測ったりとか無理なんでルパンさんがこっちに合わせて下さいよ」


 まぁ、車でチョロっと校庭を走り回ったら俺は逃げる。


 後は知ったこっちゃない。


「勿論や。 悪いなタケシ、来たばっかりのお前にこんな危ない橋頼んで」


「一食の恩って事にしときます」


「最後の晩餐にしてはちょっと気が引けるな、生きて再開出来たらもっと美味いもん食わしたるわ」


 俺は肩をすくめた。


「そりゃ楽しみですね」


 屋上の縁に手をかけて雨樋の壁との連結部分に足をかける。


 キツイが降りれないこともないな。


「おい、タケシ。 死ぬなよ」


「生きろ」の次は「死ぬな」か。


 同じ意味でも聞こえ方が随分違うもんだな。


 また肩を竦めるだけで返事らしい返事を返さずに雨樋を伝って降りていく。


 渡り廊下に足を下ろした。


 屋上から3階へ、2階分ゾンビに近ずいた分、臭いと気配が濃くなった。


 ほんとくせぇな、表情が勝手に歪む。


 ゆっくりとドアノブを回す。


 キィっと嫌な金属音がかすかにする。


 そっと開く、扉の隙間から見る限り暗闇の中にゾンビは見当たらない。


 体が通れる程度に扉を開いて入る。


 そっと扉を閉じると外のゾンビの唸り声が少し遠くなった。


 ため息をつきつつ、気配を殺して廊下の暗闇に足を踏み入れた。


 今日も長い夜になりそうだ・・・

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