第23話 これくらいの甲冑があればいいのに

「あー、ところでタケシ君。 校内は回ったんだよね? ルパンさんの仕掛けは見た?」


 重い沈黙を破ったのはMr.いたんですか? の、相田ハヤトだった。


「相田さん、いたんですか」


「え、酷くないタケシ君」


 適当にいじってみたが中々いい反応をする。


「ぶほっ」


 ルパンさんが味噌汁を吹いた。


「汚ったないなルパンさん」


「味噌汁飲んどる時にしょうもない事言うからや」


「ポロッと」


「さっきからポロッとしすぎやバカタレ! 疲れるやっちゃな」


 確かに、気をつけよう。


「さっきのは本当にポロッとだったんですよ、あんなオッサンに喧嘩売ってボコッてもつまんないし」


「え? 僕の方のポロッとは確信犯なの?」


 相田ハヤトはいじられ慣れているようだ。


「顔に書いてあったわ「あ、心の声出ちゃった」ってな。 どんだけゴタゴタ慣れしてんねん、恐ろしいやっちゃで」


 相田ハヤトを無視してルパンさんが喋る。


「いや本当に、勝手に口から出ちゃって。 僕もビックリしましたよ」


「お前がびっくりしてどないすんねん。 桂さんもそら「舐め腐った目」って言いよるわ、タケシ完全に馬鹿にした目で見てたもんな」


 あんな尊敬できる箇所が皆無なオッサン相手にヨイショ出来るほど俺は社会経験がない。


 ってか、社会に出る前に社会が崩壊したしな。


「ちょっと」


 ほっとかれてる相田ハヤト。


「そうですかね? 年上は敬うようにしてるんですけど」


 年上の相田ハヤトを無視して続ける。


「棒読みやがな、棒読みやがな」


「なんで2回言うんですか?」


「大事な事は2回言わな」


「無視しないでくださいよ」


「おったんかいなハヤト」


 まるで今気づいたみたいな顔をするルパンさん。


「はははっ」


「酷いな2人とも」


 いじられ慣れているのか、相田ハヤトは笑顔だ。


「すまんすまん、お前のおかげで重い空気が和んだわ」


「いじり方が酷いですよ、もうイジメじゃないですか」


「何言ってんねんハヤト、俺の愛が伝わらんのか? 俺はこんなにハヤトを想ってんのに。 いじりに愛はあるけどイジメに愛はないんやで」


 いい事言ったみたいな顔だ。


「ちょっと何言ってるか分からないですけど」


「そうかな? ちなみにタケシが俺の作った仕掛けをどう思ったか知りたいな、外でゾンビ相手に生きてきたタケシから見てどうやった?」


 相田ハヤトの質問をさも自分の物のように言うルパンさん。


 途中ではぐらかされた感じのある相田ハヤトは腑に落ちない顔をしているが聞く体制に変わった。


 感想か、あんまり飯食いながらしたい話じゃないな。


「そうですね、仕掛けはルパンさんがだいたい考えてるんですよね?」


「おお、ほぼ俺や」


 なるほどね。


「ルパンさんって、ゾンビが来る前提で対策してますよね」


「・・・ なんで?」


 ルパンさんが嬉しそうな顔になる。


「いや、ゾンビを避ける仕掛けよりも殺す仕掛けがめちゃくちゃ多いと思って」


 なんでこんなに嬉しそうな顔してんだこの人。


「それに、仕掛けやら装備やらと色々驚いたんですけど。 どうやって半年と少しの間にこんなに出来たんですか? それに1番驚きましたね」


「それは、人海戦術としか言いようないけど」


 この人数でこんだけ作るのはきつくないか?


「いや、本当にルパンは人使いが荒い」


 向かいに座っていたオッサンが食い気味に話しかけてきた。


 さっきまでのやり取りも面白そうに聞いていた、揉め事の時は我関せずという顔で食事を続けていたのが目に付いた。


「このおっちゃんは武器屋のオヤジや、ブキジって呼んだれ」


 嬉しそうにルパンさんが紹介する、紹介された方は迷惑そうな顔だ。


「つまらん名前付けるな、俺がスベったみたいになるわ」


 ブキジと呼ばれたオジサンは苦い顔で返す。


「元々おもろい事言うタイプちゃうからかまへんやん」


「お前は、もういい。 マトモに話してるのが馬鹿らしくなってきた。 俺は武器とか作るの担当なんやけどな、この半年で何百個スリングショット作ったか分からんよ」


 ルパンさんを諦めて俺に向き直って喋るブキジさん。


「あー、あのパチンコですか」


「パチンコちゃう、スリングショット」


 ルパンさんの訂正が入った。


 そんなに大事か? そこ。


「あれの矢は何で作ってるんですか? 大量にありますけど」


「自転車のスポークだよ、沢山手に入るし、加工も簡単だしね」


 なるほど、賢いな。


「車の改造もブキジさんの担当ですか?」


「お、アレも見たんか。 まだ完成してないけど、完成したら移動式のゾンビ大量破壊兵器の出来上がりや」


 ルパンさんが食い気味に答える。


 ルパンさんは賢いけど馬鹿っぽいのが玉に瑕かもしれない。


「俺は元々は鉄工所で働いてたから、溶接は得意なんよ」


「じゃあ、渡り廊下の閂もブキジさんが付けたんですか?」


「そう、ブキジとか呼んでるクセになんでもかんでもやらせるんよ。 この前なんか「鎧作ってくれ」とか言い出して」


 ヨロイ、鎧か。


「アリですね」


 一ノ瀬さんとの会話を思い出した。


 確かに鎧ならいくらゾンビに囲まれても怖くない、時間をかけて確実に殲滅できそうだ。


「話が分かるなタケシ君」


「和風じゃなくて西洋風の鎧がいいんじゃないですか?」


「無理やって、作るより探した方が早い」


 ブキジさんが顔の前で手を振る。


「探すかー」


 ブキジさんの言葉に西洋の全身甲冑なんてどこに行けばあるんだろう?


 そんな事を真面目に考える。


 博物館?


 いや、無いな。


 見た記憶がない、テレビを見ていてドラマに富豪の家の客間に飾ってあったのを見たくらいの記憶しかない。


「はははっ」


「何を急に笑ってんねんタケシ」


 吹き出した俺を見てルパンさんが変な物を見る目で俺を見る。


「いや、一生懸命に全身甲冑がありそうな場所を思い出そうって頑張ってるのがなんか可笑しくなって」


 俺の言葉にルパンさんとブキジさん、相田ハヤトが顔を見合わせて笑った。


「確かに、考えたらシュールやな。 甲冑があれば便利なのにって思う日がくるとはな」


 そう言って机を叩いて笑うルパンさんに続いてブキジさんもよく笑った。


 相田ハヤトはそれに続くように笑った。


 終末世界で一変した常識を目の当たりにし、それを可笑しくも思い、どこか鬱屈した気分を晴らすように笑った。

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