第22話 揉め事を起こす人間はまた揉め事を起こす

 空気が一気に張り詰めた、喧嘩を買うつもりはなかったがこうなったらこっちも引く気は無い。


 睨んでくるオッサンを睨むでもなく見つめ返す。


 顔に傷は無いし格闘技をやっていたような特徴もない、雰囲気もない。


 なんでこんなに鼻息荒いんだ?


 このオッサン。


「なんや、上等な口きいたわりにビビってんのか糞ガキ!」


 目の前まで来て凄んでくる。


 面倒くさいな、どうやってあしらおうか。


「ふざけんなよお前!」


 桂のオッサンの隣に座ってたオッサンまで便乗してきた、ふざけてるって何をだ?


「黙ってんとなんとか言えや!」


 さらに声を上げる桂のオッサン、でかい声出したら勝ちとでも思ってんのかな?


 あぁ、面倒くさい。


 いっそボコして解決してやろうか。


 それが1番手っ取り早い。


「まぁまぁ、桂も煽ったとこあるしやめとけって」


 立ち上がろうとした時、間にルパンさんが入る。


「さっきからコイツの目がムカつくんじゃ! 舐め腐った目ぇしよって!」


 おっと、目が口ほどに物を言っていたか。


 確かにアンタを舐め腐っていたのは認めよう。


「リーダーヅラすんなや! 誰もお前なんか認めてへんからな!」


 便乗オヤジが何故か矛先をルパンさんに向けた。


「そんなつもり無いよ、この場を納めたいだけやんか」


 まあまあとルパンさんが手でせいする。


「すっこんどれ!」


「いや、えぇ、ここはルパンに免じて許したるわ」


 便乗オヤジの肩をおさえて桂のオッサンが大物オーラを醸し出す。


 いや、ないけど。


「悪かったな桂さん、埋め合わせするから」


 片手でルパンさんがゴメンのポーズをとる。


「おぉ、せやけど、次は無いからな糞ガキ!」


 もう1人のオッサンも俺を睨みながら舌打ち混じりに去っていった。


 去っていったのは3人、最初から座っていたもう1人のオッサンは何食わぬ顔で食事を続けている。


「ふぅ、いやいや、タケシいきなり喧嘩売るからビックリしたわ」


 大きくため息をついてルパンさんが椅子に戻る。


「すみません、心の声が漏れちゃいました」


 てへぺろっと舌を出す。


「えぇー、自分、最初会った時とどんどんキャラ変わるやん。 しんどいわ」


 ルパンさんが背もたれに体を預けて仰け反る。


「増田ってそんな感じですよ、あんまり人と関わらないんですけど、何回か学校で喧嘩して相手をボコボコにして素知らぬ顔して授業受けてるの見たことあります」


 池田アカネがルパンさんに話す、目の前でゴタゴタがあった割には落ち着いた顔をしてるな。


 隣で池田ミカンは青い顔をしているのに。


「タケシちゃん、血の気が多いのはアカンで。 ただでさえせせこましい所で身ぃ寄せあって暮らしてんのに」


 ルパンさんが疲れた顔で額を掻いている。


「すみません、気をつけます」


 平謝りする俺の顔を見てまたルパンさんが「はぁ」とため息をついた。


「まぁ、言うてもアイツらが悪いからな。 来る前にも言うたけど、ここに閉じこもって皆イライラしてるから、多少は我慢したってや」


 アイツらはあまり我慢してる感じはしなかった、随分と顔色を伺うんだな。


 面倒なのか、引け腰なのか。


「気をつけます」


「すまんな」


 俺ならああいう手合いの連中は殴って言うことを聞かせたくなるんだけどな。


 人を束ねるってのは大変なんだろう、外にいる時とここにいる時ではルパンさんの顔に覇気が無いような気がする。


 人をまとめるのにそんなに顔色ばっかり伺ってて疲れないんだろうか?


 ルパンさんは人の上に立つようなタイプじゃないのかもしれないな。


「ルパンさん、来て早々に問題を起こす人間は好ましく無いですね」


 遠巻きに見ていた柳ナントカがやって来た、ゴタゴタが収まってから来るとか・・・


 コイツにはそもそもリーダーの資格がない。


 リーダーってのはゴタゴタが起こった時こそ必要なもんだ。


「柳さん、今の悶着は桂さんらが悪いよ。 タケシは悪ぅない」


 少し面倒くさそうにルパンさんが言い返す。


「そうだとしてもだ、揉め事を起こす人は繰り返し起こす。 もしここに置いとくならしっかりと教育しといて貰わないと」


 揉め事を起こす奴は繰り返し起こすか、的は射てるな。


 確かに俺は揉め事をよく起こしやすい。


 俺にその気はなくても向こうからゴタゴタがやってくる、困ったもんだ。


「ソレは今タケシに言うたとこや、柳さんも聞こえとったやろ?」


「付け加えて言っておきたい、今日来たもう1人の女性に関しても聞きたいんですけど。 彼女はここへ夕飯には誘ったんでしょうか?」


「誘ったけど?」


「来ないという事は理由はどうあれこちらの好意を遠慮したという事ですから、やはり、集団行動には不適格と思われます。 できる限りは避難民は歓迎したいところですが、和を乱す方は歓迎出来かねますよ」


 ネチネチネチネチ、きらいだなー。


「分かった、せやけど、外は女の子が1人で生きていくには辛いんは分かるやろ? 柳さん、あの子はまだ10代や。 大人が護ったらなアカンし、辛い時は支えたらなアカン。 ちょっと和を乱すからて追い出すんわダメやろ? 彼女がこっから出ていくなら彼女がここに居たくないて自分から出ていく時や」


 分かったと言いつつ譲歩する気の無さそうなルパンさんと柳ナントカがしばし見つめ合う。


 ルパンさんもかなり辛抱強い人だな、尊敬できる。


「はぁ、分かりました。 いる間は仮でもルールと和を大事にするように言っておいて下さい。 グループが内側から瓦解するなんて間抜けな事にならないようにね」


「分かった、心配かけて悪いな」


「いいんです、貴方にはいつもお世話になってますからね」


 顔は世話をしてやってるってツラに見えるけどな。


 つかつかと歩いて柳ナントカは席に戻った。


「はぁ」とため息をついてルパンさんが箸を動かした。


「それじゃあ、私達は」


 居心地が悪かったのか池田ミカンと池田アカネが食器を持って立ち上がり、去っていった。


 目の前に置かれた、せっかくの飯がすっかり冷めている。

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